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2013年

腫瘍用人工膝関節置換術後患者の歩行速度増大に伴う下肢関節の運動学・運動力学的変化

日本理学療法学術大会
  • 沖田 祐介
  • ,
  • 立松 典篤
  • ,
  • 永井 宏達
  • ,
  • 中山 富貴
  • ,
  • 仲俣 岳晴
  • ,
  • 岡本 健
  • ,
  • 戸口田 淳也
  • ,
  • 市橋 則明
  • ,
  • 坪山 直生

2012
開始ページ
48101095
終了ページ
48101095
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2012.0.48101095.0

【はじめに、目的】腫瘍用人工膝関節置換術は膝周囲に発生した骨腫瘍を切除した後に最も多く用いられる機能再建術の一つである。人工関節の破損などによる早期の再置換を防ぐため、患者は術後に長距離の歩行や重量物の運搬を避けるなどの関節保護を指導されることが多い。しかし、日常生活では信号の横断など、歩行速度を上げざるを得ない場面も想定される。歩行速度増大時には下肢に通常よりも大きな負荷がかかると考えられるが、腫瘍用人工膝関節置換術後患者の場合、患側と健側で非対称な運動の変化が予想される。腫瘍用人工膝関節置換術は若年者にも施行されることが多く長期の経過を辿ることがあるため、関節保護の観点からも歩行速度増大に伴う身体負荷の変化を知ることは有用である。本研究では三次元動作解析装置を用いた歩行解析により、腫瘍用膝関節置換術後患者が歩行速度を上げた場合の下肢関節の運動学的変化・運動力学的変化を検討した。【方法】対象は補助具なしでの歩行が可能な腫瘍用人工膝関節置換術後患者8名(男性:女性=6:2、以下平均(標準偏差)―年齢:30 (12.5) 歳、身長:1.68 (7.0) cm、体重:60 (20) kg)とした。歩行計測では三次元動作解析装置(VICON MX、VICON社) と2枚の床反力計 (9286A、Kistler社) を用いて6mの歩行路上での歩行を計測した。患者の自由速度での歩行(自由歩行)とやや急いだ速度での歩行(速歩)をそれぞれ5試行計測し、各試行の両側の1歩行周期から歩行速度と患側・術側の床反力前後・垂直分力、矢状面上での股・膝・足関節角度、内的関節モーメント、関節パワーを算出した。比較には各対象者の5試行の平均値を用い、力が関係する値は体重で除して正規化した。解析では、歩行の変数(例:立脚期の股関節最大屈曲角度)の歩行速度による変化を、対応のあるt検定を用いて評価した。一つの変数に対し患側、健側でそれぞれ1回ずつ、計2回の検定を行うため、有意水準はBonferroni補正を用いてp<0.025とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の測定内容は研究機関の倫理委員会の承諾を受けており、対象には研究の内容を説明した上で、書面による同意を得た。【結果】歩行速度は自由歩行で1.21 (0.14)m/sec、速歩で1.65 (0.22)m/secであった。床反力前後分力減速方向最大値、加速方向最大値、同垂直分力立脚期前半最大値が、患側・健側ともに自由歩行に比べ速歩で有意に増大した(それぞれ患側p=.005、p=.002、p=.007、健側p<.001、p<.001、p=.002)。一方、床反力垂直成分の立脚期後半の最大値は健側のみ速歩で有意に増大し(p=0.008)、患側では増大傾向が見られなかった (p=.95)。股関節では立脚期の最大屈曲角度は両側とも(患側p=.001、健側p<.001)、最大伸展角度は健側でのみ速歩で有意に増大し(患側p=.25、健側p=.003)、立脚期の最大伸展・屈曲モーメントは両側ともに速歩で増大した(それぞれ患側p=.002、p=.01、健側p=.02、p=.002)。立脚期中の股関節の最大正パワー(立脚期前半の股関節伸展筋の求心性収縮を反映)は患側のみ速歩で有意に増大し(患側p<.001、健側p=.10)、最大負パワー(立脚期後半の股屈曲筋の遠心性収縮を反映)は両側とも速歩で有意に増大した(患側p=.007、健側p=.003)。膝関節では立脚期前半の最大屈曲角度が健側でのみ速歩で増大した(患側p=0.15、健側p=.002)。足関節では立脚後期の底屈モーメントが健側でのみ速歩で有意に増大し (患側p=.37、健側p=.02)、足関節の最大正パワー(立脚後期の足底屈筋の求心性収縮を反映)も健側のみ速歩で有意に増大した(患側p=.21、健側p=.002)。【考察】腫瘍用人工膝関節置換術後患者が歩行速度を増大させた際に見られる非対称的な特徴としては、患側接地後の股関節のパワー増大・健側立脚後期の足底屈モーメントの増大が挙げられた。立脚期前半の患側股関節パワー増大には特に殿筋群が、立脚後期の健側足底屈モーメント増大には下腿三頭筋が関係していると推測される。患側では歩行速度増大に伴う立脚期前半の膝屈曲運動に伴う関節モーメントの増減や仕事が少ないため、これを患側股伸展筋が補っている可能性が考えられる。また、立脚後期の股関節負パワーは患側でも増大しており、患肢でも股屈曲筋や靱帯等での股関節伸展制動機能が働いているものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】下肢関節に障害のある者が歩行速度を変化させる際にどのような力学的戦略をとるかを知ることで、必要に応じて効率的に歩行速度を増大させるためのトレーニングの指導や、逆に歩行速度を上げないことで下肢のどの部位の負担を軽減しやすいのかを考慮することが可能である。本研究の結果より、患者の歩行速度を変化させる時には患側股屈伸筋と健側足底屈筋に着目するとよいと考えられた。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2012.0.48101095.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004585426
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2012.0.48101095.0
  • CiNii Articles ID : 130004585426

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