書物史の観点から近世英国の書物と社会、書物と人間の関係の考察を進めるため、複数の側面から著者・書籍商・読者の関わりの分析を試みた。特に注目して取り組んだ事項は、18世紀英国の書籍商Todd and Sotheranと、書物の流通に関してである。Todd and Sotheran独自の出版物を調査するほか、とくに小説家Laurence Sterneの蔵書を販売するために彼らが作成したカタログを分析することによって、当時の書物文化の一端を解明しようと試みた。これについては「Laurence Sterneの蔵書カタログにおける書籍商の方略」というタイトルの論文にまとめて発表した。書物の受容に関しては、17世紀好古学者Francis Sandfordによる1677年の著作 A Genealogical History of the Kings of England を入手し、書物の背景となる事項（歴史的観点から見る出版の経緯、本書籍の所有者の追跡）などを分析した。これについてはまもなく予定されている研究集会において"Francis Sandford and his Genealogical History"という題目で口頭発表を行い、その後論文として発表する計画である。16世紀から18世紀までの英国書物史の諸事情については、国際的視野から見たときの本研究の妥当性を確認することを常に意識しながら、海外研究協力者と定期的にEメールで連絡を取り意見交換しながら研究を進めている。