2008年4月
セルオートマトン法による避難流動のシミュレーション
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌
- ,
- 巻
- 51
- 号
- 開始ページ
- 94
- 終了ページ
- 111
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
- DOI
- 10.15807/torsj.51.94
- 出版者・発行元
- 公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
本稿では,マルチエージェントセルオートマトン法を用いたシミュレータを作成し,自然で現実的な避難流動を創発させる.歩行者は,認知範囲内の様々な情報を自律的に処理し,ムーアー近傍中の各セルを評価した後に移動先セルを決定する.このような情報には,その領域中の様々な流れの向き,障害物,出口への標識,出口への最短経路,煙の拡散などが含まれる.これらの情報は,向きを持ちベクトルとして定式化できることから情報ベクトルと呼ぶ.本稿のシミュレーションモデルでは,2つのタイプのエージェントが考慮される.リーダーエージェントは,出口への最短経路情報を持ち,非リーダーエージェントを誘導する.非リーダーエージェントは,認知領域内の歩行者の流動方向と自らの慣性に依存しながら移動する.慣性は,現状の移動方向を保持しようとする力であり,やはり情報ベクトルとして定式化される.ムーアー近傍中の各セルは,歩行者の現在位置からそのセルに向かうベクトルと情報ベクトルとのズレによって評価する.我々は,歩行者は情報ベクトルを担うもの(例えば,標識のある場所)に直接向かうのではなく,情報ベクトルが示す向きに即して移動しようとする,と考える.2つのベクトル間のずれを用いるという簡明で統一的なアプローチにより,典型的で容易に了解することが出来る現実的な避難流動が創発させられる.このことによって,本稿のシミュレーターが将来におけるより洗練されたシミュレーター作成の出発点になり得ることが分かる.また本シミュレーターは,数理的手法の適用が困難である相互依存的かつ自律的に動く多数のものが創発させる複雑現象への意思決定の重要なツールになり得る.
- リンク情報
- ID情報
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- DOI : 10.15807/torsj.51.94
- ISSN : 0453-4514
- CiNii Articles ID : 110007007980
- CiNii Books ID : AA11998080