共同研究・競争的資金等の研究課題

2017年4月 - 2020年3月

レチフ・ド・ラ・ブルトンヌと〈近代文学〉の生成

日本学術振興会  科学研究費助成事業 基盤研究(C)  基盤研究(C)

課題番号
17K02591
体系的課題番号
JP17K02591
配分額
(総額)
4,290,000円
(直接経費)
3,300,000円
(間接経費)
990,000円

本研究は、農民出身で印刷工の修行を積んだのちに作家となったレチフ・ド・ラ・ブルトンヌを中軸にすえて、文学とモデルニテの関係を再考することを目的としている。2018年度は書簡体小説について資料の読解を進めるとともに、計画書の課題③「自伝とフィクション」について研究を進めた。レチフはルソーの『告白』に張り合うようにして自伝作品『ムッシュー・ニコラ』を執筆した。ルソー的な誠実で網羅的な真実の語りを前面に押し出すこの作品は、しかし事実だけでなくフィクションも含む。1775年の出世作『堕落農民』が典型的に示しているように、レチフは自分の半生を素材としつつもそれを自在に「変奏」することで作品を書いていた。こうした「自伝とフィクション」の混淆は多作の売文家のデタラメなのか、それともそこにはなんらかの意義があるのか──これが問いである。すでに既発表論文において、これを「別バージョンの人生の創造」と読み解いたが、本研究においては、18世紀文学に見られる「農民物」とその関連諸作品を実際に繙くことで新たな観点から考察を試みた。レチフが『堕落農民』を書いたとき、先行作品としてマリヴォーの『成り上がり農民』や『マリアンヌの生涯』、ムーイの『成り上がり農民娘』、マリー=アンヌ・ロベールの『哲学者農民娘』等の農民物がすでに存在していた。レチフは「成り上がり」という社会上昇と有徳性のテーマを「堕落」へと反転させ、上昇の不可能性と悪徳のテーマを前景化させたが、なによりも先行作品の著者たちとは異なり、彼自身が農民出身であったために、すでに豊かな作例を持っていた農民物というジャンルと彼自身の人生とが直接結びつくことが可能になった。レチフはこうして自己の人生を出発点としながら(自伝性)、それを既存の文学ジャンルが開いた様々な物語にならって「変奏=フィクション化」することができるようになったのである。

リンク情報
KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-17K02591
ID情報
  • 課題番号 : 17K02591
  • 体系的課題番号 : JP17K02591