共同研究・競争的資金等の研究課題

2019年4月 - 2023年3月

近代揺籃期における教育関連語彙の翻訳と受容に関する歴史研究

日本学術振興会  科学研究費助成事業 基盤研究(C)  基盤研究(C)

課題番号
19K02494
体系的課題番号
JP19K02494
担当区分
研究代表者
配分額
(総額)
2,990,000円
(直接経費)
2,300,000円
(間接経費)
690,000円

前年度までのeducatioに関する研究展開を踏まえ、2021年度は、教育言説を領導してきたもう一つの語彙、disciplinaの用例に焦点を当て、中世以来、この語がどのような語義と用法を担ってきたのかを解明することに従事した。
『ディダスカリコン』で知られるサン・ヴィクトルのフーゴーは、修道士見習い向けの振る舞い指南書、『修錬者の教導』を著している。本史料は修錬者の態度、話し方や立ち居振舞い、衣食といった日常生活の隅々にわたって、いかに振舞うべきかについて詳細に扱った文献である。中世盛期を代表するdisciplinaの書と評される本史料は、「中世文明がeducationという観念をもたないでいた」というアリエス・テーゼに一石を投じる一方、本書を領導していた言葉はeducatioではなく、disciplinaであった点は注目に値する。2021年度は、本書の要石に据えられたdisciplinaに着目し、その語義・用法を古代ローマ喜劇からキケロ、セネカを経て、初期キリスト教における聖書翻訳、教父神学にまで遡り検証することにした。その上で、キリスト教的disciplinaを継承・発展させたフーゴーにおいて、disciplinaによって編成・継承された〈教導的なるもの(le pedagogique)〉がどのような視座の下にいかなる歴史的性格を有するのかについて検討した。
中世修道院において伝承されたdisciplinaの思想は、近代揺籃期の翻訳文化を経ることで、ギリシア語agogeの訳語を契機としてeducatioを〈榮養〉から〈教導〉へと転回させ、その語義を摺り換えるにいたる。そして修道院から学校へと教導の舞台を移しながら、近代教育学(pedagogy)を規定していく語彙基板を創出する。こうした〈教導的なるもの〉をめぐる語彙について基本的知見を新たに得ることができた。

リンク情報
KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-19K02494
ID情報
  • 課題番号 : 19K02494
  • 体系的課題番号 : JP19K02494

この研究課題の成果一覧

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