2016年
地域在住高齢者におけるサルコペニアと認知機能低下の縦断的関連性
理学療法学Supplement
- 巻
- 2015
- 号
- 開始ページ
- 1552
- 終了ページ
- 1552
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
- DOI
- 10.14900/cjpt.2015.1552
- 出版者・発行元
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
【はじめに,目的】高齢期におけるサルコペニア,認知機能低下は双方とも,要介護の一歩手前の状態を示す「フレイル」に関連する老年症候群として,その関連性の報告が近年増加している。また我々は,サルコペニアは認知機能低下よりもフレイル進行の早期に関連することを横断研究において明らかにした。つまり,サルコペニアが認知機能低下を助長し,フレイルが進行することが予想されるが,サルコペニアと認知機能低下の関係を縦断的に検証した研究はほとんど報告されていない。そこで本研究の目的は,地域在住高齢者のサルコペニアと認知機能について1年間の追跡調査を行い,サルコペニアが認知機能に与える影響を縦断的に検証することとした。【方法】対象は,ベースライン調査と1年後の追跡調査を実施可能であった,要介護認定を受けていない地域在住高齢者131名(74.1±4.8歳,男性50名,女性81名)とした(追跡率62.4%)。全ての対象者のベースライン時と1年後の基本情報聴取,運動・認知機能検査,身体組成計測を行った。認知機能検査はMini-Mental State Examination(MMSE)を測定した。また,生体電気インピーダンス法により計測した四肢筋量を身長の二乗で補正したSkeletal Muscle mass Index(SMI)を算出した。そして,Asian Working Group for Sarcopeniaのアルゴリズムに従い,SMI,歩行速度,握力から「サルコペニア」を定義した。統計解析としては,ベースライン時のサルコペニア有症者と非有症者の1年間のMMSE変化率の群間比較を行った。さらに,ベースライン時のサルコペニア該当の有無と測定時期の2要因とし,従属変数にはMMSEを,共変量に年齢,性別,BMI,ベースライン時のMMSEを投入した分割プロット共分散分析を行い,サルコペニアが1年後の認知機能に与える影響を検討した。【結果】対象者131名のうち,ベースライン時のサルコペニア有症者は10名(7.6%)であった。サルコペニア有症者の1年間のMMSE変化率は-5.9±5.2%,非有症者は-0.3±8.4%であり,MMSE変化率に有意な差を認めた(p=0.02)。さらに共分散分析の結果,ベースライン時のサルコペニア有症者は1年後のMMSEが有意に低下することを示す交互作用が認められた(F=10.1,p<0.01)。【結論】本研究の縦断的検証の結果,サルコペニアはその後の認知機能低下を助長する因子となることが明らかとなった。この結果は,認知機能低下抑制のためにも早期からサルコペニア予防へアプローチすることの重要性を示しており,予防理学療法学分野においてフレイルの予防戦略を検討する上で非常に有意義であると考える。今後は,これらの関連性が将来的なフレイル,要介護状態に影響するのか否かを大規模かつ長期的に調査する必要がある。
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- DOI : 10.14900/cjpt.2015.1552
- CiNii Articles ID : 130005418551