2020年3月
マルグリット・デュラス 声の〈幻前〉—小説・戯曲・映画
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- 担当区分
- 単著
- 出版者・発行元
- 水声社
- 記述言語
- 日本語
- 著書種別
- 学術書
作家マルグリット・デュラスは一時、熱心に映画制作に取り組んでいた時期があった。代表作はほぼ70年代に集中している。この時期執筆業でスランプに陥っていた作家は、映画制作を通じて、「声」という問題に関心を抱く。声の存在は、74年制作の映画『インディア・ソング』(同名のテクストは1973年に刊行)において、明白な形で提示されていると言える。Voix1 とVoix2と呼ばれる女たちの声は、「物語の外にある声」(『インディア・ソング』)として、語りの位相を広げている。さらに76年には、『インディア・ソング』の音声をロス・チャイルド邸のイメージにかぶせた映画『ヴェネツィア時代の彼女の名前』が制作され、70年代はまさにデュラスが映画からテクストへ、あるいはテクストから映画へと2つの表現形式を横断した時期と言える。1979年に刊行された『船舶ナイト号』は、映画制作を通して新たな「語り」の位相を発見した作家が、「語りの声」をエクリチュールを介して現前化しようと試みた作品ではないか。電話という手段によって互いへの思いを募らせる見知らぬ男女が最終的に辿り着くのは、「声」そのものの存在である。本論では、映画制作を通じて、作家デュラスが声の問題をエクリチュールの問いに置き換えていったことを明らかにしている。