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2015年8月 - 2015年8月

津波被災地における水産経済の再建に関する地理学的研究 ―水産業の連関構造に注目して―


本研究の目的は,津波被災地における水産経済の回復段階を詳細に解明し,復旧さらには復興の阻害要因を水産業の連関構造をふまえて実証的に明らかにすることである。
東日本大震災によって甚大な被害を被った三陸沿岸は世界三大漁場の一つであり,わが国の水産業にとって重要な地域である。とりわけ特定第三種漁港に指定され,かつ大きな被害を受けた気仙沼漁港,石巻漁港,塩釜漁港は,冷凍や高次加工において周辺の小漁港を含めた拠点である。これら漁港の水産業の地域的特色を俯瞰すれば,気仙沼漁港はカツオ/サンマ,フカヒレといった最終製品向け加工が卓越するのに対し,石巻漁港はサバ/アジの水揚げが多く,加工形態も低次加工/冷凍加工やフィッシュミール・魚油が主要な品目に入る。さらに,気仙沼・石巻漁港は冷凍加工や最終製品加工が主業なのに対し,塩釜漁港は生マグロを中心とする生鮮出荷が多いという特徴を有する。
このように同じ特定第三種漁港でありながら,その漁獲種構成および流通,加工形態によって,地域における水産業の様相は異なり,地域ごとに目指すべき方向性や水産経済の復旧および復興への課題は異なる。したがって,早急および着実な水産経済の再建を展望するためには次の2点が重要である。第一は多様な経営体によって構成され,裾野が広い水産業の地域構造を一体的に把握することである。第二は水産業の地域構造を地域間で比較し,水産経済の再建に関する課題を地域構造に由来する地域的課題,産業構造に由来する産業的課題に整理,分析することである。上述の分析を通じて,本研究は津波被災地における水産経済の再建に寄与することを目的とする。