2019年4月 - 2023年3月
フランス19世紀文学におけるヘテロトピア
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
フランス19世紀文学の中でヘテロトピアとみなせる場所とその特性について広く調査を進めると同時に、特に重要と思われる作品について詳細な分析を行った。特にバルザックの『人間喜劇』において、街路と屋内の間にありやや見過ごされてきた庭という空間が他と異なる時間性をはらみながら周囲と異なる空間となる場合について、『二人の若妻の手記』、『三十女』、『ウージェニー・グランデ』、『モデスト・ミニョン』、『偽りの愛人』などを読み解きつつ解析した。温室や地図、鏡といった装置を介して、室内や庭がすぐれてヘテロトピア的な空間である船と切り結ぶ関係を論ずることで、『人間喜劇』がそのさまざまな<情景>と同じ現実性をもって描くことのできない外洋や異国、現実から遠ざかる時間などと私生活の情景の隠れた関係が理解された。またフーコーがヘテロトピアの属性として挙げていた、同じかたちをとり続けるヘテロトピアは存在しないこと、ヘテロトピアが周囲の空間とつながったりそこから切り離されたりする独特なシステムを持っていることなどは、想像力や情報の流れと結びついて小説を展開する要素となることがわかった。
続いてジョルジュ・サンドの小説『アントニア』や『アンドレ』において庭や「離れ」の役割を検討し、窓や境界の機能を詳細に把握することを試みた。さまざまな庭の形態とそれが表現する時代の断絶、庭に埋め込まれた多様な感覚的要素や文学的記憶が生む「異空間性」などについても論じた。「並置」「隣接」という概念を問い直すことで、並んでいたり隣り合っていたりする空間の異質性についてより正確な把握が可能になった。特に「隣接」が「併置」にとどまらず、比較しあったり境界線を共有しあったりしてその違いが透かし合わされるとき、小説的な空間の詩情の生成や再現が可能になることを明らかにできたと考える。
続いてジョルジュ・サンドの小説『アントニア』や『アンドレ』において庭や「離れ」の役割を検討し、窓や境界の機能を詳細に把握することを試みた。さまざまな庭の形態とそれが表現する時代の断絶、庭に埋め込まれた多様な感覚的要素や文学的記憶が生む「異空間性」などについても論じた。「並置」「隣接」という概念を問い直すことで、並んでいたり隣り合っていたりする空間の異質性についてより正確な把握が可能になった。特に「隣接」が「併置」にとどまらず、比較しあったり境界線を共有しあったりしてその違いが透かし合わされるとき、小説的な空間の詩情の生成や再現が可能になることを明らかにできたと考える。
- ID情報
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- 課題番号 : 19K00505
- 体系的課題番号 : JP19K00505
この研究課題の成果一覧
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論文
2-
L'Année balzacienne(ラネ・バルザシエンヌ) 23 161-174 2022年12月 査読有り招待有り
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仏語仏文学研究(東京大学フランス語フランス文学研究室) 55(中地義和先生退官記念号) 127-150 2022年5月 査読有り
講演・口頭発表等
3-
東京バルザック研究会 2023年12月9日
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第112回関西バルザック研究会 2021年12月25日 招待有り
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国際シンポジウム<共作するバルザック> 2021年6月10日 招待有り