共同研究・競争的資金等の研究課題

2018年4月 - 2021年3月

現代の社会思想における情動の意義の精神分析思想による解明

日本学術振興会  科学研究費助成事業 基盤研究(C)  基盤研究(C)

課題番号
18K00104
配分額
(総額)
1,690,000円
(直接経費)
1,300,000円
(間接経費)
390,000円

2018年度は主に二つの観点から研究を進めることができた。
第一に1970年代以降のラカン、およびラカン以後の精神分析について、社会背景や思想史的文脈を踏まえつつ、その意義について確認する研究を実施した。そこではまず、68年5月をひとつの転回点として、いくつかの面から、包摂的な制度パラダイムの展開が生じてきたことが確認された。これは次の三つの一般化の傾向として記述できる。1)大学制度の内部での知的主体性の規格化。2)普遍的資本主義のもとでの享楽疎外の(フェティシズム的)全面化。3)メンタルヘルス体制の敷設に伴う「危険」の統治の一般化。以上の兆しが70年代初頭にすでに問題となったことに対して、ラカンの理論的応答としては、享楽の男性論理と女性論理の区別が重要である。これにもとづけば、70年代の包摂的体制は、排除を是としつつ全体を確保することによって二律背反をそれとして可能ならしめる男性論理が、一般化される契機として検討されうる。他方、女性論理は、全体化の否定を通じて、二律背反を、排除ではなく、むしろ己の分割の二重性として生きる状況を、問題化するものと考えられる。この後者では、情動概念の射程が、抑圧と関連づけられる前者と異なる仕方で検討されねばならない。研究では、これと関連して、現代心理臨床の「症状」論、70年代ラカンの「サントーム」論の検討、およびフランスの精神分析家C.ソレールの「現実的無意識」概念の検討を行った。
第二には、こうした理論的展望のもと、ポスト・マルクス主義的な政治理論についての考察を展開した。そこではとりわけエルネスト・ラクラウのラカン受容を批判的に検討したのち、ラカン理論の影響圏にあるフェミニズム理論(L.イリガライなど)へのジュディス・バトラーの参照の意義を再評価する試みを実施し、社会思想を情動理論を通じて裏付けるための議論の土台を整理した。

ID情報
  • 課題番号 : 18K00104

この研究課題の成果一覧

論文

  2

書籍等出版物

  1

講演・口頭発表等

  2