基本情報

所属
熊本大学 発生医学研究所 教授
学位
博士(理学)(2000年3月 東京大学大学院 理学系研究科)

連絡先
ishigurokumamoto-u.ac.jp
研究者番号
30508114
ORCID iD
 https://orcid.org/0000-0002-7515-1511
J-GLOBAL ID
200901078403805847
researchmap会員ID
5000090403

外部リンク


我々は高等動物の減数分裂における染色体構築とその制御のメカニズムについて研究を推進します。染色体構成の次世代への正確な継承と初期胚の正常発生の観点から、減数分裂は生殖細胞に特有かつ極めて重要なイベントです。とりわけ、以下に記す3つの角度から基礎研究を行います。内容的には高齢出産、少子化の観点で、医学分野のみならず社会的にも強くアピールできる研究課題であると考えます。
いずれの研究テーマに関しても、新規の未解析因子を見つけ出すことを重視します。分野のパラダイムシフトには、missing linkを埋める因子の同定によって新しく現象を説明することが、重要な研究スタンスであると考えます。生殖細胞を見渡しただけでもデータベースに眠る未解析因子は相当数残されており、まだまだ発掘の余地があると考えられます。

研究内容
(1)体細胞増殖から減数分裂への切り替え制御に関する研究
マウスの場合、未分化型・幹細胞型の生殖細胞は体細胞型の増殖を経た後に、その一部の集団がspontaneousに減数第一分裂のpre-meiotic S期へと進行する。この時、体細胞型増殖から減数分裂型cell cycleへの切り替えが起きていると推測されるが、その分子機構は多くの点が不明のままである。特にこの減数第一分裂への移行期においては染色体構造が減数分裂仕様に再構成されると推測され、染色体制御を理解する上でキーとなるステージであるにもかかわらず材料の量的・数的な制限のため研究は膠着している。最近、我々は減数分裂の開始に決定的な役割を担う新規の転写活性化因子MEIOSINを同定した(Dev. Cell 52, 2020)。これを欠損させると細胞周期の維持に関与する体細胞型Cyclinの異所的発現やM期様染色体構造など体細胞様の特徴を示す細胞の蓄積を伴って、体細胞分裂から減数分裂への切替えが見られなくなる。MEIOSINはSTRA8と複合体を形成して減数分裂関連遺伝子の転写開始点近傍に結合して転写活性化に働くことが明らかとなった。これによって直接制御される標的には多くのhypothetical gene (ゲノムデータベース上にIDのみが付与されている機能不明遺伝子)が含まれることが判明している。これらMEIOSINの転写制御下に置かれている未解析の遺伝子には、減数分裂の進行に必要とされる未知のものが含まれる可能性がある。そこで本研究では減数第一分裂の制御を支える新規遺伝子の網羅的解析を行って体細胞分裂との違いを本質的に決定付ける減数分裂制御のメカニズムの解明を目指す。

(2)減数分裂型細胞周期と染色体制御に関する研究
本研究では体細胞型と減数分裂型の細胞周期の制御機構の違いを見出すことを究極の課題とする。生殖細胞は通常の体細胞と同様の細胞周期の機構を巧みに転用しながらも、染色体構造に減数分裂特異性が与えられるようにプログラムされている。減数分裂を細胞周期調節という観点から体細胞と比較すると、両者は様々な点で異なっている。例えば減数第一分裂前期(meiotic prophase I)と呼ばれる時期は、通常の体細胞の細胞周期のG2期に相当する。このmeiotic prophase Iは、そのタイムスパンが通常の細胞周期G2期と比べて際だって長いこと(精母細胞でおよそ7-8日にも及ぶ)が特徴で、染色体上の様々なイベントを達成させる猶予を与える期間であると考えられる。さらに、第一分裂M期が完了しても次のS期が開始されずに直ちに第二分裂M期へ進行する点も、通常の細胞周期と極めて異なる特徴の一つである。このように細胞周期の調節は減数分裂仕様に大幅に特殊化されていると推測されるが、この分子機構はほとんど理解されていない。体細胞で見られる細胞周期調節が染色体の動態に決定的な役割を果たしていることからも明白であるように、減数分裂における細胞周期調節の観点から染色体制御を理解することが重要となろう。本研究では、細胞周期の進行に重要とされるユビキチンリガーゼ複合体の減数分裂の素過程における働きを酵素・基質・調節の観点から研究する。

(3) 減数分裂におけるコヒーシンの制御
コヒーシンはS期で複製された姉妹染色分体がばらばらとならないように、それらの接着に働くタンパク質複合体である。さらに体細胞においては、コヒーシン複合体はインスレータータンパク質と協調して遠方のエンハンサーとプロモーターとを手繰り寄せるようにして、遺伝子発現の調節に働くことも知られている。重要なことに、このコヒーシン複合体には体細胞型と減数分裂型の使い分けがある。すなわち、体細胞ではRAD21をサブユニットとして含むコヒーシン複合体があるのに対して、減数分裂では、RAD21LまたはREC8をサブユニットとして含むものが存在する。この減数分裂型コヒーシン複合体は、姉妹染色分体接着のみならず、体細胞では見られない減数分裂に特有の染色体構造の骨組みとしても極めて重要な役割を果たしている。奇しくも、減数分裂型コヒーシンを体細胞に強制発現させても染色体上にはロードされないことが分かっている。このことは、体細胞の染色体上には減数分裂型のRAD21LおよびREC8コヒーシンを適切にローディングするための土台が欠けていることを示唆する。
本研究課題では、上記(1)(2)の研究課題と連携して、この減数分裂型コヒーシンのローディングをライセンスする機構の解明を目指す。とりわけpre-meiotic S期は減数分裂型コヒーシンが染色体上に検出される最初の時期である。この時期には、染色体の減数分裂仕様に向けた再構成が行われているものと推測されるので、減数分裂型コヒーシンを制御する新たなクロマチン結合因子が見出されないか検討する。

ラボWEB site Link  : http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/bunya_top/chromosome-biology/


主要な論文

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