
西川 義文
基本情報
- 所属
- 帯広畜産大学 原虫病研究センター 生体防御学分野 教授
- 学位
-
博士(農学)(東京大学大学院農学生命科学研究科)
- 研究者番号
- 90431395
- J-GLOBAL ID
- 200901042864981243
- researchmap会員ID
- 6000006834
- 外部リンク
【研究テーマ】
研究トピックス:原虫の垂直感染に関わる原虫伝搬因子の解明
ネオスポラ(Neospora caninum) 感染による重篤な病態発症には、感染により誘導される過剰な炎症反応が引き金になることをウシで証明しました。これらの結果は、ネオスポラが産生する特定の分子が免疫細胞を過剰に刺激し宿主免疫を撹乱する病原性因子として機能することを強く示唆しています。これまでの研究で、ネオスポラの宿主体内伝搬には原虫由来の遊走因子が作用し、炎症反応と連動しながら単球系の細胞をハイジャックして原虫の運び屋として利用していると推測されます。免疫反応の制御は、転写因子nuclear factor-kappa B(NF-kB)による調節、Mitogen-activated protein kinases (MAPK)の経路による調節等が知られています。それゆえ、原虫因子がこれらの経路を制御していれば、妊娠子宮での環境を劇的に変化させていると仮定できます。実際、ネオスポラの近縁原虫であるトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)の分泌オルガネラであるロプトリー (ROP) やデンスグラニュル(GRA)から放出されたタンパク質が免疫細胞のNF-kB やMAPK経路を制御しています。我々の最新の研究結果で、TgGRA7, TgGRA14もNF-kB経路を制御し、宿主免疫の活性化に関与していることが明らかとなりました。ネオスポラとトキソプラズマはゲノムレベルでも相同性が高いため、ネオスポラの分泌オルガネラから放出される様々な原虫因子が妊娠子宮の細胞に作用することが想定されます。実際、我々は免疫反応に関与するネオスポラ分子NcGRA7を同定し、NcGRA7破壊原虫株は宿主体内伝搬能力と病原性が減弱していました。これらの事実は、垂直感染に関与する原虫伝搬因子の存在を強力に支持するものであり、その同定を目指した研究を進めています。
1. 原虫病をコントロールするワクチンを開発する!
原虫とは癌細胞と同様に単一の真核細胞で構成され、動物体内で無限に増殖する感染病原体のことを指します。医学分野で重要なマラリア原虫は、世界で年間3~5億人が罹患、年間200万人もの命を奪っています。わが国にも存在するトキソプラズマはその感染による流産や新生児の先天性トキソプラズマ症を引き起こし、少子化が進む現代社会には無視できない問題です。また畜産業界では、家畜原虫感染症による家畜の生産性の低下が問題視され、ネオスポラの感染による牛の流産例が全国的に見つかっており、被害の拡大が懸念されています。多くの研究者が原虫の増殖を不活化できる中和抗体(Th2免疫)誘導型ワクチンの開発を試みましたが、病原性原虫がもつ独自の抗原変異機構(Th2免疫からの免疫回避機構)に阻まれてその実現には至っていません。
近年の研究により、マラリア原虫は赤血球内に寄生し、免疫複合体の形成や脾臓内のマクロファージなどによる貪食作用により宿主の防御機構が働くこと、トキソプラズマやネオスポラはマクロファージを含む様々な細胞内に寄生し、Th2免疫と共にマクロファージのT細胞依存性活性化等のTh1免疫が重要な排除エフェクターとなることが明らかにされています。従って、“如何にして原虫に特異的なTh1免疫を強力に誘導できるか”が直面する次の重要研究課題であると考えます。すなわち、抗原変異に影響を受けないTh1免疫を人為的に誘導できる技術シーズこそが原虫ワクチンの開発を成功させる鍵を握っているのです。私たちは、ワクチン抗原を封入した多機能性リポソームを作製し、これら原虫病に対するワクチン開発を進めています。
2. トキソプラズマ感染による動物の行動変化(原虫はエイリアン?)
トキソプラズマ感染による宿主の行動の変化は以前から知られており、この行動変化がトキソプラズマの生活環を活性化しているという推測は興味深いと思われます。迷路学習の実験モデルで、トキソプラズマ感染マウスは学習能力や記憶に劣ることが示されました。さらに、感染マウスは未知のものに対する警戒感が希薄となり、ネコの匂いにも鈍感になります。感染マウスあるいはラットのこのような行動変化は、補食動物であるネコから逃げるのには致命的でありますが、原虫側から見ればより効率的に終宿主に到達できることになります。
トキソプラズマ感染によるヒトの行動変化の研究も歴史があります。トキソプラズマに感染している人は、統合失調症、性格の変化、交通事故のリスク増加に関与しているという報告もあります。男女間で多少の差はあるものの、精神運動に支障をきたし、不安な状態になりやすく、幻覚、認知障害などを示す場合もあります。
トキソプラズマ感染による宿主動物の行動変化に関するメカニズムについては一定の見解が示されているものの、その多くは謎のままです。私たちは脳内に寄生する原虫に着目し、宿主の行動変化を引起すメカニズムの解明と生態系に与える影響に関する研究を進めています。
3. 細胞内寄生性原虫の感染ダイナミクス
宿主細胞寄生性の原虫は、宿主の増殖メカニズムを巧みに利用することにより生存する事が可能です。トキソプラズマ原虫は様々な有核哺乳動物細胞に能動的に侵入し、宿主の免疫機構からの逃避と宿主細胞から栄養物質の強奪を行うために寄生胞を形成します。
これまでに、宿主細胞への接着や侵入に関わる原虫側の因子が研究され、MIC、ROP、GRAなど数多くの分泌蛋白質の存在が明らかにされてきました。私たちは、この感染ダイナミクスを詳細に解明するために、新規原虫由来因子の探索を進めています。
また、トキソプラズマ原虫が宿主細胞の栄養物資を取り込む機構としては、宿主細胞がLDL受容体依存的に取り込んだコレステロールを原虫自身の生存に利用していることが報告されています。しかしながら、トキソプラズマ原虫の感染に関与する宿主細胞由来の分子、あるいは宿主細胞のタンパク質や遺伝子と相互作用する原虫由来の分子については不明な部分が多いのが現状です。私たちは、原虫の持つ宿主の栄養を強奪するメカニズムの解明を進めています。
トキソプラズマ原虫が感染した宿主細胞は、原虫自身が宿主細胞で分裂・増殖するために宿主のシグナル伝達経路を巧みに変化させ、宿主側のストレス応答に対して抵抗性になります。さらに、原虫にとって有害な免疫担当細胞を自殺に追い込む機構が存在すと考えています。私たちは、原虫のストレス回避機構の研究を進めています。 これまでに、トキソプラズマ由来の免疫活性化分子を同定し、トキソプラズマの生存戦略への関与を明らかにしてきました。
4. 流産メカニズムと病原性因子
ネオスポラ原虫は 、牛に流産、死産或いは子牛の神経症状を主徴とする異常産を高率に引き起こします。 私たちは、この原虫の垂直感染マウスモデルを確立し、母子免疫の基礎的な研究を展開しています。また、生化学的アプローチによるネオスポラ原虫の持つ病原性因子の探索も進めています。
5. 社会実装可能な感染症診断システムの開発
フィールドでの診断・疫学調査に適応可能な診断システムの開発を進めています。現場(農場、臨床獣医師、家畜保険衛生所)と連携し、社会実装可能な感染症診断システムを現場へ提供することで、日本をはじめ世界のネオスポラ、トキソプラズマ、クリプトスポリジウムの汚染状況の把握と、対策提言を行っています。
6. 生物資源からの有用物質の発見
原虫は、ウイルスや細菌と比較して極めて複雑な生活様式を持っています。さらに、宿主由来のストレス反応を巧妙に制御する原虫の生存戦略は、薬剤やワクチンの開発を困難にさせています。私たちは、原虫の持つ生存戦略に着目し、原虫ライブラリーから新規の生理活性物資のスクリーニングを行っています。また、海洋生物や微生物の持つ天然物化合物からも有用物質の同定を進めています。これら物質を利用して、ヒトや動物を対象とした疾患治療への応用を目指しています。
研究分野
6経歴
7-
2018年4月 - 現在
-
2007年4月 - 2018年3月
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2005年12月 - 2007年3月
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2003年4月 - 2005年11月
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2001年11月 - 2003年3月
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2001年4月 - 2001年10月
-
1999年1月 - 2001年3月
学歴
2-
1998年4月 - 2001年3月
-
1996年4月 - 1998年3月
委員歴
10-
2021年4月 - 現在
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2020年9月 - 現在
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2019年4月 - 現在
-
2018年10月 - 現在
-
2013年4月 - 現在
-
2012年4月 - 現在
-
2007年1月 - 現在
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2017年9月 - 2020年9月
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2011年1月 - 2018年10月
-
2015年4月 - 2017年8月
受賞
3論文
245-
Parasitology international 89 102576-102576 2022年8月
-
The Journal of veterinary medical science 84(7) 1034-1040 2022年7月25日
-
BMC complementary medicine and therapies 22(1) 130-130 2022年5月12日
-
International journal of molecular sciences 23(6) 2022年3月12日
-
Pharmaceutics 14(3) 2022年2月28日
-
Pathogens (Basel, Switzerland) 11(2) 2022年2月21日
-
Parasitology research 121(1) 413-422 2022年1月
-
Methods in molecular biology (Clifton, N.J.) 2411 129-144 2022年
-
Pathogens (Basel, Switzerland) 11(1) 2021年12月21日
-
Acta parasitologica 66(4) 1442-1447 2021年12月
-
Parasitology international 85 102424-102424 2021年12月
-
Infection, genetics and evolution : journal of molecular epidemiology and evolutionary genetics in infectious diseases 92 104838-104838 2021年8月
-
Parasitology international 83 102368-102368 2021年8月
-
International journal of molecular sciences 22(15) 2021年7月22日
-
Journal of wildlife diseases 57(1) 205-210 2021年1月6日
MISC
30-
日本獣医学会学術集会講演要旨集 159th 201 2016年8月30日
-
The journal of protozoology research 26 30-39 2016年
-
産業動物臨床医学雑誌 6(2) 68-69 2015年11月
-
日本寄生虫学会大会プログラム・抄録集 83rd 70 2014年2月
-
日本獣医学会学術集会講演要旨集 154回 216-216 2012年8月
-
Molecular and Cellular Pharmacology 4(3) 105-115 2012年
-
The Journal of protozoology research 21(2) 50-58 2011年12月
-
獣医寄生虫学会誌 8(2) 125-125 2010年3月
-
The Journal of protozoology research 19(2) 16-21 2009年12月
-
獣医寄生虫学会誌 8(1) 44-44 2009年9月
-
獣医寄生虫学会誌 8(1) 45-45 2009年9月
-
日本獣医学会学術集会講演要旨集 148th 182-182 2009年9月
-
日本ダニ学会誌 18(1) 40 2009年5月25日
-
日本獣医学会学術集会講演要旨集 147th 228-228 2009年3月1日
-
日本獣医学会学術集会講演要旨集 147th 228-228 2009年3月1日
-
日本寄生虫学会大会プログラム・抄録集 78th 92 2009年2月
-
The Journal of Protozoology Research 18(2) 48-56 2008年12月
-
獣医寄生虫学会誌 7(2) 79-79 2008年12月
書籍等出版物
18-
Humana press 2021年 (ISBN: 9781071618875)
-
朝倉書店 2020年11月1日
-
緑書房 2020年9月 (ISBN: 9784895315692)
-
緑書房 2017年3月
-
医学のあゆみ、医歯薬出版 2016年11月
-
化学療法の領域、医薬ジャーナル社 2016年9月
-
Humana Press 2016年5月 (ISBN: 9781493933891)
-
朝倉書店 2016年4月
-
獣医寄生虫学会誌 2016年
-
緑書房 2014年6月
-
近代出版 2013年10月
-
牛臨床寄生虫研究会誌 2012年7月
-
Molecular and Cellular Pharmacology 2012年
-
医学のあゆみ、医歯薬出版 2011年1月
-
Bentham Science Publishers 2010年10月 (ISBN: 9781608051489)
-
実験医学増刊、羊土社 2009年6月
-
獣医畜産新報 2009年5月
-
獣医寄生虫学会誌 2007年11月
共同研究・競争的資金等の研究課題
34-
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2022年4月 - 2025年3月
-
日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 2020年10月 - 2025年3月
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日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 2021年4月 - 2025年3月
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日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽) 2020年7月 - 2023年3月
-
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費 2020年11月 - 2023年3月
-
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 令和2年度 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 2020年4月 - 2023年3月
-
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費 2019年4月 - 2021年3月
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(一財)畜産ニューテック協会 令和2年度 研究助成事業・研究調査助成金 2020年4月 - 2021年3月
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旗影会 2020年度 研究助成 2020年4月 - 2021年3月
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文部科学省 科学研究費補助金・基盤研究B(一般) 2018年4月 - 2021年3月
-
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B) 2017年4月 - 2019年3月
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大阪大学微生物病研究所 平成30年度 共同研究 2018年4月 - 2019年3月
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寿原記念財団 第32回研究助成金 2018年4月 - 2019年3月
-
文部科学省 科学研究費補助金・挑戦的研究(萌芽) 2017年4月 - 2019年3月
-
科学技術振興機構 地域産学バリュープログラム 2017年12月 - 2018年11月
-
伊藤記念財団 平成29年度研究助成 2017年 - 2018年3月
-
文部科学省 科学研究費補助金・基盤研究(B)(一般) 2015年4月 - 2018年3月
-
文部科学省 科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究 2015年4月 - 2017年3月
-
文部科学省 科学研究費補助金・基盤研究(B)(海外学術調査) 2014年4月 - 2017年3月
-
帯広畜産大学 学長裁量経費「プロジェクト研究費」学術研究助成プロジェクト 2015年 - 2016年3月