Presentations

Jun 30, 2013

2校の生徒の感想の比較からみた格差社会における生活経営に対応したカリキュラムの検討

日本家庭科教育学会第56回大会
  • 大竹 美登利
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  • 中野 葉子
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  • 藤田 昌子
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  • 中山 節子
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  • 坪内 恭子
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  • 冨田 道子
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  • 松岡 依里子
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  • 若月 温美

Language
Japanese
Presentation type
Oral presentation (general)

【目的】報告者らはこれまで高校生を取り巻く社会環境の激変に対応した生活経営のカリキュラム開発を目的として継続的な研究に取り組み、教材集『安心して生きる・働く・学ぶ』1の一部を使用して授業実践を行った。本報告では,すでに報告した山形県A校ならびに千葉県B校の授業実践分析を踏まえ,両校の結果の比較を通して、カリキュラムの教育的効果とその課題を明らかにすることを目的とする。【方法】山形県のA校では、2010年10月から11月にかけて,高校2年生200名(男子88名、女子112名)を対象に、(1)生活を支える経済、(2)「一人暮らしでどのくらいお金が必要か」,(3)「社会保険ゲーム」,(4)セーフティ・ネットクライシス、(5)「ホームレスからの脱出法」(6)消費生活の変化と消費者、(7).まとめ((2)(3)(4)(5)は教材集から)の全8時間の授業を行った。千葉県のB高校では2010年10月から12月にかけて2年生200名(男子134名,女子66名)を対象に,(1)「25歳の家計簿」(2)「ワーキングプアとセーフティネット」(3)「ホームレスからの脱出法」(4)「一人暮らしでどのくらいお金が必要か」,(5)収入と支出、(6)悪徳商法、(7)クーリングオフ、(8)クレジット((1)(2)(3)(4)は教材集から)の全15時間の授業を行った。これらの授業実践で生徒が記述した共通のワークシートの結果を比較分析した。なお、A高校は三世代同居も多い山形県の農業地域の中にある都市部の公立学校で、卒業生の進路は4年制大学75%、短大5%、専門学校15%、就職4%、他1%、B高校は東京のベッドタウンにあたる千葉県西部の住宅地で、卒業生の進路は4年制大学51%、短大9%、専門学校21%、就職4%、他15%と、A高校の方が4年制大学への進学者が多という特徴を持っていた。【結果及び考察】1.将来の生活での不安について12項目の中から該当する項目に○をつけてもらったところ、金銭面では「社会人になった時の収入」(A63.2%、B68.8%)、「進学に必要な費用」(A63.2%、B53.2%)は両校とも類似していたが、「転職や失業時の生活費」(A16.6%、B28.9%)「将来の子育ての費用」(A13.0%、B23.0%)はB校の方が生活費に関する不安が大きかった。働くことでは「就職できるかどうか」(A68.4%、B68.6%)、「どんな職業・職種にするか」(47.7%、58.3%)と職種への不安にも相違があった。2.「一人暮らしでどのくらいお金が必要か」の授業後の感想を分類したところ,A校では「将来の働き方」が最も多く48.5%、続いて「一人暮らしの生活」48.5%、「自立に向けての一歩」25.5%であったが、B校ではそれぞれ53.5%、25.8%と「一人暮らしの生活」が最も高く、働き方の選択よりも生活の安定に関心が高かった。3.「社会保険ゲーム」の中で「フリーターのお金で生活するとしたら」というテーマで生徒に記述させたところ、A校B校ともほぼ全員が食費や家賃、娯楽費などを「節約する」ことを記述していた。A校B校で大きく異なるのは「生活が苦しい」(A10.5%、B76.8%)、「家族に頼る」(A17.0%、B24.9%)で、B校の方が少ないお金で生活することの困難を実感していた。4.「ホームレスからの脱出法」の授業後の感想では,B校ではA校より「自分との関わり」(A22.0%、B48.9%)や「現実の厳しさ・将来の不安」(25.0%、33.9%)を感じた生徒が多かった。また「公助」「共助」「自助」「自立」では、A校の方が「公助」(A57.5%、B39.8%)に関するものが多く、B校は「共助」(A28.5%、B46.8%)や「自助」(A26.0%、B32.3%)など身近なものに関する感想が多かった。量的相違だけで記述内容にも相違がみられ、例えば「自分との関わり」では、A校は「生きていく中で知識はたくさんあった方が良いということがわかった」と勉強すれば何とかなると考えているのに対して、B校では「自分の家族構成も田村家と似ているので、よけい恐怖に覚えた」など、自分の生活不安をリアルに感じ取っていた。以上、生徒の生活状況によってその学びに相違があった。社会の変化に対応する生活経営の本教材では、それぞれの生徒の生活状況に沿うきめ細かな教材開発が必要であると思われた。注?1 大竹美登利監修(2012)『安心して生きる・働く・学ぶ-高校家庭科からの発信-』開隆堂(本教材集は2008-2010年日本家庭科教育学会課題研究WG3-3「現代の労働,社会福祉の諸課題に対応したカリキュラム構築-生活経営領域を中心に」で作成したカリキュラムを発展させたものである)

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URL
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005021610