論文

2014年3月31日

イギリスにおける宿泊客の財産の紛失・盗難等に対する宿泊事業者の厳格責任の起源

立教大学大学院法学研究
  • 藥師丸 正二郎

45・46
開始ページ
88
終了ページ
166
記述言語
日本語
掲載種別
学位論文(修士)

1 はじめに ホテル等の宿泊施設内で,宿泊客の携帯品が紛失,盗難等に遭った場合,宿泊客は,宿泊営業者に対して,損害賠償を求めることができるか。わが国では,場屋主人の責任として,携帯品が場屋主人への寄託の有無で法的取り扱いを異にする。即ち,前者の場合,場屋主人は過失がなかったとしても,不可抗力が証明できない限り,賠償責任を負う(厳格責任,商法594条1項)のに対して,後者の場合,宿泊事業者に不注意がない限り,損害賠償責任を負わない(同条2項)。これまでは寄託物につき厳格責任を認めることの合理性が中心に論じられてきた。そして,同責任がローマ法に淵源を有するレセプツム責任に由来することに鑑み,レセプツム責任の合理性についての議論が重ねられてきた。しかし,宿泊事業者の厳格責任は,法体系を異にする英米法の国々でも現代に至るまで採用されており,その対象は寄託物に限らない。本研究は,比較法的に見ると,寄託の有無を問わず,宿泊営業者に,厳格責任を課す国々が多いことに着目し,ローマ法の影響を色濃く受けている大陸法と相克をなす英米法に目を向け,とくにイギリスにおける旅館営業者の責任を検討するものである。
厳格責任は,現在もイギリス法の中で生きている。その理由を探るべく厳格責任の起源について検討するものである。
2 研究対象 宿泊営業者の厳格責任の現代的意義及びその合理性を明らかにするため,対象をイギリスとし,厳格責任の起源となる事件(Navenby事件;1368年)及び同事件の影響を知るために14世紀の判例を研究した。
3 得られた研究結果 第1に,イギリスにおける厳格責任の起源となるいくつかの判例を検討でき,その事案,判旨,及び社会的背景を明らかにできた。厳格責任の直接の起源となったと一般にいわれるNavenby事件は,国王の官吏が国王に収める租税を旅館内で盗まれた事案において,使用者及び従業員以外の者によって惹起された損害について,宿泊営業者に賠償責任を負わせたものであった。その後,この判例法理は国王の官吏以外の私人が被害者となった事件についても訴訟の門戸を広げることとなった。
第2に,14世紀の判例を検討した結果,厳格責任は,すべての宿泊営業者に課された責任ではなく,一般公共のための旅館営業者(common innkeeper)のみに課されたものであった。

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