共同研究・競争的資金等の研究課題

2019年4月 - 2021年3月

節足動物消化管の内外双方で異なる生活ステージを持つ腸内外両生接合菌類の探索

公益財団法人発酵研究所  一般研究助成  

課題番号
G-2019-1-098
配分額
(総額)
3,000,000円
資金種別
競争的資金

【目的】接合菌類キクセラ亜門には節足動物の腸内菌と糞・土壌などに生育する糸状の腸外菌が知られるが,双方の特徴を併せ持つ腸内外両生菌と称すべき生態群を新たに発見した.本研究では,カマドウマ科昆虫から得た腸内外両生菌類の未記載種Kickxellales(未記載属)sp. 1の分子系統解析を行い,近縁の既知種が腸内外両生菌である可能性を検証した.また,コオロギ科昆虫から得た近縁種sp.2と宿主交換実験, 胞子の付着様式の観察による比較をして,宿主特異性について考察した.
【方法】長野県産カマドウマ科昆虫およびコオロギ科昆虫の糞よりKickxellales sp. 1,sp. 2を検出し嫌気条件下で胞子を発芽させ分離菌株を確立した.18Sおよび28S rDNA領域の塩基配列を決定し最尤法系統樹を構築して系統関係を推定した.自然界ではこの2種は各科の宿主昆虫からしか検出されない.未感染のフタホシコオロギ(コオロギ科)を飼育し2種の胞子を摂食させ,糞からの菌の出現率,解剖による腸管内(前胃表面の剛毛密生部)への胞子付着数の計測を行い,宿主特異性を検証した.また,走査型電子顕微鏡により胞子の腸内(前胃表面の剛毛)への付着様式を観察した.
【結果・考察】系統解析の結果,sp. 1は,既知のキクセラ目菌のMyconymphaea yatsukahoiと系統的に類縁だと新たに判明した.同種は2001年に菅平高原の昆虫死骸より記載発表されて以後,再発見例が無かった.野外調査の結果,同種が小型の尿酸排泄動物の糞に発生することが判明し倍脚綱動物が宿主候補と考えられた.そこで, タイプ標本産地で2019年7 -10月,イシムカデ目58個体,オオムカデ目27個体を採集し糞を培養した結果,イシムカデ目からのみ19個体の糞から本種が検出された.また,他の6カ所で同様な検討をした結果,3カ所の糞から本属菌が得られ,群馬県産株は胞子長径が顕著に短い未記載種であった.腸内ステージは未確定だが本種は腸内に滞留して増殖すると判断され,昆虫に加え倍脚綱にも腸内外両生菌類が存在する可能性が判明した.今後,昆虫に限らず節足動物全般の探索が必要と考えられる.
次にKickxellales sp. 1(カマドウマ科より分離)と sp. 2(コオロギ科より分離)の胞子をフタホシコオロギに摂食させたところ,糞からは2種とも出現したがsp. 2に比べsp. 1の出現率は顕著に低かった.また胞子摂食後2日目に解剖をして腸内(前胃表面)への付着胞子数を計測した結果,sp. 1がsp. 2に比べ著しく少なかった(図1).
この結果より2種には宿主特異性が存在すると考えられ,「宿主の前胃の剛毛の形態と胞子の修飾構造(歯列)の形態との対応関係により宿主特異性が成立する」という作業仮説を考えた.そこでマダラカマドウマとフタホシコオロギの前胃の剛毛の形態を詳しく観察したが,ともに羽状の枝毛であり著しい差はなかった.次に2種の胞子の各宿主の前胃の剛毛への付着様式を詳しく観察した.その結果,sp. 1では胞子片端で6面×縦9列の歯列において6個並ぶ歯と歯の間隙に剛毛が数カ所で挟まり付着していた(図2: 1-2,3).他方,sp. 2の胞子には6面×縦5列の歯列があるが(図2: 4),腸内では歯列以外の部分が全て溶解し(図2: 5),歯列のみが縦に並んだ6本の腕が開裂して折れ曲がり随所で絡まっていた(図2: 6).
いずれも歯列の歯と歯の間隙に剛毛を挟むという原理を用いる点は共通で,各宿主の剛毛の形態に明瞭な差はないため上述の作業仮説は棄却される.しかし,歯列の数や配置,二次変化(溶解)の有無等,2種の戦略は際立って異なり,宿主特異性に関連する可能性が高いが,これが宿主の何に対応するのか現段階ではわからない.

ID情報
  • 課題番号 : G-2019-1-098