研究ブログ

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ウィキペディアタウンと地域資料の保存、発信

あいさつ

図書館総合展 ONLINE plus 2022 ウィキペディア展覧会 に来場のみなさま!

都留文科大学共通教育センター教授の日向良和(ひなた よしかず)と申します。このページではウィキペディア展覧会に参加し、私がこれまで実践してきたウィキペディアおよびウィキメディアコモンズ関連について報告します。

1「ウィキペディアタウン」

私が2012年から博物館学芸員課程の科目「博物館情報メディア論」の担当になったとき、単なる講義だけでなく博物館におけるデジタルアーカイブと発信を体験できる実習を設定しました。2012年から2014年までは東日本大震災で被災した資料の清掃とデジタル化を学生に体験してもらいました。
その次のプログラムとして設定したのが「ウィキペディアタウン」です。ウィキペディア日本語版のプロジェクト:アウトリーチ/ウィキペディアタウン/アーカイブでは2013年に日本国内での開催事例が最初になっていますが、この翌年に横浜で開かれた図書館総合展にて事例を聞きすぐに科目に取り込もうと考えました。

2015年11月22日 Wikipediaタウン in 都留 2015
山梨県都留市の4項目(雛鶴神社、石船神社、盛里村、都留市立図書館)が今回の対象となりました。学生33名、一般(都留市外含め)7名が参加。 午前中は現地ガイドの方による案内で各所を調査。午後は都留市立図書館にて8グループに分かれ文献調査と記事執筆を実施。

ウィキペディアタウンin都留2015

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年12月11日 Wikipediaタウンin都留2016
都留文科大学の学芸員課程の「博物館情報メディア論」として開催。ウィキペディアタウンを2015年に続き行った。今回は街歩きとして市内中心部谷村地域をまわり、都留簡易裁判所(谷村陣屋跡)、元気くん3号(家中川小水力発電所)、元気くん2号(家中川小水力発電所)、元気くん1号(家中川小水力発電所)、谷村高女歌碑(都留市役所内)、ミュージアム都留(20分程度)、屋台倉庫(祭り用屋台保管庫)、商家資料館(30分程度)を歩いた。都留市立図書館に戻った後Wikipediaを執筆し、新項目ミュージアム都留都留市商家資料館を作成、都留簡易裁判所を加筆(実質には新項目作成)した。user:Ks_aka_98 氏 user:さかおり 氏に協力していただいた。参加者は学生16名、一般6名(内市外者5名)
ウィキペディアタウンin都留2016

 

 

 

 

 

 

 

 

2「ウィキメディアコモンズ」への投稿

これまでさまざまな場所で撮影した図書館内の写真をウィキメディアコモンズへ投稿しウェブ上で共有しました。また先日父の実家で「下駄スケート」が見つかったため、写真をウィキメディアコモンズにアップロードし、ウィキペディア記事に写真を追加しました。
アップロードした下駄スケートの写真
下駄スケート

 

 

 

 

 

 

 

 

3各実践のねらい

ウィキペディアタウンやウィキメディアコモンズと、博物館や公共図書館のデジタルアーカイブを結びつけるねらいなどについては、いくつかの論文を書いていますので、そちらも参照してください。

図書館における地域資料の活用事例 ― Wikipedia Town in Tsuru 実施と スマートフォンアプリの作成―」日向 良和 都留文科大学研究紀要 = 都留文科大学研究紀要 84 87-100, 2016-10-20

ウィキペディアタウンを通じた地域情報の発信 : 博物館情報メディア論の一環として」日向 良和 博物館研究 = Museum studies / 日本博物館協会 編 56 (1), 9-13, 2021-01

地域史料活用推進のためのインターネット公開」日向 良和 都市問題 113 (4), 54-62, 2022-04

3.1各図書館、博物館における意義

実践を通じて館種をとわずウィキペディアおよびウィキメディアプロジェクト全体は、図書館、博物館、公民館、文書館(MLAK)において下記の意義があると考えています。

  • 所蔵する情報をデジタル化し発信すること。
  • 所蔵する実物資料やサービスへの認知やアクセスの利便性を高めることができること。
  • 館の広報を超えて地域の情報を発信できること。
  • 自由なライセンスで利用できる情報を増やすことができることにより、人類の知的活動に貢献できること。資産による情報量の格差を縮めることができること。

3.2参加者における意義

図書館等で行われるウィキペディアタウンなどに参加する参加者の意義は以下の意義を考えています。

  • 本人の生涯学習に資すること。
  • 活動を通して地域を再認識できること。
  • ウィキペディア記事の成り立ちや方針、オープンなライセンスについて知ることができること。
  • 情報リテラシーを高めることができること。

3.3ウィキメディアプロジェクトにおける意義(主に日本語版で検討しています)

  • 記事が増えること。参照が増えること。
  • ウィキペディアおよびウィキメディアプロジェクトへの理解が進むこと。
  • 新たな書き手になる人が増えること。

4ウィキペディアタウンの準備として

主に図書館でウィキペディアタウンを主催者として開催するときの準備項目について列挙します。

  1. ウィキペディアンを探す
    当日ウィキペディアに関する説明、講義と編集のお手伝いをいただけるウィキペディアンを探します。ウィキペディアのアウトリーチページなどには協力してもよいウィキペディアンがのっていたりしますし、他地域の活動で協力していただいたウィキペディアンにウィキメールなどで連絡を取ってもいいと思います。また過去に開催した図書館に問い合わせて紹介してもらうのもいいと思います。このとき、日時についてはいくつかの案を持っていた方がいいでしょう。ウィキペディアンは他に仕事を持っている人がほとんどですので、日時決め打ちだと合わないことがあります。
  2. テーマ、題材を探す
    協力いただけるウィキペディアンがみつかったら、当日見学と記事編集をするテーマや題材を探しましょう。市町村史や地域の観光ガイドマップなどが役に立ちます。このときウィキペディアンとテーマについて相談しましょう。見学の時間や記事のための資料の量、既存記事がある場合には追加できるかどうかなど相談するといいと思います。複数のテーマ案を考えておくといいでしょう。
  3. 下見
    見学する場所は必ず下見をしましょう。写真撮影ができるのか?現地までの交通、かかる時間などを検討することが重要です。20名程度の参加者が一斉に動くと時間が予想以上にかかったり、事故のリスクが出てきます。また見学先の担当者や責任者に必ず話を通しておきましょう。うまくすれば追加の説明をいただけたり、今後のウィキペディアタウンへも協力がいただけます。
  4. 最終打ち合わせ
    ウィキペディアン、図書館などで最終的なスケジュールの打ち合わせをしましょう。特に見学への移動や、編集のテーブル、パソコン等の機器、ネットワーク環境などを確認しましょう。
  5. 当日(見学まで)
    当日は町歩きなどをかねて見学にいくことが多いです。そこで利用者が気づいたことについて編集テーマとすることもできますし、それはとても面白いのですが、記事になるか難しいところもあります。見学時や移動時には図書館スタッフは利用者の安全確保と、写真撮影時の写り込み防止などに注意しましょう。
  6. 当日(講義から記事編集)
    講義から記事編集ではウィキペディアンを中心に行いましょう。図書館員は時間の管理やお茶などの用意、そしてレファレンスのスキルを駆使して、テーマに関係する情報を地域資料からバンバン見つけましょう。記事の根拠となる資料が見つかるのは快感です!
  7. 当日(クロージング)
    クロージングではできあがった記事を見ながら、参加者同士での交流を深めましょう。作った記事は生まれたての赤ちゃんです。この後継続的に育てていけるのが理想です。図書館員は自分の地域の情報でもあるので、たまに編集してあげましょう。次回につなげることも手です。
  8. お礼
    ウィキペディアン、見学先などの関係各所にお礼をしましょう。

さいごに

私は図書館総合展をきっかけに、ウィキペディアンと知り合い、ウィキペディアタウンに出会いました。図書館員はあまり他の機関や他の業界の方と交流することが得意ではないと感じます。まず図書館員自身がさまざまな機会を捉えて、いろいろなイベントに参加してみる、交流してみることをおすすめします。

都留文科大学共通教育センター 教授 日向良和
hinata@tsuru.ac.jp
山梨県都留市田原3-8-1都留文科大学附属図書館内

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にっこり 信州大農学部図書館をみて感じたこと

信州大農学部図書館(2012/09/06)

規模は1,000平米程度(2階書庫あり)小さな図書館
エアコンを入れず窓を開けて換気・空調をしている。涼しい気候を利用していると思われるが、湿度などはどうか。


農学部を中心とした理系学部では図書・雑誌の利用が少なくなっているが、こちらも席、図書共に少ない印象。自宅や研究室、学内LANから文献にアクセスすることが中心か。


入り口入るとにラーニングコモンズ的スペース。ネット環境はあるが机とパソコン。

カウンターはなく、事務室壁に窓がありそこに「受付」貸出はABC。そもそも貸出が少ないことが予想される。


理系学部の図書館の存在意義は「学内ネット環境に学術リソースを流す」「学術リソースの利用法を案内する」「大学で生産される学術リソースを集め流す」といったところに特化されている。


もちろんこれまで集めた紙媒体リソースの蓄積も重要だが、これも電子化(自炊)→学内LANにて開放してしまえば必要なくなる。すくなくとも近年の紀要電子化の流れをみると、学内に蓄積された紀要バックナンバーを保存していくことは、各大学ごとにおこなう必要性は薄い。


中央図書館は手厚いが他の図書館はちょっとという感じ。信州大はキャンパスが分散しているので、それぞれのキャンパスの図書館の規模や施設を底上げする必要があるようにも思えるが学部によるのか。


前提:キャンパスが分散している。教養は中央図書館のあるキャンパスで教育。専門課程より各キャンパスに。
条件①:理系キャンパス:理系学部自体が紙資料の利用が少なくなっている。電子ジャーナル、CiNiiなどの論文の利用が主。ゼミなどだとゼミ室の資料利用が多い。
条件②:文系キャンパス:専門教育でも図書の利用が多い。電子資料は数が少ない。卒業研究等での引用文献が多く、相互貸借などを利用することも多い。


条件①の場合:図書館は小規模か最終的に倉庫的な物になっていく。リモートアクセスや研究室からの電子資料アクセスが主要となる。
図書館の役割としては、専門課程に進んだ直後のガイダンスや橋渡しが必要。各専門課程の入門書の利用が必要。就職などでは研究成果と社会とのリンクを把握することが必要。一般新聞、雑誌などの情報も必要である。
想定する図書館:ちょっと大規模なラーニングコモンズと、学術図書でなくて一般書籍の中の入門書的な資料。ガイダンスをおこなうためのレクチャー室。雑誌や新聞記事のスクラップや展示を定期的におこなう。新聞データベース(特に日経テレコンなど経済系・業界系新聞)。さらに一般ニーズや一般の感じ方を把握するために、例えば農学部図書館だったら、グルメ雑誌や料理雑誌、食べ歩きや観光雑誌(一般的な物)も研究資料となる。
信州大農学部の課題:レクチャーのためのスペースが図書館内にない。雑誌資料や業界資料はあるが、一般のニーズを把握するための一般紙がない。日経テレコン有り。無線LANスペースあり。新しくキャンパスに通うようになった学生への支援に特化するためには、一時的にでも説明職員の養成が必要(複数)


条件②:図書館は一定規模で残る。電子化された資料+従来の紙資料が利用され続ける。資料の電子化は貴重資料が中心で、現在の資料は紙で印刷され続けている。ただし、学術論文などはデータベースの利用が増えているのでレクチャーは必要。理系よりもICT能力が低いことが多いので、よりきめ細やかで具体的な利用例をまぜて案内する必要がある。専門課程の入門書は必要。就職などでは社会科学系では社会を見据えるための際物資料や一般雑誌などが必須。人文科学系でも、研究成果をどう社会に還元するかを考える際の資料として、一般資料が必要。この場合は一般的な文芸誌や哲学誌、思想誌、月刊誌、週刊誌などを低俗や学術的でないという理由で切ることは難しい。雑誌資料の電子化が進めば、書架などのスペースが減り一方でラーコモのスペースが必要になると考える。一番の問題は教員側の考え方か。

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