論文

2019年8月

「エネルギー価格変動に対する日本経済の脆弱性ー実質単位エネルギーコストの変化要因―」

RCGW Discussion Paper
  • 野村浩二

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記述言語
日本語
掲載種別
研究論文(大学,研究機関等紀要)
出版者・発行元
日本政策投資銀行 設備投資研究所 地球温暖化研究センター

本稿は、日本経済における実質単位エネルギーコスト(RUEC)とその日米格差の測定によって、エネルギー価格高騰による経済的な耐性を評価することを目的としている。日米比較によれば、日米RUEC格差は米国のシェール革命以降に急速に拡大しており、近年では米国に比して60%上回る水準にまで拡大している。それは戦後のピークに達する水準であり、エネルギー価格変動に対する日本経済の脆弱性が相対的に高まっていることを示している。日米RUEC格差の拡大要因は、エネルギー生産性格差の縮小と実質エネルギー価格差の拡大の両面によっている。近年、米国のエネルギー生産性の改善率は高く、日本の優位性はこの20年間で半減している。
日本経済における長期的な傾向をみれば、RUECが上昇へと転じた転換点は1990年代半ばである。オイルショック後に強化されたエネルギー価格高騰に対する耐性は、この20年間に再び脆弱化している。第一の要因は、おもに賃金率低下によって誘導されたデフレ型の実質エネルギー価格の上昇である。1990年代半ば以降、二度のオイルショックを含む期間(1973–1995年)に比して、名目エネルギー価格の上昇率は1/3ほどに縮小されたが、実質エネルギー価格の上昇率としては年率1.0%から1.5%へとむしろ高まっている。デフレ型のRUEC上昇は、エネルギー価格高騰に対する耐性の脆弱化がエネルギー多消費産業のみではなく、より広範な産業活動へ及ぶことを意味している。第二の要因は、エネルギー生産性改善における低迷である。実質エネルギー価格上昇が逓増傾向にありながらも、安価に利用可能な省エネ技術は限られたものとなり、エネルギー生産性の改善率は逓減している。
長期化するデフレ経済は、エネルギー価格高騰に対する脆弱性も増大させてきた。日本経済におけるエネルギー価格高騰への耐性強化のためには、再エネ推進のためのコスト拡大の抑制、原子力や石炭利用を含めた適切なエネルギーミックスの実現とともに、労働生産性の改善を通じた賃金上昇や高付加価値化など、デフレ経済からの脱却のための経済政策が求められる。

リンク情報
URL
https://www.dbj.jp/ricf/pdf/research/DBJ_RCGW_DP63.pdf

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