論文

2014年12月22日

「新しい島嶼学の創造」の必要性および沖縄における自然環境の保全及び適正活用に関する課題

国際琉球沖縄論集
  • 藤田陽子

2
開始ページ
111
終了ページ
121
記述言語
日本語
掲載種別
研究論文(大学,研究機関等紀要)
出版者・発行元
琉球大学国際沖縄研究所

本報告では、(1)研究プロジェクト「新しい島嶼学の創造-日本と東アジア・オセアニア圏を結ぶ基点としての琉球弧」(Toward New Island Studies-Okinawa as an Academic Node to Connect Japan, East Asia and Oceania) における問題意識と研究目的、(2)沖縄における重要な環境問題とその特徴及び解決に向けた課題に関する考察、の2点について述べる。(1)「新しい島嶼学の創造」プロジェクト 国際沖縄研究所の研究プロジェクト「新しい島嶼学の創造」は、島嶼地域の持続的・自立型発展の実現に向けた多様な課題について、学際的アプローチにより問題解決策を導出・提案することを目的とした事業である。従来の島嶼研究は、歴史や民俗、自然地理、文化人類学など、大陸との比較においてその特徴を捉えることを中心として展開してきた。また、「狭小性」「環海性」「遠隔性」といった大陸との相対的不利性に焦点を当てる研究も数多く行われてきた。こうした従来の島嶼研究の成果を踏まえつつ、本プロジェクトにおいては島嶼の不利性を優位性と捉え直すことによって島嶼地域・島嶼社会の発展可能性を探り、問題解決に向けた具体的な処方箋の導出を目指す研究を展開する。そのために「琉球・沖縄比較研究」「環境・文化・社会融合研究」「超領域研究」の三つの学際的研究フレームを設定し、島嶼に関する学際的・複合的研究を推進している。(2)沖縄における環境問題 沖縄の自然環境は、その生物多様性の豊かさや自然景観の美しさなどにより多数の観光客を惹きつけ、専門家の関心を集めている。しかし2003年には、沖縄本島北部やんばるの森を分断するように敷設されている林道の存在や、日本国内法が適用されない米軍基地の存在、重要地域の国立公園化など保護区域の設定が不十分であることを理由に、環境省が琉球諸島の世界自然遺産委員会への推薦を見送った。これは、長い年月をかけて培ってきたストックとしての自然は優れているが、それを維持・管理する人間側の体制が十分に整備されていない、ということを意味していた。2013年1月31日、環境省はこれらの課題に取り組みつつ奄美大島・徳之島・沖縄本島北部(やんばる地域)・西表島の4島を中心とした奄美・琉球のユネスコ暫定リスト入りを決定したが、最終的な世界自然遺産認定に向けては、自然保護に対する地域住民の認識の共有や、開発を制約する国立公園化など、困難な課題に直面している。在沖米軍の活動に起因する環境問題については、地位協定あるいは軍事機密の壁による情報の非対称性が問題の深刻化をもたらしている。米軍には、運用中の基地内で行われている軍事関連活動について日本あるいは沖縄に対して情報開示の義務は負わない。また、返還後の跡地利用の段階で汚染等が発覚した場合の浄化に伴う費用負担のあり方について汚染者負担の原則が適用されず、また汚染状況の詳細が予め把握できないことによる開発の遅延という経済的損失も地域にとっては大きな負担となる。これらの問題を解決するためには、地位協定の運用改善および改正を含め、日本の環境関連法あるいは米国環境法の適用可能性について検証することが不可欠となる。

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http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12000/30076/1/No2p111.pdf

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