基本情報

所属
東京大学 大学院総合文化研究科 地域文化研究専攻 教授
学位
学術修士(1994年3月 東京大学大学院総合文化研究科)
社会学博士(1998年7月 一橋大学大学院社会学研究科)

連絡先
zukoosanyahoo.co.jp
J-GLOBAL ID
200901086045243176
researchmap会員ID
1000268553

外部リンク

「農」的地域研究に向けて
 農村社会にフォーカスした地域研究には、二重の重要性があると考えます。
 一つ目が「問題としての農村」です。

   今後、世界の新興国や途上国でどれだけ「近代化」が進んだとしても、近い将来に農村が消失することは考えられません。それどころか、都市化・市場経済化・グローバル化がもたらす熾烈な競争の中で、闘いに敗れた、あるいは疲れ果てた人々がいざという時、安心して逃げ帰る(逃げ込む)ことのできる農村がますます必要とされるのではないでしょうか。いざという時、「逃げる」のは悪いことではなく、人間として当たり前の選択です。

 同時に、一国の中で農村は往々にして「社会的弱者」に位置付けられる人口が集中する場でもあります。貧困層、身寄りの無い高齢者、被差別民、身体・精神障碍者、高齢独身男性......農村に留まらざるを得ないこれらの人々が、農村に居ながらにして、なおかつ尊厳をもって生きられるように、農村地域の持ちうる資源やその利用可能性を探ることは、実践的な面でも重要な研究課題になってきます。
 もう一つが「方法としての農村」です。

   各国・各地域の社会や文化を深く理解する上では、大都市の中産階級などではなく、地域の基層でありまた原型でもある農村の暮らしから問題を立て、アプローチする方が有利な場合が少なくありません。私の主な研究手法は、農村地域に実際に赴いてフィールド・ワークを実施し、問題を発見したのちに、文献資料で補いつつ、農村社会学のフレーム・ワークを用いて現象を概念化し、分析することです。その意味で、人々の「暮らし」に視点を据えた「半径50メートルの地域研究」だと思っています。
 中国を中心としながら私がこれまで取り組んできた「農」的地域研究のテーマは、大きく六つの領域に分けられます。すなわち、(1)中華人民共和国建国初期の基層政権建設、(2)農村リーダー論、(3)村落ガバナンスとその資源、(4)ロシアやインドを視野に入れた比較農村研究、(5)都市=農村関係と県域社会、(6)農民の行動ロジックです。詳細は以下の通りです。
 (1)中華人民共和国建国初期の基層政権建設
 これは大学院生時代の研究テーマです。建国初期、共産党政権は何故、全国津々浦々の農村に支配を及ぼす事ができたのか。この問いをめぐり、留学中に実施した関係者へのインタビューを主軸として、エリート研究の手法で分析した博士論文で1998年に学位を取得しました。これを基にした著書が、『中国農村の権力構造』(2004年)です。
 (2)農村リーダー論
 20世紀中葉の中国農村に基層政権・基層幹部が形成された過程の研究からスタートして、近代以前や目下の21世紀の農村の展開にも関心を広げるうち、中国の近現代を貫きつつ、ローカルな公共性と国家・革命政党との結節点に「農村リーダー」が存在したことが浮かび上がりました。その形成過程についてイメージを提示したのが『二十世紀中国の革命と農村』(2008年)です。また、現代の「三農問題」における農村リーダーの位相を、中国の政治システム全体に絡めながら論じたのが、山東人民出版社から中国語で出版した『日本視野的中国農村精英: 関係、団結、三農政治』(2012年)です。
 (3)村落ガバナンスとその資源
 2000年前後から2018年にかけては、北京、山東、江西、甘粛、貴州などの村々でのフィールド・ワークが仕事の中心となり、複数の拠点村の定点観測に発展していきました。一見してばらばらで、自分勝手にさえ見える中国農民が、いかなる領域において、どのような条件の下で「つながり」、あるいは「まとまる」ことが可能になるのか、というのが主たる問題意識です。この研究は『草の根の中国:村落ガバナンスと資源循環』(2019年)の出版により纏められ、近年、中国でのフィールド・ワークが不可能になるとともに、一区切りとなりました。
 (4)比較農村研究
 2009年からは新領域研究「ユーラシア地域大国の比較」プロジェクトの仕事が大きな比重を占めるようになり、中国同様のフィールド・ワークをロシア、インドの農村でも展開してきました。その成果の一部が、「地方ガバナンスにみる公・共・私の交錯」(2013年)、“Principal, Agent or Bystander?: Governance and Leadership in Chinese and Russian Villages” (2013)、“Client, Agent or Bystander? Patronage and Village Leadership in India, Russia and China” (2015)、“A Village Perspective on Competitive Authoritarianism in Russia” (2016)、“Caste Composition in a Telangana Village, South India: Segmentation and Interdependence” (2021)などです。また、古いものですが日中農村の比較の試みとしては、「村落自治の構造分析」(2001年)があります。
 (5)都市=農村関係と県域社会
 比較研究と同時に、中国独自のコンテキストに沿った研究も引き続き行っています。なかで、「村落」から踏み出し、より大きな地域社会に目を向けたのが都市=農村関係、都市化、そして「県域社会」にかかわる研究です。現在、急速に都市化が進む中国ですが、この現象を理解するためには「県域」を軸とした「人的環流」(human circulation)を見極める必要がある、というのがここでの核心的なアイデアとなります。主な文章として、「コミュニティの人的環流―中国都市近郊農村の分析」(2011年)や「中国の都市化政策と県域社会─『多極集中』への道程」(2015年)、「都市=農村間の人的環流―中露比較の試み」(2019年)、「都市=農村間の人的環流―集団化時期中国の『交叉地帯』をめぐって」(2022年)があります。
 (6)農民の行動ロジック
 他方で、「村落」から出発し、よりミクロな方向に問題を深めようとしたのが「農民の行動ロジック」の研究です。「ポスト税費時代」とよばれる今日の中国農村で、農民の行動ロジックがドラスティックに変化しつつあることを指摘し、「他律的合理性」として概念化する試みが、「弱者の抵抗を超えて─中国農民の『譲らない』理由」(2018年)や、「『発家致富』と出稼ぎ経済─21世紀中国農民のエートスをめぐって」(2018年)、“Heteronomous Rationality and Rural Protests: Peasants’ Perceived Egalitarianism in Post-taxation China” (2022)、「見えない城壁:集団化時期中国農民の文化心理をめぐって」(2023年)などです。

No matter how far modernization progresses in emerging and developing countries, it is unthinkable that rural villages will disappear soon. On the contrary, amid the fierce competition brought about by urbanization, market economy, and globalization, there is an increasing need for rural areas where people who have lost the battle or are exhausted can safely escape. In times of emergency, "running away" is not a bad thing, but a natural choice for human agents.

Simultaneously, rural areas in a country are often places where socially vulnerable people are concentrated. The poor, the elderly without relatives, the discriminated against, the physically and mentally disabled, the elderly and single men... What is necessary for these people who have no choice but to stay in their rural areas to live with dignity? To answer this question, from a practical perspective, exploring the potential resources owned by rural communities is an important research topic.

Fumiki Tahara is a professor of rural sociology and China studies at the University of Tokyo, whose work mainly focuses on rural history, politics, and comparative governance based on fieldwork conducted in China, Russia, and India.

 


学歴

  6

主要な書籍等出版物

  6

論文

  47

MISC

  50

講演・口頭発表等

  11

共同研究・競争的資金等の研究課題

  17

所属学協会

  1