共同研究・競争的資金等の研究課題

2017年4月 - 2020年3月

核内STAT3運命決定シグナルの同定

日本学術振興会  科学研究費助成事業  基盤研究(C)

配分額
(総額)
4,680,000円
(直接経費)
3,600,000円
(間接経費)
1,080,000円
資金種別
競争的資金

IL-6刺激により活性化されたSTAT3は、SH2ドメインが相手のpY705を認識することで、より安定な平行型二量体を形成し、核内移行後もしばらく核内に留まり遺伝子発現を起こす。その後、pY705チロシン脱リン酸化と核外輸送が起こり、細胞質での再活性化を受ける。 先に、活性化により増加したSer727リン酸化がSTAT3pY705チロシン脱リン酸化を促進するとの報告をしていたが、今回、pY705と核外輸送は非活性化に伴って起こる別々の事象であって、pS727は、それらをもたらす非活性化過程を促進することを見出した。この非活性化過程には、pY705-SH2ドメインのタンパクタンパク相互作用が重要との考えから、相互作用接触面の構造解析と関与部分のSTAT3変異体の解析を行い、pY705よりC末tail(CTT)部分が自分のSH2 BGループに結合していることの意味を探った。CTT-SH2結合を緩める変異体STAT3 K709EやSTAT3 T714Aは、速やかなSTAT3非活性化を招き、CTT-SH2結合を強くする変異体(K657YとY640F)は、STAT3の非活性化を大きく遅れせることから、このCTT-SH2相互作用が、STAT3の非活性化の起こりやすさを決めると考えられた。pS727依存的にSTAT3非活性化が促進されるのも、このCTT-SH2相互作用を緩める機序が働くと想定され、pS727依存的な修飾がCTT部分に起こることで非活性化促進が起こると考えられた。最後の詰めをすませ次第、論文発表する予定である。制御キナーゼ群の同定を目指すスクリーニング系を稼働させ、キノームガイドRNAライブラリーの使用から、ノックアウトにより応答を低下させるキナーゼ群を求めつつある。また非活性化過程でのSTAT3二量体のコンフォメーショナル変化やN末ドメインの役割についての理解に大きな進展があり、STAT3非活性化機序のモデル形成が進んでいる。
STAT3の細胞内分布を解析するため、当初STAT3のN末端にFlag-tagを用いていたが、2017年末にN-末tagが小さくともN-Terminal domainを介したダイマー形成に影響を与えることを見出した。STAT3非活性化過程でのNTDダイマー形成の仕方を含めたSTAT3二量体のコンフォメーショナル変化の問題を構造解析から行うことにした。その際、構造解析と変異体の機能解析を組み合わせ、STAT3二量体形成を緩めることに関わる非活性化過程の研究を進めた。結果としてダイマー形成に関わる接着面の構造問題を深く学ぶこととなり、研究がより進むこととなった。
構造解析と変異体の機能解析の組み合わせは非常に有効であり、STAT3に生じる活性型変異と優性抑制型変異のほとんどの作用機序が理解しうる段階に達している。DNA結合活性の低下や増強、非活性化過程の阻害と促進などが構造の理解から説明できると考えている。説明できない変異は、核外輸送に関わると予想していることから、あらたな核外輸送シグナルの同定へと向かうことが可能であろうし、これまで役割の明らかでないリン酸化などの修飾の意味を見出すことも可能となろう。様々なアッセイ系の構築と関与キナーゼ群の同定作業へと進む足がかりができつつある。