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招待有り
2014年9月25日

アルツハイマー病脳における糖尿病関連遺伝子の発現異常とその意義:久山町研究

第56回歯科基礎医学会学術大会
  • 外間 正朗
  • ,
  • 岡 素雅子
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  • Julio Leon
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  • 二宮 利治
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  • 本田 裕之
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  • 佐々木 健介
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  • 岩城 徹
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  • 小原 知之
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  • 清原 裕
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  • 中別府 雄作

開催年月日
2014年9月25日 - 2014年9月27日
記述言語
日本語
会議種別
開催地
福岡市
国・地域
日本

世界では認知症患者は2000万人に上り、この数は高齢者人口の急速な増加により2040年までには8000万人を超えると予想されている。全認知症とアルツハイマー病 (AD)の日本の高齢者における割合は、ここ20年間で特に75歳以上で顕著に増加してきた。このため、認知症、特にADに対して効果的な予防戦略を立てることが重要となってきた。この目的を達成するためには、高齢者におけるADを含む認知症の危険因子を理解することが重要である。これまでの研究で、認知症、特にADの発症におけるインスリンと糖代謝の影響が示されている。久山町研究においても、高インスリン血症と高血糖が老人班の形成と強い相関性を持つ事が明らかになっている。
我々は、AD脳における分子病態を遺伝子発現の変化に注目して明らかにするために、久山町研究に献体された方の死後脳とADモデルマウスの海馬における遺伝子発現プロファイルの比較解析を行った。死後脳の前頭皮質、側頭皮質、海馬から得られたマイクロアレイデータについてAD、脳血管性認知症 (VD)、性別の3要因について分散分析を行ったところ,AD患者の海馬において最も顕著な遺伝子発現プロファイルの変化を認めた。同様の遺伝子発現プロファイルの変化は側頭葉と前頭葉でも認められた。この遺伝子発現プロファイルの変化の程度は,AD特異的な病理変化の程度と平行して海馬>側頭葉>前頭葉の順であった。AD患者とADモデルマウスの海馬における発現変化を比較解析したところ,精神疾患とADに関連する遺伝子群に加えてインスリン産生とインスリン・シグナリングに関与する遺伝子群の発現変化が共通に認められた。このようなAD患者の脳における遺伝子発現プロファイルの変化は末梢の糖尿病や糖代謝障害とは無関係であった。以上の結果は、ADに特有の病態が脳におけるインスリン産生低下とインスリン・シグナリングの異常をもたらすことを意味しており,末梢のインスリン抵抗性や糖尿病はこのようなAD脳におけるインスリン・シグナリングの異常を増悪させる可能性が示唆される。