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2015年2月26日

アルツハイマー病脳における遺伝子発現変化が引き起こす糖代謝障害と酸化ストレス

東京都総合医学研究所セミナー
  • 中別府 雄作

開催年月日
2015年2月26日 - 2015年2月26日
記述言語
日本語
会議種別
開催地
東京
国・地域
日本

脳・神経組織は,その機能,すなわち「神経興奮と神経伝導に関連したイオンの能動輸送」の維持に膨大なエネルギーを必要とする。成人脳の重量は全体重の2%前後であるが、脳機能を維持するには安静時に全身で消費するエネルギーの20%程度が必要とされることからも、脳機能を維持する上でエネルギー供給がいかに重要か、一目瞭然である。生体はグルコースの代謝で得られるATPを主要なエネルギーとして利用するが,そのほとんどがミトコンドリアでの酸素呼吸に依存して合成される
通常、グルコースは解糖系でピルビン酸まで代謝された後,ミトコンドリアのTCAサイクルに入り,電子伝達系と共役した酸化的リン酸化により高エネルギー化合物であるATPに変換される。ミトコンドリア電子伝達系の複合体I〜IVの間では電子が受け渡され,その時の酸化還元電位差によるエネルギーがATPに変換されるが,この電子伝達系から電子の一部が漏出して酸素分子に直接付加されるとスーパーオキシドを生じる。生理的な条件下においてミトコンドリアでの酸素呼吸により消費される酸素の数%がスーパーオキシドをはじめとする活性酸素に転換されることが明らかにされている。脳組織は他の組織の10倍以上の酸素を消費することから,活性酸素の生成も非常に高いと考えられている。
アルツハイマー病やパーキンソン病などの老化に伴い発症頻度が増加する神経変性疾患の主要な原因の1つとして酸化ストレスが注目されている。多くの神経変性疾患患者の剖検脳の解析から,脳組織に脂質やタンパク質の酸化体に加えて核酸塩基の中で最も酸化されやすいグアニンの酸化体である8-オキソグアニンが多量に蓄積することが報告されており,神経変性が酸化ストレスをともなうことを示す根拠と考えられている。
本セミナーでは,アルツハイマー病に注目し,九州大学久山町研究における剖検脳と動物モデル、iPS細胞由来神経細胞における解析の結果を紹介しながら、認知機能障害や神経変性に至る過程に酸化ストレスがどのように関与するのかを考えてみたい。