研究ブログ

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卒業生へ

卒業生へ

 君たちは大学で多くを学び視野を広げた。だからこれからは誰か他人の言うことを安易に盲信することはない。また多くの問題に唯一の正しい答案などないこと、そして自分自身の判断、自分自身の関心と趣味をもつことの大事さ、つまり自己を確立することの大事さも理解したはずだ。大学生活とはなんだったのだろうか。大学生活を通じて修得すべき最も重要な技術は、いかに一人で自立して学ぶかということだ。また大学生活を通じて君たちはどのように生きるかという人生の答案に気が付き、今何をするべきか理解したはずだ。つまり君たちが、自立して学ぶ術(すべ)を会得し人生の航路を見出したということが、今日君たちが大学を卒業し、社会に巣立つことの意味なのだ

 君たちが選んだ仕事で成功するにはどうすればいいか。SamuelSmilesSelf Help自助論(1858には次のような記述がある(竹内均訳 三笠書房 2003)。
「どんなビジネスにも、それを効率よく運営するのに欠かせない原則が6つある。それは注意力、勤勉、正確さ、手際のよさ、時間厳守、そして迅速さである。」(竹内訳p.127)そして「第一級のビジネスマンをめざすにはさらに、すばやい直感力と計画を断固やりぬく強い意志が必要だ。それとあわせて、世渡りをする上での如才なさも重要な資質である。」(p.137)さらに「なにごとにおいてもそうだが、ビジネスの場合も誠実さと正直な心が成功につながる。」(p.145
 
 君たちの多くは会社という組織で働くことになる。会社という組織の中で人はどのように生きるべきか。ここにマコーマックの『実践経営学』(日本経済新聞社出版社 2007という良き指導書がある。マーク・マコーマック(1930-2003)What theydon't teach at Harvard Business School, Bantam Books:1984は、ビジネスマンの会社内での生き方を論じている。

 つぎのように語っているけど参考にして欲しい。
 服装は職場に合わせて基本は地味にする。地味で硬い服装の人の方が信用される(As a general rule it is desirable to have your business dress saynothing about you-other than perhaps that your clothes fit)。
 時間を正確に守る。他人の時間をムダにする人は取引先や社内で信用されないThe quickest way to make a lasting negative impression is to wastesomeone's time)。会議時間に遅れない。スケジュールを守るためには、配分時間を多めにみる
 モラルを守らない人(公私混同 喫煙 賭博 差別行為・・・括弧内は福光による追記)は信用されない。犯罪(詐欺 贈収賄 不正支出 その他法規違反)行為をしない。秘密情報(会社内 同僚間)を聞き出さない。
 ともだちをつくる(Make friends)。なぜならAllthings being equal, people buy from a friend.それゆえにifyou are not going to keep friends, you had better be miles ahead of thecompetition.同僚を敵に回さない
see your peers as your allies,not as your competition. If you can hitch your wagon to a few of your company'sbrightest stars, you will climb right up the ladder with them.
 社内政治のグチをこぼさない。会議メムバーに選ばれることは仕事の時間を失うことだからメムバーに選ばれるかで一喜一憂しない。
 職域を超えて裁量を任された仕事こそ頭角を現すチャンス。
 能力をみせつけてはいけないが弱みをひけらかす必要はない。
 助けを必要とするときは助けを求める。物事を学び一緒に仕事をする姿勢を示す。一緒に仕事をする態度は同僚の支援の前提になる
(Asking for help is the way to learn, the way to expand yourknowledge, your expertise, and your value to the company. It also demonstratesa willingness to work with others. )
 間違いは率直に認める。それは正しいことを学ぶ機会になる。
感情を出してはいけない。感情をコントロールする。些細なことで不満を爆発させる人は未熟な人として社内の信用を失う
(The quickest way to lose credibility is to rage about minoroffenses because of a buildup over major ones....it also shows immaturity andreveals lack of good judgment.)
 スタッフの仕事ぶりに感謝する
 小さなミスをなくす。スペルミスやタイプミスをしない。ちょっとした小さな仕事での失敗やミスが取引先や上司の信頼を失わせる
 昇進したければ仕事の目標と優先順位について上司の判断基準を知ってそれに合わせる。上司と争わない
 不正行為をしない。不正行為は社内での信頼を失わせる。
 会社に個人的な主張(服装・勤務時間・社内カルチャーなどに対して自己を主張すること)を持ち込まない(Separate personal issues from corporate or substantive issues)

                      折に触れて連絡してください。

              fukumitu@seijo.ac.jp

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映像にみる大学

映像にみる大学の風景
Best Universities in the World 
April 2012 

日本の大学のビデオでよくできているもの
大阪大学紹介ビデオ(English) original in Feb.2010; re-upload in Jan.2014 
国学院大学紹介ビデオ(日本語) July 2013
名古屋大学紹介ビデオ(English)  Feb.2012
一橋大学紹介ビデオ(English) Jan.2012
秋田大学紹介ビデオ(English) Sept.2010
恋するフォーチュンクッキーの大学版から
関西学院大学 version. Feb.2014
慶應義塾大学応援指導部&体育会 version. Mar.2014
大学の建物も登場しないけど
神戸女子大学のCM song 関取花 むすめ
 

The social network(2010) trailer ここで描かれているのはHarvardの学生生活である。
See Anything could happen at Harvard Oct.2013 
 

Knowing (2009) trailer このtrailerには出てこないが 映画の冒頭ではMITキャンパスの外観がでてくる。主人公はMITの宇宙物理学者の想定。
See MIT Aug.2012
 

Across the Universe (2007) trailer この冒頭にでてくるキャンパスはPrincetonの風景である。

Lions for Lambs(2007)  lions for lambs(2007)は日本では人気がでそうもない真面目な映画。Robert Redford(1936-)が演じたのはカリフォルニアの私立大学West Coast Universityの教授。内容からすると政治学担当だろうか。レッドフォードは、自身監督したこの映画で、アフガニスタンに赴いた家庭があまり豊かでないが前向きな有色人種の学生たち。そして勉学にも政治にも関心を失っている中産階級の子弟たちを対比的に描く。その研究室Office of Prof.Malleyは、それほど快適には見えない。家族はいないのか、家族の影はみえない。自らの信条にしたがった生き方をレッドフォードはしてきたのか。その研究室には学生たちが、成績のことで次々に面会にやってくる。大学を社交術を学ぶ場と考え、成績評価だけを気にかけて社会への関心を失っている学生が示唆されているのか。勉学意欲を失った裕福な階層の学生にレッドフォードは、自らの人生、そして社会に積極的に関わることが大事だと問いかける。promise and potential are very fickle  教授の机の色はマホガニーだろうか。黒っぽい両袖。しかし両脇に本棚がありそれほど広い部屋ではない。教授の机の上には決済文書入れがある。学生がいきなり入ってくるのだから秘書はいないようだ。教授の部屋の外は廊下になっていて、頻繁に行きかう学生の姿がすりガラス越しにみえる。教授は明るい外光を背中に学生に語る。時間は午前中。教授はこの学生と話し合うために時間を作り学生を呼び出したのだ。

Stranger than Fiction(2006)  アメリカの大学教員の研究室は、これまでも映画の舞台に登場してきた。通常は内部は質素でそれほど豪華な空間ではない。この映画でDustin Hoffman(1937-)が演じたのはStranger than Fiction(2006)でのProf.Hilbertの役。これは文学理論の教授のようだ。ここでは学生は登場せず、Hilbert教授の落ち着いた執務室の側面が強調される。よくみるとHilbert教授の部屋はかなり広い。中央部には小さなイスが6客ほどカギの字型におかれていて、セミナーはできそうだ。かなり偉い教授のようだ。学生たちはここで教授と議論できる。そのほかに来客用のイス。教授の机がある。外の見晴らしもよさそうで建物の上層階であることが示唆されている。
Proof(2005)  この映画の舞台はシカゴ大学。したがってキャンパス風景はシカゴ大学と想定される。
Proof(2005) 
Mona Lisa Smile(2003) 以下はMona Lisa Smile(2003)から。画面の想定は1953年当時の規律に厳格なアメリカの女子大学。 Mona Lisa Smile what is art scene 

Lagally Blonde(2001) 以下はLagally Blonde(2001)のシーンから。Harvard Law Schoolの教室風景がでてくる。教室は古めかしいが、学生は全員がノートパソコンを持ち込んでいる。2001年の時点でこの光景は日本から見ると進んでいた 
fight for your dream with scenes of Legally Blonde (2001) 

Beautiful Mind(2001) これはJohn Nashについての自伝映画でPrincetonであることは明確なもの。
Beautiful Mind trailer
Good Will Hunting(1997) Good Will Hunting(1997)では Robin Williams(1951-)がコミュニティカレッジに勤める心理学者Sean Maguireの役で登場していた。その研究室はコミュニティカレッジの教員のもの。このWilliamsと友人の著名な数学者のProf.Lambeau(Stellan Skargarad)が有名大学(MIT)の教授というのが対比されていて、アメリカのコミュニティカレッジの意味や状況を考えさせる映画でもあったが、ここでWilliamsが演じる教授は主人公とまさにその研究室Office of Prof.SeanでMatt Damon(1970-)が演じる主人公Will Huntingと対峙する。Do you have a soul mate? Some one you can relate to, some one who opens things up for you.  個室ではあるが、Maguireの机(片袖)も調度も立派なものではない。研究室に寝泊りするのだろう隅には毛布がみえる。窓から外が見えないのは見晴らしの悪さを示唆する。部屋は廊下に面している。日中だろうが部屋は薄暗い。ドアを開けたとき、階段の一番下であることが見えるから1階か地階だろう。部屋の中央部にイスが4客。カーペットが敷かれ、来客と語り合う空間ができている。
なおGood Will Huntingについては Finding Forrester(2000) との類似性もよく指摘される。学校の場面という点ではこちらの作品は prep schoolという想定。しかしprep schoolの授業レベルは高いし、作家であるForresterの書斎の風景もある。 
Finding Forrester trailer 


Originally appeared in April 22, 2008. Corrected and re-posted in Feb.28, 2014


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人はいかに生きるべきか

  ネットで資料を探していてJames Allen(1864-1912)のAs a man thinketh(1902)に行きあたりました。その翻訳が数年前に派手な宣伝で売り出された『原因と結果の法則』(サンマーク出版 坂本貢一訳 2003年)でした。内容をみますと、人生に成功するのも失敗するのもその人の思いの結果なのであって、環境というのはその人の思いの産物だとしています。それゆえに「人間は思いの主人であり、人格の制作者であり、環境と運命の設計者である。」(坂本訳p.16)(man is the master of thought, the molder of character, and maker and sharper of condition, environment, and destiny)。この本の宣伝には辟易した記憶がありますが、これは確かに名著であるようです。
 Samuel Smilesの自助論Self Help(1856)と比較しますと、Smilesは、どちらかといえば目標に向けた日々の精励を説いています(読んでみたのは三笠書房版 竹内均訳 2003年)。Smilesには次のような言葉が並びます。
 「生まれつきどんなに膨大な富と高い地位が約束されていても、名声を得るには、その本人がたゆまず努力するしかない。」(竹内訳p.22)
 「何度もくりかえすように、われわれを助けるのは偶然の力ではなく、確固とした目標に向かってねばり強く勤勉に歩んでいこうとする姿勢なのだ。」(p.62)
 「芸術家が名声を得るのは、決して幸運や偶然の力ではなく、真摯な努力と勤勉の結果である。」(p.78)
 「真に価値ある目標は、勇猛果敢に取り組まなければ成就できるものではない。人間の成長はひとえに、困難と闘おうとする意思の力、すなわち努力いかんにかかっている。」(p.96)
 Smilesには人を驚かせるような夥しい事例が続きますが、それがAllenにはありません。Allenはどちらかといえば、心の内面(思い)の方に力点があり, Smilesはどちらかといえば、思い(意思)を定めたあとの精励と努力、つまりは自助に力点があるように見えます。つまり日々の努力が、結果に現れると。
 この目標どのように設定するかという点は若い人たちを見ていて悩む点です。ここでNolteを引用しましょう。
 Dorothy Law Nolteの11行詩*を紹介した『アメリカインデイアンの教え』(加藤諦三著 扶桑社 1990年)は親が子供に接するかで子供がどう育つかを教えてくれた本として記憶に残ります**。あの本の中で著者の加藤諦三さんは、ピグマリオン効果(人はどのように扱われるかによって変ってゆくということ)を説明していました(p.29)。James Allenは、それを自分自身の問題(つまり自分という人間を自らどういう人間として扱うかという問題)としてとらえているといえるのではないでしょうか。それゆえにまずはどのようなことを「思うか」が大事で、自身の環境にそれは表れると。
 「あなたの環境は、あなたの心を移す万華鏡です」(坂本訳p.40)
 AllenにもSmilesと似た記述はあり「人間は、理にかなった人生の目標を心に抱き、その達成を目指すべきです」「自分の思いを・・・[大きな]目標に集中してむけ、意欲的に達成を目指すべきです。」(訳pp.53-54)とあります。しかしAllenはこれをすぐに心の問題に変えて「私たちが達成に成功すること、また失敗することのすべてが、私たち自身がめぐらす思いの直接的な結果です。」(p.61)「成功を手に出来ない人たちは、自分の欲望をまったく犠牲にしていない人たちです」(p.67)と引き取っています。
 ただ少し考えてみると、Allenが考えている世界は現実とはかなり違うことは明らかです。環境といっても、たとえば経済環境は私たち個人の力では統制できることではありません。現代に生きる私たちは一人では仕事ができません。そこで組織に入れば、私たちはその組織に縛られます。組織と個人の関係が現代では重要なのではないでしょうか。まず一つはどういう組織を選ぶかという問題があります。
 自分を成長させたり、自分が最大の貢献をできる組織に身を置きなさい。腐敗した組織(上司が自分の昇進にしか関心がなく、有能な部下を支援する上司としての役割を果たしていない組織)や、成果が正しく評価されない組織は、あなたに合った組織でないから、辞めるべきです、とDruckerは教えています(Peter F.Drucker, The Daily Drucker, Harper Business:2004, pp.169,179, 277)。仕事を通じた自己啓発にもっとも責任があるのは自分だとします。そしてそのためには与えられた仕事で責任感をもって(have responsibility:holding yourself accountable)仕事をすること、完璧を期すこと(strive for excellence)を教えています。Druckerは仕事を通じて自身を成長させる(self renewal)のためには、常に「あなたはどのような点で記憶されたいのか(what do you want to be remembered?)と自らに問いかけることが有効だと指摘しています。(Peter F.Drucker, The Daily Drucker, Harper Business:2004, pp.176-177.これらの記述にはAllenやSmilesと重なる点もあるように思えます。
 つぎに組織の中でどのように行動するべきかという問題があります。これについては別に述べることにします。

http://jamesallen.wwwhubs.com/think.htm as a man thinketh 全文
http://www.mindsofpower.com/as-a-man-thinketh-quotes/ minds of power com 
http://blog.goo.ne.jp/fu12345/e/b4382f12f9c38af96988d3ca6bd50367 マコーミックの実践経営学</a>

**   http://www.empowermentresources.com/info2/childrenlearn.html  Children learn what they live by Dorothy Law Nolte
 **なお親子の関係(親が子どもにどう接するべきか)についてはジブラーン『生きる糧の言葉(1923)』(岩男寿美子訳 三笠書房 1985)Kahlil Gibran, The Prophet, 1923に次のような美しい言葉があります(岩男さんの訳がいいのかも)。Nolteはどちらかといえば、親が子どもに与えるいい感化を信じているのに対して、こちらは子どもを信じて矢として解き放ちなさいと教えています。
「子供について 親は弓、子どもは生きる矢
・・・・
子に愛を注ぎなさい。だが考えを押し付けてはいけない。
子には子の考えがあるもの。
あなたは子の肉体に住まいを与えるがよい。だが魂にまでは住まいを与えることができない。
子の魂は、夢の中でも訪ねられない、明日の館に住んでいるもの。
あなたが子のようになろうと努めるのはよい。だが、わが子をあなたのようにしようと願ってはならない。
生命(いのち)は後戻りせず、昨日に留まりもしないもの。
あなたは弓。その弓は、生きた矢として、あなたの子を放つ。」(岩男訳pp.31, 33)
 
 ところで中国語の語学テキストには教育的なお話が書かれていて、参考になることがあります。暗唱用テキストを見ていてつぎのような例文がありました。
 若者が自分の発展目標を確定する時に、現実にそぐわない理想を持って自分の目標と定めるべきではない。このようにして自分の予定した目標を実現出来ないことによって生じる苦悩から免れることができる。同时,年经人在为自己确定发展目标时,不宜将一些不切实际的理想定为自己的目标。这样,就可以免去因为无法实现自己的预定目标而产生的苦恼。(聴読中国語、ナガセ:2008, pp.252-253)
   これは言いにくいことをはっきり言っているので驚きました。明らかに現実的な目標を置けと読める表現ですね。辞書の例文にも以下のフレーズがありました。
 让学生参加一些力所能及li4suo3neng2ji2的劳动。学生に能力に見合った仕事に参加させる。(现代汉语词典 六版 p.796)
 ですが目標ですから少し高い目標(希望望子成龙)というのが親心です。それと同時にジブラーンなどが言っていることは目標の置き方も含めて、干渉せず遠くから愛情を持って見守るという態度が親の取るべきものだということでしょう。どういう目標がいいかも多分一人ずつ違うのです。こどもを信じてこどもの成長を願って親は子供を解き放つ。こどもが自分なりの幸福を見つけてくれることを信じて。


2012-02-13
2014-07-02更新

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社会に巣立つ学生たちへ

 
 
 人はそもそもどういう仕事を選ぶべきでしょうか。Druckerは企業が経営戦略を立てるように、人は自身の強みや弱み(限界)を知るべきで、自身を知る責任を担うべきだと言っています。自分のこと(自分の強みや弱み)をよく知って、自分の経歴を自分で管理しなさいと。そして自分の能力をもっとも発揮できる、自分を成長させられる仕事をDruckerは勧めています。あなたがその仕事をすることで、あなた自身に生まれる違いこそ重要だと。Peter F.Drucker, Daily Drucker, Harper Business:2004, pp.169,176-177,179, 277. 

 ではそうして選んだ仕事で成功する秘訣は何でしょうか。Samuel SmilesのSelf Help自助論(1858)には次のような記述があります(竹内均訳 三笠書房 2003)。
「どんなビジネスにも、それを効率よく運営するのに欠かせない原則が6つある。それは注意力、勤勉、正確さ、手際のよさ、時間厳守、そして迅速さである。」(竹内訳p.127)
そして「第一級のビジネスマンをめざすにはさらに、すばやい直感力と計画を断固やりぬく強い意志が必要だ。それとあわせて、世渡りをする上での如才なさも重要な資質である。」(p.137)さらに「なにごとにおいてもそうだが、ビジネスの場合も誠実さと正直な心が成功につながる。」(p.145)
 こんなことが19世紀にすでに指摘されているのは驚きですね。

 問題は、現代では仕事をするために、どこか企業に就職することが多いということです。そこで就職面接という場面がでてきます。多くの学生にとって人生の最初の関門はこの採用面接での受け答えにあります。
http://www.youtube.com/watch?v=Nr2bpcpNQWY&feature=related Job Interviews
 ポイントは次のような質問への答えを用意することにあるようですが、これを機会を設けて学生に伝える必要がありますね。
1)what is your biggest weakness? Answer the question how you have made efforts to overcome your weakness.自分の最大の弱点を述べて、その弱点を克服するためにどのような努力をしてきたかを説明すること。
2)why should we hire you? Read job description well and explain how the job fits to you.募集要項を熟読してその仕事がなぜあなたに合っているかを説明すること。
3)why do you want the job? Study the mission statement of the company, and explain how it overlap your own goals. 会社の目指すところをよく調べて、それがあなた自身の目標といかに重なっているかを説明すること。
4)tell me about yourself? Explain how you've prepared well through your life showing specific examples. You have to confirm why you're the best candidate.  経歴を述べて自分こそ最良の応募者だという確信を相手に伝えること。
そして面接で守るべきこと:Do's in interviewing
1)指定された時間を守る arrive on time 十分な余裕をもって会場につくこと
2)外見と印象に気を使う good appearance and impression
3)健康そうに笑顔を忘れず look good, smile
4)十分準備する go prepare(bring with resume) 資料を十分読んでゆくこと
5)自らの長所を語れるように be prepare to speak your value
6)会社にどのように貢献できるか and how they can contribute to the job and the company you can say I am competent at .... so....
7)目を見て話す eye contact
8)自信をもって積極的に stay positive (act with confidence)
9)事前にその会社をよく調べる research company

してはならないこと:Don't in interviewing
1)遅刻 arrive late(lateness)
2)不適切な服装 be inappropriately dressed(not professionally dressed)
3)履歴書の不備   not bring resume
4)聞かれていないことをしゃべること give too much information(answer the question not to tell what they don't ask, talking too much)
5)その会社に無知であること know nothing about the company
6)ウソをつくこと dishonest
7)個人的問題を述べること don't discuss your personal problem
8)待遇について聞くこと don't talk about salary(bring up salary expectations too early)
9)会社や仕事について消極的な発言をすること don't refer negative reference on the job and the company  http://www.youtube.com/watch?v=opYjNr_4A5k&feature=related 

 めでたく入社したあとについては、 マコーマックの『実践経営学』(日本経済新聞社出版社 2007)という良書があります。。マーク・マコーマック(1930-2003)のWhat they don't teach at Harvard Business School, Bantam Books:1984は、ビジネスマンの生き方を論じた書物です。会社内での生き方、営業の仕方、起業の仕方などを論じています。

 まず会社内での生き方についてはつぎのように語っています。
 服装は職場に合わせて基本は地味にする。地味で硬い服装の人の方が信用される(As a general rule it is desirable to have your business dress say nothing about you-other than perhaps that your clothes fit)。
 時間を正確に守る。他人の時間をムダにする人は取引先や社内で信用されない(The quickest way to make a lasting negative impression is to waste someone's time)。会議時間に遅れないこと。
 スケジュールを守るためには、配分時間を多めにみる。
 モラルを守らない人(公私混同 喫煙 賭博 差別行為・・・括弧内は福光による追記)は信用されない。犯罪(詐欺 贈収賄 不正支出 その他法規違反)行為をしない。秘密情報(会社内 同僚間)を聞き出さない。
 ともだちをつくる(Make friends)。なぜならAll things being equal, people buy from a friend.それゆえにif you are not going to keep friends, you had better be miles ahead of the competition.同僚を敵に回さない。see your peers as your allies, not as your competition. If you can hitch your wagon to a few of your company's brightest stars, you will climb right up the ladder with them.
 社内政治のグチをこぼさない。会議メムバーに選ばれることは仕事の時間を失うことだからメムバーに選ばれるかで一喜一憂しない。
 職域を超えて裁量を任された仕事こそ頭角を現すチャンス。
 能力をみせつけてはいけないが弱みをひけらかす必要はない。
 助けを必要とするときは助けを求める。物事を学び一緒に仕事をする姿勢を示す。一緒に仕事をする態度は同僚の支援の前提になる(Asking for help is the way to learn, the way to expand your knowledge, your expertise, and your value to the company. It also demonstrates a willingness to work with others. )。
 間違いは率直に認める。それは正しいことを学ぶ機会になる。
感情を出してはいけない。感情をコントロールする。些細なことで不満を爆発させる人は未熟な人として社内の信用を失う(The quickest way to lose credibility is to rage about minor offenses because of a buildup over major ones....it also shows immaturity and reveals lack of good judgment.)。
 スタッフの仕事ぶりに感謝する。
 小さなミスをなくす。スペルミスやタイプミスをしない。ちょっとした小さな仕事での失敗やミスが取引先や上司の信頼を失わせる。
 昇進したければ仕事の目標と優先順位について上司の判断基準を知ってそれに合わせる。上司と争わない。
 不正行為をしない。不正行為は社内での信頼を失わせる。
 会社に個人的な主張(服装・勤務時間・社内カルチャーなどに対して自己を主張すること)を持ち込まない(Separate personal issues from corporate or substantive issues)。

 つぎに営業という仕事については
 営業交渉については、沈黙(相手に語らせ余計なことを言わないこと)の重要性、慎重で粘り強い行動、譲歩により長期的利益を目指すことなどが指摘されています。

 無口になってむしろ相手にしゃべらせること(相手から情報をえる 自分の考えを整理して慎重に発言する)。結論が出たら沈黙を守る。
 ともかく相手の話を真剣に聞く。
 譲歩する。相手の個人的関心に触れ相手を喜ばせることは有効。
 ともかくできるだけ早く直接会うこと。遠距離でも会いにゆく姿勢は好感される。
 慎重に行動する。知らないことは知らないとする。知らないことは聞く。
 自分のすべての知識を知らせるべきではない。知っていると思われていることには十分な知識がないとする。無知と思われているときは逆に、専門知識を披歴する。
 長期的な利益を目指す。譲歩と粘り強さ。営業にはタイミングがあり、時間が問題を解決することもある。交渉で対決をしてはならない。
 電話はこちらからはとらないで自分でかけなおすことで、かける相手と時間を選ぶことができる。

 マコーマックが優れているのは経営書にありがちな経営者の視点でないことです。一介の勤め人、多くの人がそうであるように組織に属する、雇われる人の立場で、職場内での振舞いをどうするべきかに付いて論じている点だと思います。だからこそマコーマックは、勤め人の共感を得やすいのだと思います。
 部分的にはマコーマックが書いたようなことを指摘した人はいます。たとえば説得術についてはデール・カーネギーDale Carnegie(1986-1955)の『人を動かす』(1936)が書いていますし、カーネギーはスピーチについてもテキスト(1926)を残していて参考になります。カーネギーは説得術として、相手の関心を話題にする、相手の意見に耳を傾け誤りを指摘しない、相手の考えや欲求に共感を示す、相手の美徳に訴えるなどの項目を、並べていますが、これはマコーミックが営業交渉で述べている点と似てますね。ただマコーミックのように総合的なものは珍しいですね。

 なお仕事について、私自身にもこういうことを教えてくれる人がいました。それは仕事は攻めてやれというものです。その意味は、理由をつけて後延ばしにせずに、片付けることで、仕事の効率があがってゆくというものです。こうした教えの本もたぶん沢山出版されたと思いますが、手元に残してあるものにケリー・グリーソンの『なぜか「仕事がうまくいく人」の習慣』(東洋経済新報社, 2001年)Kerry Gleeson, The Personal Efficiency Program: How to get organized to do more work in less time, 2nd ed., 2000があります。
 こうしたタイプの本は軽く見られがちです。でも日々の仕事をしてゆく上で、ちょっとした手がかりになるように思います。

2012/02/15
2014/07/01更新

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『走不出的風景』を読む

 本書は2011年4月の出版で、2011年9月に北京大学を訪れたときに、大学近くの本屋で求めた。著者は北京大学元法学院長の蔿力である。蔿力は1955年生まれ。若くして従軍。工員となったのは文化革命の影響だろうか。1978年に再開された大学入学試験に合格して、北京大学法学院に進学。1985年に米国留学。博士号を得て、1992年から法学院教授。2001年から2010年まで法学院長を務めた。こうした経歴は蔿力の際立った能力を示している。その蔿力の入学式や卒業式の式辞などを集めた本書は、とても興味深く思える。
 一連の式辞から読み取れる、蔿力の大学教育についての考え方を、2001年9月7日の入学式式辞(pp.5-8)を中心に紹介する。
 蔿力は大学教員にとっては見慣れた(司空见惯)この入学式の日が、新入生にとっては人生のもっとも重要な時間の一つに違いないとして、新入生に対して、君たちは挑戦の準備をする必要があると問いかける。
 この挑戦は君たちが考える勉強のことではない。勉強のことでは君たちの能力を信頼していると続ける。また大学の勉強で最も重要なのは知識ではなく、一つのことから多くを知るようような(举一反三,触类旁通)、応用能力の高い(能够综合运用)学習能力を培養することだとする(この指摘も大変興味深い)。そして重要な挑戦は、勉強以外のことにあると、もう一度念押しする。
 最初にする挑戦は、失敗を受け入れることを学ぶことだと蔿力は指摘する。そして君たちは、北京大学の法学院に入学して意気揚々(意气风发,春风得意)として世間からももてはやされている(天之骄子)であろうが、これまでのように成績で学年トップにはなれないと続ける。勉強以外の生活でも、失敗や挫折があるが、それを受け入れ向き合うことが、最初の挑戦だとする(ここには成功体験だけしているために失敗や挫折に弱い青年像がみえる)。
 第二の挑戦は、集団や社会の中で競争しながら、自身を発展させることだとする。個人の知識や能力は有限であることからも、競争しつつも互いに協力し互いに学ぶことが必要として団体(团队)精神培養を説いている。競争、協力、指導、服従の4つを現代の法律職業人に必要な能力として指摘している(こうした指摘は中国を集団主義の社会と思いこむと意外にみえるが、集団行動が苦手な中国の現代青年像がそこには透けてみえる)。
 第三の挑戦として、蔿力が説くのは、職業的な責任と規律である。また学術的研究にも一連の規範と規律があるとする。そして選択した行為には、結果に対する責任が伴うことも指摘している(ここは少し政治的なことに触れているようにも感じる。翌年2002年7月9日に大学院の卒業生に向けた「珍重自己」と題した式辞にも同じ趣旨を感じる。pp.13-15.この式辞では、自分の才能をどこで使うかをよく考えるように諭して、そうあってはならないことの表現として三国演義から见小利而忘命,干大事而惜身‘小さな利益のために命をかけ、大事に臨んで身を惜しむ を引用している。なお規律を強調しつつ、教わったことを機械的に復唱することを蔿力が説いているわけではない。2002年7月17日に学部生卒業生に向けた「你们不再提问了」pp.9-12では、君たちは多くを学び視野を広げたのであるから、先生の言うことを二度と盲信することはない。多くの問題に唯一の正しい答案などなく、君たちは自身の判断、自身の関心と趣味をもつことを理解したはずだとする。最も重要なことは、君たちは如何に独立学習するかを理解したはずだ、如何に人生の答案を探し当てるかを理解したはずだということ。それが君たちが今日卒業し、遠くに出てゆく意味なのだと説いている。この2002年7月の式辞には蔿力の考える大学教育の理想がよく現れている。なお卒業を門を出て遠くに行く:远行と表現するのは、2001年6月7日の卒業式式辞からの借用。)。
   最後に蔿力は、2001年9月の入学式式辞を、法学はそもそも高度に実務的学問でもあって、中国社会の理解は不可欠であり、また実際のプロセスでは失望や困惑がつきものであるが、それが生活というものだとまとめる。さらに言葉を足して、法学院で3-4年の生活をすれば法律人としての成功が保証されているわけではないが、卒業するときに、3つの挑戦への準備は十分できたと、君たちが言ってくれるものと、希望し信じていると結んでいる。

送別の辞(蔿力からの着想を得て学生に語る)

 

 君たちは大学で多くを学び視野を広げたのであるから、これからは誰か他人の言うことを安易に盲信することはない。多くの問題に唯一の正しい答案などないこと、そして自分自身の判断、自分自身の関心と趣味をもつことの大事さ、つまり自己を確立することの大事さも理解したはずだ。大学生活とはなんだったのだろうか。大学生活を通じて修得すべき最も重要な技術は、いかに一人で自立して学ぶかということだ。また大学生活を通じて君たちはどのよう生きるかという人生の答案に気が付き、今何をするべきか理解したはずだ。それがつまり君たちが、自立して学ぶ術(すべ)を会得し人生の航路を見出したということが、今日君たちが大学を卒業し、社会に巣立つことの意味なのだ。
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保険はビジネスとしてなぜ成立するのか

保険と正規分布
 insuranceとassuranceについて,Clarkeは次のように言ってます。この二つの言葉の今は同じように使うけれど、元の意味は。assuranceは死のように不可避のリスクに対して使い、生ずるかどうかわからないリスクについてはinsuranceを使ったと(William M.Clarke, How the City of London Works, 5th ed., 1999, p.27)。またすべての人が同じ時刻に同じ災害に会わないことから、premiumと呼ばれる保険料を支払うことで特定のリスクから自らを守ることが可能になるのだと述べています。

保険ビジネスはリスクの推定により成立している
 保険を成り立たせているのは、大数の法則law of large numbersと中心極限定理central limit theoremだとされています。大数の法則によりたくさんの標本を集めるほど、その平均は確率的な平均値に近くなります。また中心極限定理により、同質の確率変数の確率密度関数を多数合計したものは正規分布になります(甲斐良隆・加藤進弘『リスクファイナンス入門』金融財政事情研究会 2004, pp.40-42)。(ここではこの正規分布になることへの疑問に関する議論は置いて話を進めます)
 このようにリスクの大きさが推定できることで、保険会社からみて保険ビジネスが成り立つわけです。
  損害保険は、リスクプロファイルが類似しているリスク(同質のリスク)をプールし、大数の法則にのっとって運営することで成り立っています(市川雅一「企業のリスクファイナンスと金融機関」『金融財政事情』05年10月17日号, p.38)。「正規分布はリスクマネジメントシステムの中核をなしている。保険ビジネスは正規分布につきる。」「それゆえにこそ・・・保険会社は・・・信頼できる推定値の下に対処できるようになっている。」Peter L. Bernstein, Against the Gods, 1996.ピーター・バーンスタイン著 青山護訳『リスク 上編』日経文庫, 2001, pp.242-243.というわけです。

なぜ多額の保険料を支払うのか
 しかし保険がビジネスとして成り立つのは、保険の加入者がいるからです。そして正規分布から推定される(保険会社が推定するよりも)よりも多くを保険料として私たちが保険会社に支払い、保険会社が利益を得られるからです。なぜわれわれは、リスクに比べて多くの保険料を支払うのでしょうか。
 われわれの支払う保険料が、家が焼失したり、宝石が盗まれるかもしれない統計的オッズ(可能性)を上回っているのはなぜでしょうか。その理由について、確実な小さな節約(保険料を支払わない)よりは、可能性は低くても大きな利得をわれわれが好むからだとケネス・J・アローが1971年刊行のリスクについてのエッセイで考察しているとバーンスタインが紹介しています。ピーター・バーンスタイン著 青山護訳『リスク 下編』日経文庫, 2001, pp.55-56.
 このように保険料を払う私たちの行動については、行動経済学が説明しています。
 その行動経済学によれば、人間が行動するとき頼る直感に近い判断=<b>ヒューリステック</b>heuristicを使っています。しかしこの種の判断はしばしば不合理です。ではなぜそうなるのでしょうか。それはすべての情報を考慮せず情報を単純にしてたとえば一つの数値にだけ絞って判断したり(単純化)、与えられた情報で判断をゆがめめてしまう(アンカーリング*)からだとされています。あるいは、目の前に正しい情報があっても期待している情報だけを見ようとしたり(選択的観察)、先に与えられた情報に引きずられたり(プライミング効果)、一番最後に与えられた情報の影響を強く受けたり(初頭効果)するからだというのです。
    *目につきやすい情報(アンカー)によって判断は左右されやすい。
  **比較のフレーム(レファレンスポイント)が変わると判断が変わってくる。 
 ところで意志決定の一般的な枠組みについては、Hertbert A.Simon(1916-2000)により早い段階に展開されています。Herbert A.Simon, <i>Administrative Behavior</i>, 4th ed., The Free Press, 1997, pp.45-47, 93-97の古典的説明をみましょう。この本の初版は1947年です。
 Simonは合理性の制約を説いています。組織の効率は、決定を行う個人が正確な決定を行う能力上の限界、そして業務を遂行する能力上の限界の制約を受けるとしています。そして技術的熟練度、価値観、職務に関する知識などがこの制約の要因になっているとしています(Simon, op.cit., pp.45-47)。また合理性というのは選択の結果についての完全な知識と予想を必要とするが私たちの知識は常に部分的なものに過ぎない、合理性はすべての可能な選択肢からの選択であることを必要とするが実際の行動ではそのうちのごくわずかが思い浮かぶだけである、などとしています(Simon, op.cit., pp.93-94)。
  近代的な表現に置き換えましょう。合理的な(最適な)行動をとるためには、目的関数が分かっていてすべての選択肢の属性・数量・結果が既知でなければならないが、それは不可能です。つまり私たち人間がとりうる合理性というのは<b>限定合理性(bounded rationality)</b>とならざるを得ないのです。 最適化ではなく限定された情報の中での満足化(satisfying)が私たち人間の行動であり、そのとき直感に近いheuristicな判断がしばしば用いられるのです。

 行動経済学が提起するもう一つな重要な概念はプロスペクト理論です。これは利益をなるべく早く手に入れたいとする一方、損失についてはできるだけ先送りしたいとする人間の傾向だとされています。投資で損切りがなかなかできないのはこの傾向があるからです。背景にあるのは人間の価値関数の形状です。私たちは低い確率の宝くじの当選を期待する一方、確かに交通事故だとか海外での事故などとの遭遇には案外鈍感です。これは自分で調整できると思いこんだリスクを私たちは低く評価する一方、宝くじを買った行為を正当化する心理が働くからです。

 保険料にどれだけ支払うかには、以上のヒューリステックとプロスペクトの2つの概念が関係してきますが、それほど高くない確率の損失に対して保険料を支払うのは、保険金の受け取りというイベントだけが意識される(利益を早く得たいと考える)からでしょう。それは宝くじを購入する人がなぜ小さい確率を過大評価するのかという問題とも似ています(参照 甲斐良隆・加藤進弘『リスクファイナンス入門』金融財政事情研究会 2004, p.49)。

  保険をめぐっては付随保険や特約について、契約時や本体保険請求時に受給できることを十分説明せず]、請求がないなどとして支払いを怠る「未払い問題」が繰り返し話題になった。ただそこで問題は、この請求を促すことで保険金の支払いが増えると、最終的には保険料金の値上げにつながるという問題がある。
 業界の慣行が消費者を軽視するものだった。本体と特約をセットで販売。不透明な保険料設定。不要不急の付加のカットで保険料引き下げを。

 自動車保険
 若者のクルマ離れが続いている。
 高齢者の事故が増えている。高価な電子部品が増えて修理費が高止まりしている。
 自動ブレーキ技術の普及で事故が減る
 将来のリスク 保守的にみると 高い保険料になる。
  新しいリスク あたらい車種。 ⇒高い保険料 
 2013年秋に事故を起こした人の保険料を3年間割高にする制度を入れたところ、軽微な事故では保険金を申請する人が減少して、 保険会社の収支が改善された。  

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欧米の日本化あるいは日本のギリシャ化

 欧米経済の日本化をめぐる議論が散見されるようになり久しい。ここで日本化はあまりよい意味ではない。日本の低成長あるいはデフレを念頭に、日本のように低成長に陥るというのがよく見る論法だ。日本がそうなったのは資産価格の低下により、バランシシート調整が必要になったため。こうした日本化の議論では、日本の現状は良くないことを前提に、日本化は事態が悪化するイメージと重なる。
 この欧米の日本化の議論は、日本人にはなじみにくい議論なのではと思う。
 ここでは欧米の日本化の議論と、日本のギリシャ化の議論を比較して、どちらが日本人に受け入れやすいかを、論じてみたい。
 というのも日本の現状に、日本人はどれほど否定的だろうか。たとえば欧米経済に比べて日本は失業率が低い傾向がある。これは肯定されていいことではないか。またデフレについても、すでに高齢化社会である日本社会では(年金生活者には物価が安定していることは大事なことであり)、批判は低いのではないか。そのためか欧米の日本化を説いて、悪化だと説く議論は、日本人には受け入れにくい議論なのでは。つまり多くの日本人は本音では、日本の現状(失業率が低く物価が落ち着いている状況)をそれほど悪く思っていないのではないか。
 確かに、国債に投資資金が集中して国債金利が低下して、株式の配当利回りを下回る状況や、株式からの資金流出により株価が下がりPERが低下する現象は、国際的に広がっているようではあるが。欧米と日本との違いの差の収斂、つまり経済状況の収斂が見えている、つまり「日本化」が進行しているのも事実ではあるが。
 これに対して日本のギリシャ化というのは、国債の消化が国内で95%という幸せが、いつまでも続かないとする議論だ。ギリシャのように国債金利が高騰し、国際的支援を受ける国になるとする議論だ。金利高騰による国債の暴落、金融機関の破たんという先行きが、当然予想されると。日本のギリシャ化は、日本の現状が悪くなるという言葉のイメージである。つまり、ギリシャ化は歯車が狂って日本が現状より悪くなるというイメージだ。
 日本の現状をそれほど悪いものと思っていない多くの日本人にとって、このギリシャ化の議論の方がわかりやすいのではないか、不安として意識されやすいと思うがどうだろうか。
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ピーターの法則

                              
 ピーターの法則は、階層社会ではすべての人は昇進を重ねて、おのおのの無能レベルに到達する(渡辺伸也訳『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ダイヤモンド社 2003年)というもの。
 原著は1969年に初版。1998年にペーパーバック版。たまたま本屋さんで2009年の新しいペーパーバック(Harper Business)を見つけた(Laurence J.Peter and Raymond Hull, The Peter Principle, Harper Business:2009)。問題の法則の英語は 
 In a hierachy every employee tend to rise his level of incompetence.
 著者は、人間の意識の底にある昇進願望が人を無能レベルにまで至らせ、却ってその人間や社会を不幸にすると説いている。自分が有能にこなせる仕事にとどまることが健康と幸福の秘訣だと著者はいっている。そしてそれが社会全体のためにもなると。仕事とは無関係な無能ぶり(=創造的無能creative incompetence)をさらすことで、昇進の機会を遠避けることを著者は勧めている。この教えも皮肉たっぷりだが、ピラミッド型の階級制度は有能な人が無能になるまで昇進することを防いでいるという見方(第7章)などほかの記述もとてもシニカルで刺激的だ。
 なお昇進した途端に無能に陥る問題(sudden incompetence)について、Druckerは次のように別の解釈を示しています。無能になるのは間違ったことをしているからだ。新しい役割が求めるさまざまなことに集中することが必要なのに、これまでの役割で成功したことを続けているからだ。Peter F.Drucker, The Daily Drucker, Harper Business:2004, p.175.確かにDruckerのように言うこともできますね。
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東日本大震災とリスクマネジメント

 日本で、リスクマネジメントが盛んに議論されるようになったのは、金融商品取引法が成立(2006年6月)して内部統制報告書の作成開示が義務付けられて(2008年度)からだろう。法律を順守する(コンプライアンス)体制の構築とともに、大きな災害が起きた際の事業継続計画business continuity plan作成も、これを機に本格化した。
 ところで2011年3月の東日本大震災は、リスクマネジメントに絡んでいくつかの論点をつきつけているが、いずれもすでに出されていた難題である。
 その一つが統計的リスク管理手法の限界である。リスク管理に統計学的手法を応用することはすでに一般化しているし、今回の東京電力福島原子力発電所の場合も用いられていた。しかし結果からみるとこの手法は、十分な対策をとらないことを正当化するために使われることがある。用いることのできたデータからはリスクは予想できなかった。用いることのできたデータから予想できるリスクに対しては、十分な対策をとったなど。
 この手法に、従来から指摘があったのは、用いるデータによる制約だ。たとえば江戸時代の大津波のデータが入っていなければ、結論はそのデータに左右される。
 加えて地震のような自然現象については、その頻度と規模の関係はべき分布になるという指摘がある。だとすると、平均値や標準偏差に頼った従来リスク管理の手法ではこのリスクは管理できない。巨大地震が明日起きるかもしれないという前提で、リスク管理をするべきだということだろう。
 そこでにわかに注目を集めているのが重大事象を想定したストレステスト(耐性調査)だが、この議論は、金融機関に対する自己資本規制の問題と重なっている。金融機関の自己資本規制でも、ストレステストをかけて自己資本の過不足を議論するようになった(
2009年アメリカ そして2010年と2011年にヨーロッパ)。つまり原子力発電所における統計的管理手法の限界とストレステストによる補完は、社会科学の世界では、すでに知られていた問題とその対処方法だといえる。つまり手法は分かっていたが、使用されなかった。つまり人は用いる手法の限界を、経験によって学ぶしかないのかもしれない。
 行われているストレステストはコンピューターの上でのシミュレーションで地震や津波に原子炉が設計上どこまで耐えられるか(設計上の問題点)を示すものとされる。しかし実際の地震では、防護策が機能するかが大きな問題だ(機器の故障や人間のエラーなど)。防護策が機能しない可能性や、原発立地が集中してリスクが高い地域をどう考えるかなどの検証は今回のストレステストでは、検討が不十分かあるいは検討自体されていないようだ。原子力発電所のある自治体の長が、ストレステストの結果が出たから、原発を再稼働を直ちに認めることにならないとするのは当然の反応だろう。
 
 

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