近年、受精卵移植(ET)の普及により、酪農家における黒毛和種ET産子の生産が増加しているが、その産子の疾病や死亡事故の多発が問題となっている。本研究では、黒毛和種ET子牛における加熱初乳の給与が、子牛の発育状況や血液中の免疫グロブリンG(IgG)濃度および炎症性サイトカイン濃度に及ぼす影響について調査を行い、加熱初乳給与の有効性を検証した。黒毛和種ET子牛を供試し、6頭に非加熱初乳(非加熱区)、6頭に低温殺菌器による加熱処理(60℃30分)した初乳(加熱区)を、生後2時間以内に生時体重の5%量を1回給与した。また、その12時間後に再度同量の初乳を給与した。初乳給与前から10週齢まで臨床所見の観察および採血を行った。血液中のIgG濃度および炎症性サイトカイン(腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターロイキン(IL)-1β、インターフェロン(IFN)-γ)濃度は酵素免疫測定法により測定した。各初乳給与後の両区の一般生化学成分、発育および疾病発生率に差はなかった。一方、血液中のIgG濃度は、初乳給与後4から72時間まで加熱区で有意に高い値を示したが、TNF-α、IL-1βおよびIFN-γ濃度は、加熱区においてそれぞれ初乳給与後2時間、24から48時間、8から72時間まで有意に低値となった。以上から、黒毛和種ET子牛において、加熱初乳の給与はIgGの血中移行を亢進し、効率的な受動免疫獲得に有効な手法となることが示された。また、初乳の加熱による炎症性サイトカイン濃度の低下は、子牛の発育に大きな影響を与えない可能性が考えられた。(著者抄録)