40歳代女性。下顎右側前歯部歯肉の圧痛を主訴に近歯科医院を受診し、顎骨内にX線透過像を認められ精査目的で当科に紹介された。口腔内所見として下顎右側3番を中心に歯肉唇移行部から下唇粘膜にかけて弾性軟〜やや弾性硬のび漫性腫脹を認めた。CT検査では全体的には単房性であるが一部多房様の辺縁形態を呈し、唇頬舌側に膨隆や菲薄化を示す骨吸収像を認め、特に唇側では広範囲に皮質骨の吸収を認めた。MRIでは、脂肪抑制T2強調像で比較的均一な高信号領域を認めた。これらの所見から下顎骨嚢胞と臨床診断し、摘出術を施行した。摘出標本の病理組織所見は病変が非角化重層扁平上皮で裏装されており、部位により不規則な肥厚を認め、上皮内には線毛上皮の出現と腺管状構造、娘嚢胞を認めた。粘液産生細胞の確認のために特殊染色を行ったところ、裏装上皮内にPAS染色およびMucicarmine染色陽性の粘液細胞を認めた。これらの所見から腺性歯原性嚢胞と診断した。術後2年の時点で再発は認めなかった。