2004年4月 - 2008年3月
神経組織における血小板由来増殖因子機能の解明
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
血小板由来増殖因子(PDGF)および受容体は全身の臓器に発現し、特に、脳組織に広く、豊富に分布する。神経機能制御、発癌、個体発生、損傷治癒等における関与が疑われ、その機能解明と医療への応用が望まれている。本研究は、種々の発現制御実験を行い、主として、脳のPDGFが果たしている機能に対する理解を深めようとするものである。PDGF-β受容体(PDGFR-β)のCre loxP system によるconditional knockout mouseを作製し、null knockoutの致死性を回避し、生後の当該遺伝子機能の評価を可能とした。当該遺伝子の発現を抑制する標的細胞および時期を制御し得るマウスモデルを開発した。いずれのモデルも正常に生育し発達の異常は抽出できなかった。胎児期より神経上皮細胞に由来する神経細胞や神経膠細胞におけるPDGFR-β遺伝子発現を抑制した個体も正常の発育を示した。他方、同マウスモデルの成熟個体には脳の興奮毒性や酸化ストレスに対する脆弱性の亢進があることを見出した。神経細胞に発現しているPDGFR-βが急性脳傷害に対して神経保護的に作用する事を遺伝子改変モデルにより初めて明らかにしたものである。さらに、Cre loxPシステムにより、培養系において安定的、かつ極めて非侵襲的に遺伝子発現制御を行う方法を確立した。皮膚の線維芽細胞で、二種類のPDGF受容体が関与する細胞現象と惹起する細胞内シグナルが異なっていることを明確にし、特にPDGFR-βが細胞遊走に重要であることを示した。また、PDGFR-βは神経幹細胞と骨髄間葉系幹細胞の分化制御に深く関与し、それぞれ、神経細胞への分化促進および骨芽細胞への分化抑制というユニークな働きを示すことを見出した。以上、より生理的な状態に近く、なおかつ特異性の高い新しい方法による遺伝子制御が可能なモデルシステムを開発することにより、脳におけるPDGFR-βの役割を明らかにし、さらには、予想を超える新知見も得られつつある。研究は今後の医療へのPDGFの応用に道をひらくものであり、更なる研究の継続が必要である。
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- 課題番号 : 16390114
- 体系的課題番号 : JP16390114
この研究課題の成果一覧
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論文
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Nephrology Dialysis Transplantation 26(2) 458-468 2011年2月1日 査読有り
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Journal of the Peripheral Nervous System 14(3) 165-176 2009年9月 査読有り
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Journal of Bone and Mineral Research 23(9) 1519-1528 2008年4月14日 査読有り
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Journal of Neurochemistry 98(2) 588-600 2006年7月 査読有り
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Journal of Biological Chemistry 280(10) 9375-9389 2005年3月11日 査読有り