基本情報

所属
東京大学 大学院理学系研究科 教授
(兼任)大学院新領域創成科学研究科 教授
学位
医学博士(大阪大学)
工学博士(東京大学)

研究者番号
10273468
J-GLOBAL ID
200901002926960580
researchmap会員ID
5000101473

外部リンク

[キーワード] ゲノム医科学、プレシジョン医療、がん微小環境、深層学習、数理シミュレーション、量子計算

先端の数理科学と分子観測技術で生命現象と病気を理解する

私たちの研究の目標は、がんなどの病気の克服を目指し、多くの臨床検体の生体分子の膨大なデ ータを深層学習や量子計算などで解析することで、それらの病気に対する免疫などの生体現象の関わりを解くことです。患者さんごとに合わせた適切な種類と量の治療を施すことや、発症の予防を実現することが期待されています。それには深層学習や量子計算などに基づく数理科学的な方法論を新たに考え出し、時空間的なオミクス分子データ、画像データ、臨床情報など、人の生命医科学のビッグデータを解析する必要があります。そのようにして病気の新たな原因を発見し、それらの因子間の関係を定量的なネットワークとして再構築することで、疾患メカニズムを全体のシステムとして理解します。一つの例として、がん細胞と、免疫などのがんの微小環境との潜在的な構造も含めた関係をひもとき、定量的に組み上げなおすことで、個人ごとに治療の奏効や副作用、耐性獲得などの動態を予測します。

 

がんなどの病気を新たな数理科学で解明して先端医科学を推進します。

 

研究課題1. がんとその微小環境との関係の解明

がん細胞集団と、免疫などの微小環境との関係をひもとくことで、個人ごとに治療の奏効や副作用、耐性獲得を予測します。例えば、私たちは肝がんの患者300人からのがん細胞の全ゲノム配列を解析し、新たな変異をもつクラスタを発見しました [1]。このクラスタの患者は、手術後にがんの再発が起こりにくく良好な経過をたどります。 大腸がんでも新たなクラスタを発見しました [2]。さらに詳細に解析すると、がん細胞の集団的特性や免疫などの微小環境との関係が、クラスタ間で大きく異なることがわかってきました。がんの個性と、微小環境の相性や治療の内容で、その後の挙動に違いが生まれます。 また最近、転移が生じた尿路上皮がんを対象とし、免疫チェックポイント阻害薬の奏効が腫瘍部位間で違うことに着目して多領域の腫瘍オミクス解析を行いました [3](慶應義塾大学医学部との共同研究)。その結果、奏効しない悪性サブクローンは治療中に固有の遺伝子変異を起こし、がん悪化の原因となりうることや、空間トランスクリプトームや1細胞RNA-seq解析により、悪性サブクローンは、場所ごとの免疫抑制環境を形成することを明らかにしました。このような違いをうむメカニズムをオミクスや病理画像の解析によって解明するとともに、数理シミュレーションによる治療効果予測モデルを作り、患者や部位に合わせた治療を行うプレシジョン医療を目指します。

 

 

研究課題2. 深層学習による独創的な解析の方法論

 深層学習が、画像のみならず、ゲノムやオミクスのデータを解析する能力を極める研究をしています。一例として、オミクスデータを変換して画像のように見せ深層学習にかける独特な方法DeepInsight法を考案しました [4](下記の応用例も含め総説も出版しました [5])。さらに深層学習の内部を解析して深層学習が何を見て判別しているのかを見出す技DeepFeature法も提案しました [6]。それにより、がんの個性を示す新たなシグナル伝達系を発見しました。つまり、深層学習で新たな科学的発見ができることを示せました。

 

 

 

研究課題3. マルチオミクスと深層学習による抗がん剤奏効予測

上記の私たちのDeepInsight法をさらに発展させ、マルチオミクスデータから患者固有の抗がん剤の奏効を予測する、深層学習を用いた新しい手法DeepInsight-3Dを提案しました [7]。従来の手法を大きく上回る予測性能とともに、抗がん剤の奏効の違いとなる遺伝子パターンと新しいパスウェイを発見しました。

 

 

 

研究課題4. シングルセルRNA-seqデータから細胞種を同定する深層学習

上記の私たちのDeepInsight法をもとに、シングルセルRNA-seq(scRNA-seq)のデータからもとの細胞種を同定する、深層学習を用いた新しい手法scDeepInsight [8]、そして免疫細胞などでよく見られる細胞の分類の階層的な関係を考慮し、1細胞RNA-seqのデータからもとの細胞の種類(細胞種)やサブタイプを高精度に同定する、深層学習を用いたさらに新しい手法scHDeepInsightを提案しました [9]。細胞種とそのサブタイプを正確に同定することは、scRNA-seqデータの解析によって細胞集団の不均一性を研究するための鍵となります。この手法では、scRNA-seqの非画像のデータを、私たちが独自に提案してきたDeepInsight法を使って画像に変換することにより、画像分類や特徴抽出能力が高い畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を活用することができます。その結果、scHDeepInsightは他の最先端の手法に比べてはるかに高い精度で細胞種を同定することができました。本提案手法により、将来的に、scRNA-seqデータを用いた生体内や疾患における細胞制御のメカニズムの解明に関わる研究に広く貢献することが期待できます。

 

 

 

研究課題5. 量子計算による薬剤奏効予測や変分ベイズによる腸内細菌解析手法

量子計算機の活用として、抗がん剤の奏効予測モデルに量子機械学習と深層学習を組み合わせる量子古典ハイブリッド機械学習モデルを構築し、高精度を達成するとともに、量子回路と深層学習を結合する部分の工夫を提案しました [10]。 また、変分ベイズマイクロバイオーム・マルチオミクス(VBayesMM)という新しい手法を開発しました [11]。本手法により、ヒトの体内や体表のマイクロバイオームのデータから、その箇所でのヒトの代謝物量を高精度に予測し、健康な場合や病気の場合での微生物-宿主(ヒト)代謝物間の複雑な相互作用メカニズムを解明することが可能になります。これにより例えば、従来困難であった腸内細菌叢の生化学的機能の理解が飛躍的に進みます。 これらのように、さらなる新しい方法や考え方を積極的に提案し、生命医科学の課題を解決すべく取り組んでいます。

 

 

 

いろいろな人が集まって研究しています

私たちの研究室は本郷キャンパスにあります。上記の研究課題に加え、量子計算機によるオミクス解析の方法の開発を行ったり、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の上村研究室と連携し、独自製作したナノポアからの信号を解析して分子の識別や配列決定をする方法を開発したりしています。その他にも病院や医療機関などと多くの連携研究をしています。そのため、生命情報研究者以外にも、臨床医や、遺伝学、シークエンス解析、ネットワーク解析、数学が好きな研究者など、また、外国人研究者も多く、お互いにさまざまな考えを出しあって日々研究しています。

 

参考文献

[1] Fujimoto A, Tsunoda T, et al. Whole genome mutational landscape and characterization of non-coding and structural mutations in liver cancer. Nature Genetics, 48, 500-509 (2016).

[2] Sugawara T, Miya F, Ishikawa T, Lysenko A, Nishino J, Kamatani T, Takemoto A, Boroevich KA, Kakimi K, Kinugasa Y, Tanabe M, Tsunoda T. Immune subtypes and neoantigen-related immune evasion in advanced colorectal cancer. iScience, 25, 1003740 (2022).

[3] Kamatani T, Umeda K, Iwasawa T, Miya F, Matsumoto K, Mikami S, Hara K, Shimoda M, Suzuki Y, Nishino J, Kato M, Kakimi K, Tanaka N, Oya M, Tsunoda T. Clonal diversity shapes the tumour microenvironment leading to distinct immunotherapy responses in metastatic urothelial carcinoma. Nature Communications, 16, 7995 (2025).

[4] Sharma A, Vans E, Shigemizu D, Boroevich KA, Tsunoda T. DeepInsight: A methodology to transform a non-image data to an image for convolution neural network architecture. Scientific Reports, 9, 11399 (2019).

[5] Sharma A, Lysenko A, Jia S, Boroevich KA, Tsunoda T. Advances in AI and machine learning for predictive medicine. Journal of Human Genetics, 69, 487-497 (2024).

[6] Sharma A, Lysenko A, Boroevich KA, Vans E, Tsunoda T. DeepFeature: feature selection in nonimage data using convolutional neural network. Briefings in Bioinformatics, 22, bbab297 (2021).

[7] Sharma A, Lysenko A, Boroevich KA, Tsunoda T. DeepInsight-3D architecture for anti-cancer drug response prediction with deep-learning on multi-omics. Scientific Reports, 13, 2483 (2023).

[8] Jia S, Lysenko A, Boroevich KA, Sharma A, Tsunoda T. scDeepInsight: a supervised cell-type identification method for scRNA-seq data with deep learning. Briefings in Bioinformatics, 24, bbad266 (2023).

[9] Jia S, Lysenko A, Boroevich KA, Sharma A, Tsunoda T. scHDeepInsight: a hierarchical deep learning framework for precise immune cell annotation in single-cell RNA-seq data. Briefings in Bioinformatics, 26, bbaf523 (2025).

[10] Ito T, Lysenko A, Tsunoda T. Optimal normalization in quantum-classical hybrid models for anti-cancer drug response prediction. arXiv:2505.10037 (2025).

[11] Dang T, Lysenko A, Boroevich KA, Tsunoda T. VBayesMM: variational Bayesian neural network to prioritize important relationships of high-dimensional microbiome multiomics data. Briefings in Bioinformatics, 26, bbaf300 (2025).


研究キーワード

  4

論文

  428

MISC

  131

書籍等出版物

  5

講演・口頭発表等

  85

担当経験のある科目(授業)

  9

所属学協会

  3

共同研究・競争的資金等の研究課題

  24