共同研究・競争的資金等の研究課題

2002年 - 2004年

地域経済の発展に果たす産業集積のシステムと機能に関する経済地理学的研究

日本学術振興会  科学研究費助成事業  特別研究員奨励費

配分額
(総額)
3,200,000円
(直接経費)
3,200,000円
資金種別
競争的資金

前年度から取り組んでいた研究が、「地理学評論」誌(4月)に受理・掲載された。これは、フランスのコンヴァンシオン経済学に依拠したストーパーとサレの「生産の世界」論を、児島アパレル産地の分析に適用したものである。わが国の産業集積論は、欧米から影響を受けた理論的な研究と実証研究との間に相互交流があまりない。本研究は、しばしば乖離することがある理論と実証の橋渡しを試みたものである。地域内で受容されている暗黙の慣習をコンヴァンシオン(「慣習的なもの」)として理解することで、地域企業の行為原理が形成され、それが産地発展に結びつく仕組みを明らかにすることができた。
「地理学評論」の掲載論文は、主としてローカルなコンヴァンシオンによって地域発展が支えられる仕組みを、類型的に明らかにするものだった。これに対して、植田浩史編『縮小時代の産業集積』の所収論文(9月)では、児島アパレル産地における新規創業と製品転換のプロセスについても検討を加えている。児島アパレル産地の大きな特徴は、作られている製品の多様性と、経済環境の変化に応じて柔軟に製品を転換させるダイナミズムないしは順応性の高さにある。現地調査で得られた知見を生かして、これらのプロセスを検討した。
本年はこのように産業集積の実態解明を行いながら、産業集積の理論的な研究も行った。8月の経済地理学会関東支部例会では、コンヴァンシオン経済学のパースペクティヴから代表的な集積理論の異同を明らかにする研究を発表した。1990年代以降の集積論は、制度の経済学や進化経済学の成果を積極的に取り込むなど、産業集積への制度論的アプローチと呼びうるものである。コンヴァンシオン経済学に準拠することで、通常の制度の経済学を少し相対的に捉えながら、人間行動の仮説にまでさかのぼり、いくつかの集積理論の理論的な異同について考察している。