基本情報

所属
岐阜大学 教育推進・学生支援機構 准教授(教学DX推進センター副センター長・基盤教育センター副センター長)
学位
博士(文学)(2014年6月 名古屋大学)

連絡先
hasegawa.akito.u8f.gifu-u.ac.jp
J-GLOBAL ID
201701000627279010
researchmap会員ID
B000277287

 研究の紹介 

仏哲学者、アンリ・ベルクソン(1859-1941)の研究をしています。その中でもとりわけ言語(langage)の問題を扱っています。近年は、言語の問題から、フェルディナン・ド・ソシュール(1857~1913)に端を発する構造言語学や、それを記号学として発展させ、さまざまな文化現象を論じたロラン・バルト(1915~1980)にも関心を抱いています。
 
 研究内容について 
言語とはどのようなものでしょう。言語は一般的に言って、表現(音声や文字)と意味(それが指し示すもの)が結びついた記号である、と規定することができそうです。また、この表現と意味の結びつきが共有されているからこそ、誰かと会話をし、意思疎通することができるのだと言えます。
ところで、ベルクソンは言語とは固定化・一般化の原理だと言っています。ベルクソンは持続(durée)という概念を自身の哲学の中心に据えましたが、これは私たちの意識や感情の本来的なあり方を意味しています。自分自身の意識に立ち返るのが一番わかりやすいですが、私たちの意識は、何かに熱中しているときや没頭しているときには、流れるような連続の中にいるはずです。この継起と呼ばれる状態が持続の本質です。しかし、言語はどうでしょう。例えば私たちの感情に、「愛」とか「憎しみ」といった名称を与える場合を考えてみます。ほんとうは、私の愛とあなたの愛は違うものだし、私の愛でも、ペットに対する愛と親に対する愛と恋人に対する愛では違うもののような気がします(これを、友愛とか家族愛とか情愛とか、細かくしても結局同じことです)。しかし、愛という言葉で枠組みを与えてしまうと、その感情は誰でも・いつでも共通のものだと感じてしまいませんか?そして、それはより深い愛とか、より強い愛とかいう形で比較可能なものになってしまうような気がしませんか?これが言語が持つ固定化・一般化ということの意味です。
だけど、私たちは言葉を使ってコミュニケーションをしなくてはならないし、また言葉を使いながら、お互いに深く共感し合えたり、言葉を超えたような気がすることもあります。それはなぜでしょうか。ベルクソンは言語を批判するだけでなく、こうしたポジティブな言語運用についても語っています。私の研究は、ベルクソンの言語論からこうしたポジティブな面を取り出そうというものです。 

 研究の手法について 
私の研究の手法は、主に二つのパターンに分けられます。
①ベルクソンのテクストを読み込み、そこから内在的な形でベルクソンのポジティブな言語運用を取り出して再構成する
②言語学や構造主義などの他分野の概念を借りて、ベルクソン的な言語運用を新たにモデルとして構築する
 
 研究手法の基盤について 
①については、ベルクソンのほぼすべての著作に、なんらかの形で言語への研究がありますが、特に多いのは『意識の直接与件』(1889)と『思考と動くもの』(1932)でしょうか。これらの著作の中で、ベルクソンは悪い言語運用と良い言語運用について語っています。悪い言語運用は、上に述べたような、かっちり固定されてしまった言葉を、何のひねりもなく、習慣的に使ってしまうような場合です。それは、単なる表面的な意味の交換で、持続は完全にその語の中で凍ってしまいます。単に記録・保存するための言葉です。他方で、良い言語運用とは、努力によって言葉の枠組みをずらして、創意工夫に富んだ形で使用される言語です。例えば、詩を作るときを考えてみましょう(ベルクソンは詩人を高く評価します)。ある状態を表すために、借り物の言葉ではなく、もっといい言葉はないか、それを表すいい比喩はないか、と一生懸命考えます。また、もっといいリズムで表現できないか、俳句や短歌やソネットなど、一定のリズムや韻を踏んだ言葉で心地よく表現できないか、と苦心します。これによって、自分の伝えたいことが、よりよく表現され、そこに持続が暗示される、とベルクソンは言います。もちろん、比喩やリズムに限らず、単語の選び方だとか、提示の仕方とか、他にもさまざまな方法が考えられます。共通するのは、安易さに対比される、言語使用の努力という点です。ほんとうに伝えたいことがあるとき、私たちは切実に、努力して、言葉を選んで、なんとか伝えようとしますよね。
②言語学や構造主義にも、興味深い概念がたくさんあります。例えば、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュール(1857-1913)は、ランガージュ(言語活動)(langage)はラング(langue)とパロール(parole)から成る、と考えました。ラングとは、ある言語における、語彙や文法規則などの言語体系、ルールのことを指します。これに対し、個々人がそのラングに従って行なう発話をパロールと言います。私は日本語のラングに従ってパロールすることで、適切な日本語を話すことができ、他者に言語の意味を伝えることができます。
また、ソシュールは言葉の表現と意味を、シニフィアンシニフィエと言い換え、その両側面を持つ言語記号全体をシーニュと名付けます(下図参照)。この考え方の面白いところは、シニフィアンとシニフィエの結びつきが恣意的(ランダム)だ、いうことです。別に、あのワンワン鳴く動物を「犬」と呼ぼうが「dog」と呼ぼうが、その言語話者の間で意思疎通ができればいいわけです。また、この世界から何を一対のシニフィアン+シニフィエ=シーニュとして取り出すかも恣意的です(したがって、ここには二重の恣意性があります)。例えば、フランス語ではchienという表現(シニフィアン)で、犬とタヌキの両方を意味(シニフィエ)することができます。逆に、日本の出世魚というシステムは、ブリやハマチ、ヒラマサなどのように同じ魚を大きさで細かく呼び分けますが、これは英語ではYellowtailとひとくくりにされます。


 

 

 

 

 

 

 

 研究の発展性について 
こうした概念を用いて、ベルクソンの言語論を考えると、非常におもしろいことが起こります。例えば、ラングに従ってパロールするだけの言語運用って、何か重要なものが抜け落ちているような気がします。そう、言語変化です。なんで言葉は使っているうちに変化してしまうのでしょうか。ランガージュにはラングとパロールしかないのですから、ラングが変化するなら、その原因はパロールにあるに違いありません。ということで、どんなパロールがラングを変化させるのか、という問いは言語学とベルクソン言語論の大きな接点になります。理由はいろいろ考えられます。現在のヨーロッパのロマンス諸語のように、ある言語と別の言語の話者が混ざって言語が変化したとか、平安時代の日本語と現代日本語のように、時代がくだるにつれて文化が変わっていき、言葉が変わったとか、言葉の誤用とか流行語の使用でちょっとずつ日本語が変わっていくとか…
こうしたラングとパロールの関係性については、ポスト構造主義者であるロラン・バルト(1915~1980)が興味深いことを言っています。ラングに従ってパロールしているだけでは、創造的な文章は書けません。彼は、個々人が独自の経験によって形成した言語感覚をスティルと呼び、ラングの対極に置きます。つまり、ラングはある言語話者に共通のルールなのですが、スティルは個人の中におけるそのラングの使用の偏りのことです。このラングとスティルの中間に、書くという行為への態度、エクリチュールが生まれてくるとバルトは言います。このように考えると、ベルクソンのところで述べた、個々人に固有の持続を暗示するための言語運用というものが、こうしたラングを揺り動かす言語活動として捉え直されてきます。
また、バルトは同様に、デノテーションコノテーションという概念も自身の思索の中に取り入れています。例えば、「バラ」という言葉(シニフィアン)には、あのバラ属バラ科のつる植物のイメージ(シニフィエ)が結びついています。これがデノテーション、つまり言語記号の明示的・一般的な意味です。これに対し、バラというものに、さらに「情熱」とか「愛」とかいうイメージが積み重なってきたとしましょう。バルトは、そうした象徴的な意味・新たな意味をコノテーションと呼びます(ちなみに、ブランドのロゴがついた鞄なども、本来の製造元を示すデノテーションだけでなく、高級さや洗練といったコノテーションをまといます。こうしたコノテーションこそが消費を加速させる、と言ったのがバルトの弟子のボードリヤールでした)。こうしたコノテーションも、もちろん新たな記号として共有されなければ、他者には伝わりません(自分だけが高級だと思っているブランド鞄を想像してみましょう)。しかし、やはり先述のベルクソンの比喩的な言語運用を思い出してみましょう。ベルクソンは比喩が持続を暗示すると言いましたが、それは言語が絶えず新たなコノテーションを生み出す活動の一端を担っている(コノテーションは勝手に生まれるので、比喩が担うのはそのごく一部です)のではないでしょうか。比喩は言葉の意味をずらしていく営みだからです。


このように、私はベルクソンの言語論を探究しつつ、その生産的な読解と、他分野との接合による発展性を模索しています。


経歴

  9

論文

  23

講演・口頭発表等

  28

MISC

  2

書籍等出版物

  3

共同研究・競争的資金等の研究課題

  2
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援 2023年8月 - 2025年3月
    長谷川 暁人
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 2010年 - 2012年
    山田 弘明, 吉田 健太郎, 持田 辰郎, 小泉 義之, 香川 知晶, 鈴木 泉, 倉田 隆, 武藤 整司, 安藤 正人, クレール フォヴェルグ, 三浦 伸夫, 山上 浩嗣, 東 慎一郎, 武田 裕紀, 津崎 良典, 岩佐 宣明, 曽我 千亜紀, 久保田 進一, 小沢 明也, 中澤 聡, 長谷川 暁人, 稲垣 惠一, 政井 啓子, 大西 克智, 古田 知章, 平松 希伊子, 野々村 梓, 安西 なつめ

社会貢献活動

  8

メディア報道

  2