メディア報道

2018年6月

投書「語り継ぐべきは庶民の功」


種別
新聞・雑誌
執筆者
本人
発行元・放送局
山形新聞社
番組・新聞雑誌名
山形新聞
掲載箇所

かの有名なピラミッドを造ったのは誰か。ファラオは権力を振るっただけであり、巨石を積む重労働に服したのはエジプトの庶民である。
では明治前期、初代県庁や旧済生館をはじめとする山形市の近代的な街並みを、仙台につながる関山トンネルを、福島に通じる万世大路を造ったのは誰か。初代県令として名を残す三島通庸が、その功労者として称え崇められる。果たしてそれは正しいのか。
三島は強権を振るって山形の近代建築や道路開通を主導したが、その手段は地元住民にとって残忍非道なものであった。
県庁を建てるために地元の名士から強制的に「寄附金」を取り立て、従わない者は身柄を拘束した。土地の強制収用にも及んでいる。建設予定地付近の民家に立ち退きを命じ、警官に脅迫された住民が発狂したり首を吊ったりしたと、他ならぬ三島自身が記録に残している。
三島の「功績」は確かに偉大であり、当時も支持者が少なくなかったようではある。ただしその足元には、幾百千の無名の県民の犠牲があることを無視してはならない。
問題なのは、自治体が発行する公正であるべき歴史教育資料に「三島礼賛」の記述が見られることだ。権力者の輝かしい面ばかり称揚して、庶民の苦しみや非道な手段をチャラにするような政治観を、次世代に伝えることは許されない。
称え語り継ぐべきは、公益のため財産や苦役を捧げたわれらの先祖の功である。