講演・口頭発表等

2005年3月27日

埋土種子がもつ過去に植生下に置かれた記憶による信頼に足るギャップシグナルの要求

日本生態学会大会講演要旨集
  • 本田裕紀郎
  • ,
  • 伊藤浩二
  • ,
  • 加藤和弘

記述言語
日本語
会議種別

種子が植被の下で無益な発芽を回避するための生理的機構は総じてギャップ検出機構と呼ばれ、埋土種子集団の形成に寄与すると考えられている。多くの種子植物が発芽における光要求性、緑陰効果感受性および変温要求性をもち、特に温度の日変化は光量および光質よりもギャップシグナルとしての信頼性が高いことが明らかにされている。本研究では、過去に植生下に置かれて緑葉透過光を受光した種子は、その経験の無い種子と比較して発芽における変温要求性が強くなることを、コウゾリナ(キク科)を用いて発芽試験により検証した。発芽試験は、a)明条件、b)暗条件、c)緑葉透過光下条件、d)前処理として緑葉透過光下条件を1週間経験させた後に暗条件に移行、の4つの光条件と、20℃を中心温度としてi)0℃幅、ii)4℃幅、iii)8℃幅、iv)12℃幅、v)16℃幅の変温を経験させる5つの温度条件を設定し、それらの組み合わせにより20条件設定した。さらに、e)d区と同等の前処理を施した後で明条件に移行する処理を20℃恒温条件のみで試験した。その結果、それぞれの光条件において十分な発芽が確認されるには、暗条件では4℃幅、前処理を施した後の暗条件では8℃幅、緑葉透過光下条件では12℃幅の温度の日較差が必要であったが、明条件では恒温条件下でも十分な発芽が確認された。これらのことは、過去に植生下で緑葉透過光を受けた経験は、種子のフィトクロームに「過去の記憶」として保持され、その記憶をもたずに土壌中に取り込まれた種子よりも、発芽は慎重になり、より信頼性の高いギャップシグナルを要求する可能性があることを示唆している。さらには、緑陰効果感受性は光および変温幅の要求レベルを上昇させる効果をもつことも認められた。

リンク情報
URL
http://jglobal.jst.go.jp/detail.php?from=API&JGLOBAL_ID=200902218259798261