「研究の目的」最終年度、身体に直接触れる寝衣に弱酸性ポリエステルを用いたときにおける、アトピー性皮膚炎患者と健常者を比較した際の皮膚表面の黄色ブドウ球菌量、睡眠時のかゆみの誘発の抑制効果、睡眠中の脳波について検討した。また、本命題の弱酸性ポリエステルの睡眠の質改善効果について総括した。
「成果」発汗による睡眠中のかゆみを感じたアトピー性皮膚炎の患者は、健康な実験参加者よりも、汗のかゆみ成分であるヒスタミンを多く含んでいた。黄色ブドウ球菌は弱酸性ポリエステル着用により明らかな抑制が認められた。かゆみのVASにおいては、有意なかゆみ点数の低下が認められた。このことから、弱酸性ポリエステルは黄色ブドウ球菌に対して抗菌効果があり、睡眠用衣類にこれを着用することで黄色ブドウ球菌の増殖を抑制し、かゆみを抑えることができたと考えらた。脳波による睡眠分析では、睡眠サイクルの第一睡眠周期における深いノンレム睡眠中に頻繁に現れるδ波の量（δパワー値）が、アトピー性皮膚炎の患者では、弱酸性ポリエステル着用時にその値が高いことが示された。これらの結果から、弱酸性ポリエステルの寝衣を着用すると、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制し、かゆみが抑えられ、睡眠の質が向上することが示唆された。
「総括」本研究を総括すると、快適な睡眠がとれるとされる布団内温度31°Cに早く到達する条件検討では、室内温度(10、20、30°C)と寝具素材(羽毛、コットンキルト)のいずれの組み合わせにおいても影響を受けにくいことが判明した。睡眠の質に与える影響では、アトピー性皮膚炎のような表皮が外界刺激に敏感な状態になっている者にとって、黄色ブドウ球菌の増殖はかゆみを誘導する大きな刺激物となるが、弱酸性ポリエステルでは、その細菌の増殖を抑制するため、就寝中のかゆみの軽減が可能になり、快適な睡眠がとれ、睡眠の質の改善につながった。