MISC

2013年5月

高齢者の食欲不振は歩行速度に関連しているのか

理学療法学
  • 中津 伸之
  • 三栖 翔吾
  • 中窪 翔
  • 澤 龍一
  • 谷川 大地
  • 上田 雄也
  • 誉田 真子
  • 森野 佐芳梨
  • 堤本 広大
  • 土井 剛彦
  • 小野 玲
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40
大会特別号3
開始ページ
O
終了ページ
110
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2012.0.48102112.0
出版者・発行元
(公社)日本理学療法士協会

【はじめに、目的】 高齢者の食欲不振は低栄養のリスク因子であり、筋肉量の減少や筋力低下を主症状とするサルコペニアにつながるとされている。サルコペニアは様々な機能障害を引き起こすと言われているため、そのリスク因子である高齢者の食欲不振は注目すべき徴候の一つであるといえる。また、食欲不振のある高齢者は歩行速度が低下しているという報告もある。歩行速度の低下は活動性低下につながり、更なる筋力低下を引き起こすと言われているため、食欲不振のある高齢者における歩行機能低下は大きな問題となると考えられる。一方で歩行速度と筋力に関連があることも知られており、その関連性を考慮し、筋力低下の程度によって食欲不振と歩行速度との関連が変化するのかどうか明確に示すことは重要である。しかし、そのような検討を行った報告はほとんど見られない。よって本研究の目的は、対象を筋力低下が進んでいる高齢者と筋力が比較的保たれている高齢者の群に分類し、両群において食欲不振の有無は歩行速度と関連しているのかどうか検討することとした。【方法】 通所介護サービスを利用している地域在住高齢者の91名うち、認知症の診断を有している者、Mini Mental State Examination (MMSE) が18点未満の者を除いた67名 (女性49名、平均年齢±標準偏差84.76±6.46歳) を対象とした。主要測定項目として、筋力の指標である握力、歩行能力の指標である5m歩行速度、食欲の指標であるSimplified Nutritional Appetite Questionnaire (SNAQ) を測定・聴取した。SNAQはWilsonらが開発した食欲に関する20点満点の質問紙であり、点数が低いほど食欲が低いことを示す。Rollandらの報告を参考に、14点以下を食欲不振、15点以上を食欲不振なしと判定した。解析方法は、男女別に握力の中央値を算出し、対象者を筋力低下の進行しているMuscle Weakness (W群) と、筋力の保たれているNon Muscle Weakness (NW群) に群分けした上で、両群において食欲不振の有無と歩行速度に対して対応のないt検定を実施した。食欲不振の有無により歩行速度に有意な差が見られた場合には、交絡因子の影響を除去するため、目的変数を歩行速度、説明変数を食欲不振の有無とし、調整変数として年齢、性別、Body Mass Index (BMI) を投入する重回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は神戸大学大学院保健学研究倫理委員会の承認を得た後に実施した。対象者には事前に研究の概要を説明し、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。【結果】 男女別の握力の中央値は男性が26.8kg、女性が15.3kgであり、W群34名 (女性25名、86.79±6.32歳)、NW群33名 (女性24名、82.67±5.99歳) であった。W群では、食欲不振の有無により歩行速度に有意な差は見られなかった (平均歩行速度±標準偏差、食欲不振なし; 0.67±0.20 m/s、食欲不振あり; 0.60±0.10m/s、p = .27) 。一方NW群では、食欲不振を有する対象者は、食欲不振を有さない対象者に比べ有意に歩行速度が低下していた (食欲不振なし; 0.90±0.24m/s、食欲不振あり; 0.65±0.22m/s、p < .01) 。NW群における重回帰分析において、年齢、性別、BMIで補正してもなお、食欲不振の有無(標準偏回帰係数; -0.18、p < .05) は有意な関連要因として抽出された (R2 = 0.32、p < .05) 。【考察】 本研究の結果より、通所介護サービスを利用している高齢者において、握力の比較的強い高齢者群では、食欲不振と歩行速度が関連していることが明らかとなった。筋力が比較的保たれている高齢者においても、食欲不振により歩行速度低下が生じる可能性があり、結果として活動性の低下とさらなる機能低下を引き起こす可能性があると考えられた。しかし、本研究は横断的な研究であり、因果関係の推定までには至らなかったため、今後さらに対象者を拡大した上で縦断的な検討を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は、要介護認定をうけている地域在住高齢者に対して、筋力や歩行速度といった機能面だけでなく、食欲に対しても考慮する必要性があることを示唆した。食欲を考慮に入れることにより、理学療法士による歩行機能の効率的な維持・改善の可能性があると考える。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2012.0.48102112.0
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502201197457540
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004586169
Jamas Url
https://search.jamas.or.jp/index.php?module=Default&action=Link&doc_id=20140716480383&url=https%3A%2F%2Fdoi.org%2F10.14900%2Fcjpt.2012.0.48102112.0&type=J-STAGE&icon=https%3A%2F%2Fjk04.jamas.or.jp%2Ficon%2F00007_2.gif
URL
http://jglobal.jst.go.jp/public/201502201197457540
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2012.0.48102112.0
  • ISSN : 0289-3770
  • eISSN : 2189-602X
  • 医中誌Web ID : 2014278470
  • J-Global ID : 201502201197457540
  • CiNii Articles ID : 130004586169
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000258373842

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