MISC

2012年4月

冷却による母趾の感覚低下が立位制御に及ぼす影響

理学療法学
  • 中村 瑠美
  • ,
  • 三栖 翔吾
  • ,
  • 土井 剛彦
  • ,
  • 澤 龍一
  • ,
  • 堤本 広大
  • ,
  • 榎園 拓真
  • ,
  • 中窪 翔
  • ,
  • 行山 頌人
  • ,
  • 小野 玲

39
Suppl.2
開始ページ
0345
終了ページ
0345
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2011.0.Ea0345.0
出版者・発行元
(公社)日本理学療法士協会

【はじめに、目的】 母趾は足底の中でも感覚情報を集積するメカノレセプターの分布密度が高いとされることから、母趾からの感覚情報入力の減少や欠如は立位制御に影響を与えることが予測される。しかし、立位制御と足底感覚の関連性は数多く報告されているものの、母趾感覚との関連性を直接検討した報告はみられない。一方で、母趾の代表的疾患である外反母趾を有する高齢者や母趾切断者において、立位制御能力の低下が報告されている。これらを対象とした研究における立位制御能力低下には、筋骨格系だけでなく、感覚系などの様々な母趾機能障害が関連していると考えられるものの、母趾からの感覚情報入力と立位制御との直接の関連性は明らかでない。そこで本研究では、母趾の感覚低下を引き起こした際の、立位時の安定性の変化を検討することで、立位制御と母趾感覚との関連性を直接検討することを目的とした。【方法】 対象は、事前の口頭説明により研究参加に同意の得られた健常若年成人17名(男性9名、女性8名、平均年齢22.2歳 ± 1.8 )とした。母趾の感覚低下は、Eric Eilsらによる方法に準じ氷による冷却法を用い、感覚検査にはモノフィラメント(North Coast Medical社製)を使用した。立位制御能力評価は、重心動揺計測(ANIMA社製重心動揺計:G-5500)用いてを行った。まず、開眼および閉眼の片脚立位練習を各2回施行後、冷却なし条件での開眼及び閉眼片脚立位の重心動揺測定を行った。冷却なし条件での重心動揺計測後、母趾のみを10分間冷却し、感覚検査で感覚低下を確認した後に、冷却条件での重心動揺計測を行った。片脚立位は、立脚肢任意、上肢は胸部前面に組み、開眼条件での視線は約2m先の目標物を注視させた状態とし、それぞれの条件で各30秒間行った。立位安定性の指標として、単位軌跡長、X方向単位軌跡長、Y方向単位軌跡長、単位外周面積を算出した。統計解析は、各指標それぞれに対し、分布の正規性を確保するために対数変換を行った後、開眼・閉眼条件のそれぞれにおいて冷却による安定性の変化を検討するため、対応のあるt検定行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、神戸大学医学部倫理委員会の承認を得た後に実施し、全ての対象者に対し、事前に研究内容を説明し同意を得た。【結果】 冷却法による母趾感覚の低下は、全例において有意な低下を認めた(p < .001)。開眼条件においては、全ての指標において、冷却なし条件、冷却条件間に有意な差はみられなかった。一方、閉眼条件においては、X方向単位軌跡長(冷却なし条件43.12 ± 12.68mm、冷却条件47.16 ± 15.47mm;p = .111)には有意な差が見られなかったが、単位軌跡長(冷却なし条件61.98 ± 17.96mm、冷却条件70.55 ± 27.24mm;p = .025)、Y方向単位軌跡長(冷却なし条件35.77±11.51mm、冷却条件42.31±21.15mm;p = .020)、単位外周面積(冷却なし条件46.33±16.78mm<sup>2</sup>、冷却条件62.38±27.92mm<sup>2</sup>;p = .002)は、冷却条件で有意な増加がみられた。【考察】 本研究から、母趾の感覚低下により静止片脚立位時の動揺性が増加することが示唆された。母趾の感覚低下に伴う足底からの足圧情報の入力の減少により、立位制御機構に影響が及び、動揺性が増加したと考えられる。その動揺方向はY軸つまり前後方向の動揺であり、X軸つまり左右方向の動揺には大きな影響を与えていなかった。これは立位制御において、前後方向の動揺制御に、母趾からの感覚入力が重要であることを示している。また、閉眼時にのみ、冷却なし条件・冷却条件間に有意な差がみられたことから、開眼時には視覚系で補っていた足底からの感覚情報入力の減少が、閉眼という視覚が遮断された状況では補うことができず、動揺性が増加したと考える。これらより、母趾からの感覚情報は視覚情報が乏しい際の静止時立位制御、特に前後方向の動揺制御に重要であることが示唆された。今後は、静止時のみではなく歩行などの動的な場面においても母趾からの感覚入力の重要性を検討し、母趾感覚と姿勢制御との関連性を明らかにしていくことが必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、閉眼時の立位制御における母趾感覚の重要性が示されたことから、外反母趾などの母趾疾患を有する者や、老化による視力低下や明暗順応の低下など、視覚機能が低下するとされている高齢者の立位安定性の評価において、母趾の感覚検査は有用な評価の一つになると考える。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2011.0.Ea0345.0
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201202293113671380
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004693394
Jamas Url
https://search.jamas.or.jp/index.php?module=Default&action=Link&doc_id=20120606600345&url=https%3A%2F%2Fdoi.org%2F10.14900%2Fcjpt.2011.0.Ea0345.0&type=J-STAGE&icon=https%3A%2F%2Fjk04.jamas.or.jp%2Ficon%2F00007_2.gif
URL
http://jglobal.jst.go.jp/public/201202293113671380
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2011.0.Ea0345.0
  • ISSN : 0289-3770
  • eISSN : 2189-602X
  • 医中誌Web ID : 2012267867
  • J-Global ID : 201202293113671380
  • CiNii Articles ID : 130004693394
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000263464370

エクスポート
BibTeX RIS