研究ブログ

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卒業論文マニュアル 日本近現代文学編

『卒業論文マニュアル 日本近現代文学編』(ひつじ書房、2022/10)という本を出しました。

https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1146-5.htm

松本和也さん、水川敬章さん、山田夏樹さんとの共編著です。

共編著者以外で執筆してくださったのは、安部水紀さん、荒井真理亜さん、小谷瑛輔さん、佐藤希理恵さん、武久真士さん、広瀬正浩さん、吉田恵理さん、吉田竜也さん、禧美智章さん、渡邊英理さん、です。

全体は4部構成で、芥川龍之介の短編『あばばばば』を例に、作品論による卒論を念頭に書かれています。

具体的には、第1部「卒論のスタートラインに立つ」で扱う作品を決めたり調べたりする準備のこと、第2部「卒論をイメージしてみよう」で実際に卒論に手を付けること、第3部「卒論執筆にトライしよう」でいよいよ書き進めることについて記しています。

第4部「卒論アラカルト」には、近年に卒論を書いた方々の体験談や、卒論の先について、また隣接領域を探究したいへのアドバイスが書かれています。

これから日本近現代文学で卒論を書こうという人の参考になることはもちろん、指導する教員、アドバイスする先輩、他の研究領域の研究者、一般の読書好きの方々が読んでも、何かしら発見があるような本にしたいと思って作りました。

「これさえあれば卒論なんてチョロいぜ」という本ではまったくありませんが、卒論というしばしば孤独な作業を強いられる課題への、良き伴走者になってくれる本になったと思っています。

書店などで見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。

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2022年度日本近代文学会春季大会に参加しました

2022年5月28-29日に開催された、日本近代文学会春季大会にオンライン参加した感想を、備忘録的に記しておきます。

今回、自分が普段している研究と、密接に関わる発表はありませんでした。が、それぞれの発表から教えられるところは多く、内容は充実していたと思います。
そして、ハイブリッドの試みが画期的でした。今回、一人の会員として、その印象を書き記しておくことも無駄ではあるまいと思って、こうして文章をつづっています。

大阪で暮らす自分は、土曜日の午前に公開講座が入っていたり、家庭的な事情もあったりして、上京はかなわず、もっぱらオンラインで参加しました。
2日間、席を外した時間もありましたが、9割方視聴しました。そして「ハイブリッドはいいな!」と思いました。

オンラインのみの場合と変わらないようでいて、現地で人が集まっているのが垣間見える。それだけでも、学会として、みんなで議論している感が高まるものだと知りました。とりわけ質疑応答の際。オンラインに特有の、顔の見えない質問者と顔を出している発表者によるやりとりに比べて、対面で、同じ場で言葉を交わしている様子が見えると、会場の片隅にいるのに近い感覚が得られるように思いました。今回は行けないけれど、また次の機会には、現地に行きたいな、質問したいなという刺激も受けました。

一方で、いくつかの支障はありました。たとえば、機器の不調か、オンラインではよく聞こえている質問が、会場に届いていないなどのトラブルはありました。

でも、ハイブリッドです。
「そういうもんやろ?」と思います。

2年間、大学で、研究会等で、もっと混乱した状況は、いくらでもありました。
対面だけでやっていた時代も、マイクの不調その他のトラブルなんて、普通にありました。
今回、司会をはじめ、運営委員の方々ならびにスタッフのみなさんは、そのつど臨機応変に、誠実に対応してくださったと思います。

所属先の院生も、以前であれば東京に行かなければ聞けなかった発表を自宅で聞けて、満足だった模様です。
さまざまな事情で会場に直接行けない会員のために、ぜひオンラインは継続して欲しいと思います。
いや、でも、今回の水準のハイブリッドを行うために、どれほどの下準備が必要だったか。想像するだけで苦しく、頭が下がります。同じ水準のものを、今後もずっと続けて…とは、とても頼めないでしょう。

それでも、たとえ「聞くだけ」になっても(一方通行でも)かまわないから、中継は続けて欲しいというのが正直な気持ちです。
そのさい、映像や音が時に飛んでしまっても、仕方が無い。そういうことは、ある。そこは、みんな寛容になるべきではないでしょうか。

個人的な想いを言えば、オンラインで参加している学会で、質問できなくてもいいのです。レジュメだけ見るのと、発表および質疑応答を聞くのとでは、それだけで全然ちがう。特に、質疑応答を傍聴している楽しさ。自分がくわしくない領域であるほど、質疑を介して、発表から得られた知見を自分の中の知識や理解に位置づけやすくなります。これは、やはり学会ならではのものです。そして、もしその議論に参加したいのであれば、発表者と同じ場に身を置くことが望ましいと思います。

今後の開催方法がどうなるのかは存じません。現場の方々の判断を尊重します。対面のみ、オンラインのみに戻っても、それはそうかな、と思って納得します。
それでも、今回のハイブリッド開催の試みが、貴重なものであったことは変わりません。挑戦してくれて感謝します。開催に携わった運営委員の方々、スタッフのみなさんに、御礼申し上げます。とても助かりました。

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「誌上忘年会」または蛸の足

町田康さんが講演で、「誌上忘年会」に触れてくださって、とてもうれしかった。

https://twitter.com/machidakoujoho/status/1470292782988562433

以前、発掘して、太宰研究の専門誌に載せてもらったのに、見事に反応ゼロだった(編者の山内先生だけ喜んでくださった)新資料なので。

なお、『恥』の戸田の小説と「誌上忘年会」のどちらにも「蛸の足」が出てくる、というのは町田さんの(2021年12月12日の講演の壇上での)貴重な発見。

太宰治が作家イメージを構築する際にどのようなモチーフと使ったのか、みたいな研究をするときに使えるかもしれないので、その際には先行研究として必ず言及したい。

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太宰治の笑いの方法

2021年11月6日に、土屋文明記念文学館で行った講演「太宰治の笑いの方法」の動画がアップされています。

『畜犬談』と『懶惰の歌留多』と『眉山』の話を主にしています。

チュートリアルの『チリンチリン』と、東海林さだおのエッセイとも比較しています。

 

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第七回織田作まつり

10月16日に、第7回織田作まつりがあります。

10時から、生國魂神社の織田作之助の銅像の前で神事。

14時から、記念講演会と座談会。

ここで「オダサク、太宰、それぞれの西鶴」という講演をします。

※『新世紀 太宰治』所収の「西鶴の系譜」という論文に基づいた話をする予定です。

座談会では、高橋俊郎さんの司会で、繁昌亭の恩田雅和さんや、坂口安吾「織田の死」を発掘された本多俊介さんとお話しします。

場所は、クレオ大阪中央多目的室です。

ご関心がある方は、ぜひお越しください。

_織田作まつり 2021.10.16チラシ 2021.09.08最終版.pdf

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小林秀雄「政治家」発掘についての補足

必要があって「大妻女子大学 草稿・テキスト研究所 研究所年報 第9号」(2016)を読んでいたら、「2015年度研究集会記録」の11頁で、山本武利氏による、次のご発言があることに気づきました。

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最近、朝日新聞で小林秀雄の作品が、福岡の九州タイムスに出ていること

を大阪大学の先生が発見したと書いていましたし、天声人語にも出ていた

らしいです。われわれが作ったものを利用したということを一言言っても

らえればうれしい。言わなければいけない義務はないとは思いますが…

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完全にわたしのことなのですが、この件、「20世紀メディアデータベース」は使っていません。もう6年も前のことですが、以下、経緯を説明します。
「新潮」(2015年9月)掲載の文章に記しているように、国会図書館の憲政資料室の、プランゲ文庫のマイクロは間違いなく使っています。が、「20世紀メディアデータベース」は使っていません。証明しようがありませんが、もしアカウントのログイン記録などをたどれるのであれば、わたしがこの時期にログインすらしていないことは判明するはずです(むろん契約している図書館等で見られる可能性もある、と疑われればキリがありませんが)。

では「データベースなしにどうやって見つけたのか?」というと、

1.織田作之助が「大阪日日新聞」に掲載した新聞小説『夜光虫』の初出に当たっていた
2.当時の「大阪日日新聞」の原紙は大阪市立図書館にしかない
3.大阪市立図書館の所蔵資料には一部抜けがある
4.『夜光虫』の一部が読めない(小磯良平の挿絵も見られない!)
5.「大阪日日新聞」と同じ系列の新聞を調査しようと、国会でマイクロを閲覧
6.「四国新聞」と「九州タイムス」にも載っていることがわかった
7.せっかく「九州タイムス」のマイクロを手にしたので、『夜光虫』以外の欄も見ることにした
8.けっこう多くの文学者が書いていることがわかって飽きずに読み続けた
9.小林秀雄「政治家」に遭遇

という経緯です。データベース使ったら一発でたどり着けたことは、後でわかりました。しかし、そもそも小林秀雄の資料を探していたわけではないので、「検索する」という発想が、当時のわたしにはありませんでした。
したがって、わたしは遠回りをしたことになります。もっと近道があったのに、と言われれば、その通りだと思います。ただ、わたし自身にとっては、当時の新興地方新聞を一日一日読んでいった経験は、無駄ではありませんでした。

なお、『太宰治研究25』(和泉書院、2017)に掲載された二つのアンケートのうち「貴方は狙はれて居る」は、ミステリー文学資料館『甦る推理雑誌2「黒猫」傑作選』(光文社文庫、2002)の中の山前譲編「「探偵よみもの」総目次」を読んで見つけたもの。ただ「誌上忘年会」は、20世紀メディアデータベースで見つけたものです。したがってその旨、明記しています(『太宰治研究25』188頁)。

データベースを使わずに見つけたからすごいとか、すごくないとかいう議論に興味はありません。どのような価値がある資料なのかという説明も含めて研究者の業績ですし、そもそも見つけたものが新しい資料かどうかということは先人の研究の蓄積を参照して初めてわかることなので、見つけた研究者だけの「手柄」とすることはおこがましいでしょう。
ただ、データベースを使わずに、しらみつぶしに見て行って、思わぬ資料の発掘にいたることだってある、という事実は強調しておきたいと思います。上記の山本氏の文章は「われわれのマイクロインデックスを使えば、どこにあるかがすぐ分かりますので、自分で発見したふりをした著作者がほとんどです」というご発言の後に来ているので、山本氏は、斎藤が「自分で発見したふりをした著作者」だと断定してらっしゃるわけではありません。が、読む人に、あらぬ誤解は受けたくないなと思って、この一文をしたためました。
ただ、どのような経緯で見つけたのか、ということは個人的に聞かれることが多いですし、公開して困ることは少ないので、最近は発表した文章の中か、このようなブログになるべく書き記すようにしています。

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『太宰治 単行本にたどる検閲の影』についての補足

『太宰治 単行本にたどる検閲の影』において、重要な先行研究を見落としていたので、以下のように補わせていただきます。

本書P96~97について、以下の注を補足します。
注 この横光利一『微笑』に対する検閲については、十重田裕一「横光利一の著作に見るGHQ/SCAPの検閲―『旅愁』『夜の靴』『微笑』をめぐって」(「早稲田大学大学院文学研究科紀要 第三分冊」57、2012・2)のP27~28に先行する指摘がある。

 

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「藝術新聞」目録

「阪大近代文学研究」第19号(2021/3)に、「「藝術新聞」目録 : 自第五九九号至第六三二号(不揃)」を発表しています。

https://doi.org/10.18910/81792

戦時下の学藝新聞の記事細目です。

戦時下の文化を取り巻く空気(の一端)がうかがえると思います。

次号に633号から670号までの目録を発表する予定です。

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近況

・三島由紀夫「恋文」が、多くの方に読まれているようで、うれしいです。

・先日の公開講座のレポートをTwitterにあげてくださっている方が。徳が高すぎる…! 感謝。

・大阪大学での授業、1回目はすべて対面でできました。

・しかし2回目から当分オンラインになります。

・それでも「いちど顔を合わせられたこと」は、去年に比べればとても大きい、と思って前を向きます。

 

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三島由紀夫全集未収録作品『恋文』の発掘について

昨日(2021/4/6)の「朝日新聞」東京版朝刊・デジタル版で報じられたことを皮切りに、毎日新聞、時事通信、共同通信など、各報道機関で伝えられているように、本日発売の「新潮」5月号に、三島由紀夫の全集未収録作品が掲載されています。
「恋文」という掌編です。400字程度ですが、とても面白い作品だと思います。
発掘者として短い解説を書いているので、併せて読んでいただけると嬉しいです。
詳細は解説に譲りますが、三島が400字の中に「PX」という2文字を刻んだことが、この掌篇を占領下文学の一つとして奥深いものにしていると思います。
「PX」は、平野共余子『天皇と接吻 アメリカ占領下の日本映画検閲』草思社、1998)によれば、当時の映画において、会話に入れるのは許されたが、撮るのは禁止、もしくは極力避けるようにさせられた場だった(87頁)といったことも念頭に置いて読まれると、同時代の状況がより鮮明になるかと思います。

今回の発掘も、これまでの発掘と同様に、従来の三島由紀夫研究の蓄積に多くを依拠しています。新出資料ちゃうか、と思ってすぐに大体のところまで調べられるほど書誌の研究が進んでいる作家は、それほど多くありません。発掘直後にアドバイスいただいた三島研究者の方々にも感謝します。

なお、三島の作品と併載されている梅崎春生の『流年』も、全集未収録です(前年に発表された同名の短編は収録されているが、別の作品)。
この時期の大阪版や西部版の文藝欄の目録は、いずれどこかに発表したいと思います。

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