2019年11月
飛跡構造計算に基づく無機シンチレータ発光強度の予測
放射線化学(インターネット)
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- 巻
- 号
- 108
- 開始ページ
- 11
- 終了ページ
- 17
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
電子線, $\alpha$線,陽子,重イオンなどの多様な種類の放射線を検知するシンチレータは、付与されたエネルギー量に応じた光を発する。ここで、エネルギー付与密度の高い重イオンのような粒子に対してはクエンチング現象が起こり、エネルギー付与量と比して発光が少なくなることが知られている。さらに、励起した蛍光分子が他の蛍光分子にエネルギーを受け渡すメカニズム(Förster効果やDexter効果)によって、クエンチング現象を説明できることが有機シンチレータに関する過去の研究で示されている。そこで、本研究では、CsI(Tl), NaI(Tl), BGOの3種類のシンチレータにおいて、様々なエネルギー・線種の放射線の照射を受けた際のエネルギー付与を飛跡構造計算コードRITRACKSにより計算し、発光準位に励起する励起子の空間配置や量を予測した。また、各励起子が相互作用によりエネルギーを受け渡す確率を計算し、発光に寄与しない励起子を除いた数を計算した。その結果、相互作用の伝播距離を適切に選択することにより、MeV-GeV範囲の光子・陽子・重イオンによる発光の実験値を正確に再現することができた。特に光子による発光におけるエネルギーに対する非線形性や、低速で原子番号の大きい重イオンの入射の場合に、発光がとりわけ抑制されることなど、重要な特性を再現できたことで、本手法の有効性が示された。