講演・口頭発表等

2016年5月22日

カエサレアのエウセビオス『教会史』8巻における目撃情報

第66回日本西洋史学会大会古代史部会
  • 大谷 哲

記述言語
日本語
会議種別
口頭発表(一般)
主催者
日本西洋史学会
開催地
慶應義塾大学三田キャンパス

カエサレアのエウセビオスの主著『教会史』第8巻9章には、4世紀初頭のいわゆるキリスト教徒大迫害期に、著者がテュロス、テーベで目撃したとされるキリスト教徒迫害の模様が描写される。しかしながら同箇所と関連史料を比較検討すると、同箇所は著者自身の単純な目撃証言ではなく、過去のキリスト教徒殉教録史料などに現れるモチーフを用いて構成されていることがわかる。古代地中海世界の歴史叙述において、目撃者証言は歴史書の信憑性を確保するのに最も重要視される要素であった。それゆえ各歴史家たちは、自身や他者の目撃情報、あるいは目撃証言に基づく歴史書を執筆時に叙述に組み込み、また目撃情報に基づくことを強調して、自らの歴史書の価値を高めようと尽力した。本報告では、エウセビオスもまたこうした歴史叙述の方法論に則り、入手したテュロス・テーベ迫害に関する諸情報を、自らの目撃情報だと主張しつつ、彼が構想する理想の殉教像を描くために配置したことを明らかにしたい。