【はじめに，目的】投球動作において，棘下筋の柔軟性低下は投球側肩甲骨の複合運動である肩甲骨前方突出（以下：PR）に関与し，解剖学的特徴からも筋萎縮を来しやすいとされている。しかし，野球競技者におけるPRと棘下筋の関係性については渉猟した限り一定の見解を得られていない。今回，PRと棘下筋厚（以下：ISPW）並びに肩関節外旋筋力（以下：外旋筋力）を計測し，学生野球競技者におけるPRと棘下筋との関係性について明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は投球動作時に疼痛を有しない本学に在学する野球競技者12名。平均年齢19.5±0.9歳，全員右利き，計12名24肩を対象とした。PRは，背臥位にて肩峰後縁と床面との距離を測定した。棘下筋の実態として，日立MRイメージング装置（Apertoシリーズ）を用い，核磁気共鳴画像法（以下：MRI）を施行。肩関節MRIの水平断のT2強調画像を用いて調査を行った。ISPWの計測には肩甲骨関節窩の幅が最大となる像を用いた。肩甲骨関節窩の中点と肩甲骨体部の厚みが薄くなる点を結び関節窩軟骨下骨から4cm近位で垂線を引きこの線を基準にしてSteller Orderにてtransverse planeでのISPWを実数値に換算し測定した。外旋筋力の測定は，infraspinatus test（以下：ISPT）肢位にて徒手筋力測定器（OG GIKENアイソフォースGT-300）を用いて等尺性最大筋力を計測し全て同一検者にて行った。計3回計測を行い加算平均し外旋筋力の平均値を算出した。また，ISPWに対する筋力の比率（N/mm）を発揮能力として算出した。統計学的解析は，対応のあるt検定を用いてPR，ISPW，外旋筋力，発揮能力について投球側と非投球側間の比較を行い有意水準は5%未満とした。また，スピアマンの順位相関係数を用いて投球側と非投球側それぞれでPRと各パラメーターの相関を検討した。【結果】投球側PRは6.8±1.8cm，非投球側PRは5.6±1.8cmであり有意差を認めた（P＜0.01）。ISPWは投球側26.4±3.4mm，非投球側28.8±3.6mmであり有意差を認めた（P＜0.01）。PRとISPW間において投球・非投球側共に有意な相関は認められなかった。外旋筋力は投球側109±18.9N，非投球側97.8±13.1Nであり有意差を認めた（P＜0.05）。PRと外旋筋力の関係は，投球側で有意な相関を認めなかったが，非投球側は有意な相関を認めた（rs＝0.73，P＜0.01）。発揮能力は投球側4.2±1.0 N/mm，非投球側3.4±0.7 N/mmであり有意差を認めた（P＜0.01）。PRと発揮能力の関係は，投球側（rs＝0.61，P＜0.05），非投球側（rs＝0.74，P＜0.01）共に有意な相関を認めた。【結論】投球側でPRが大きく，ISPWが薄いという先行研究を支持する結果となったが，両側共にPRがISPWに関与しないことが明らかになった。また，非投球側のPRはISPT肢位における外旋筋力・発揮能力に関与している事から，投球側のISPT肢位における外旋筋力・発揮能力には，他の因子が関与している可能性が示唆された。