講演・口頭発表等

2018年12月8日

川端康成「日も月も」論──戦死者の〈遺文〉を手がかりに

第56回 阪神近代文学会 2018年度冬季大会
  • 辻秀平

開催年月日
2018年12月8日 - 2018年12月8日
記述言語
日本語
会議種別
口頭発表(一般)
主催者
阪神近代文学会
開催地
大谷大学
国名
日本

【発表要旨】「日も月も」は、『婦人公論』に昭和27年1月から連載された川端康成の長篇小説で、京都と鎌倉という二つの〈古都〉を主な舞台とし、一実業家の家を中心に繰り広げられる愛憎劇を描いた作品である。本作は連載中に早くも単行本の広告が出され、重版を重ね、後年川端がノーベル文学賞を受賞した際には記念映画化された。本作は先行研究ではいわゆる「中間小説」として位置付けられる傾向にあり、「千羽鶴」や「山の音」といった戦後の主要作品と比して研究がさほど進んでいない状況にある。
戦後の川端は、世相や現実から目を背け、「日本古来の悲しみ」に帰ることを語った随筆「哀愁」(『社會』昭和22年10月)に見られるような、〈伝統(古典)〉回帰の姿勢がある。だがその〈伝統〉回帰の姿勢だけでなく、川端の戦後の作品には、武田勝彦や谷口幸代などが指摘するように、戦争の傷が癒えない戦後社会が抱える問題を直視し、その矛盾や為政者への批判的な目線を顕わにする傾向も見られる。本作でもこの傾向が見られ、奥村紀美が昭和天皇の京大訪問の際の「騒擾」を考察し、天皇の戦争責任に対する批判的な眼差しの存在を指摘している。
発表者はこれまでの先行研究で等閑に付されてきた、本作中に見られる戦死した出征兵士の手紙や遺文集といった〈遺文〉の存在に注目する。と言うのも本作は、これらの〈遺文〉が作品世界の基底に存在しており、物語が展開する中で時折その存在を顕にする〈遺文〉によって、愛憎劇が生み出されているからである。〈遺文〉というモチーフは、川端が太平洋戦争中に『東京新聞』で連載した特集「英霊の遺文」がその背景として想定される。この特集で川端は、戦死した将兵の遺文集を抜粋、引用して感想を付しているが、この作業を通して川端が〈遺文〉から見出した「無言」、「母なるもの」という性質は、本作中の〈遺文〉にも活かされていると考えられる。
以上を踏まえ、本発表は作中人物の行動を規定するような〈遺文〉の効果が、本作においてどのような意味を持つのかを検討したい。

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https://hanshinkindai.hatenadiary.org/entry/20181102/p1