講演・口頭発表等

2015年9月18日

川崎市における転入行動からみた世帯あたりの子ども数の上昇要因

日本地理学会発表要旨集
  • 佐藤 将

開催年月日
2015年9月18日 - 2015年9月20日
記述言語
日本語
会議種別
口頭発表(一般)
主催者
公益社団法人 日本地理学会

1.研究背景<br>近年,地価の下落,企業が所有する社宅の売却,工場の移転による土地利用の転換によってマンション建設および供給が活発化したことで,マンション居住者が増加するようになった.都心部では単身世帯をはじめとして高齢夫婦世帯や子育て世帯等,様々な世帯が居住するようになった.一方で郊外では子育て世帯をはじめとしたファミリー世帯の居住者が多いが,都心部以上に大規模な工場が多く,その分再開発によって供給される住宅戸数も多く,地域の人口構成にも大きな影響を及ぼしている.このように都心部および郊外での多様な住宅供給が実現された一方で,以前と比べても一戸建よりも高層マンションでの住宅供給が多くなったことで子育て世帯の子ども数にも変化が生じていると推測される.子育てのしやすい住宅には広い面積を必要とされるが,近年の高層マンションも世帯数4人の居住可能な80㎡以上の住宅供給も増加しており,2人以上の子どもを持つ世帯にとってもマンションを持ち家として選択する世帯が増加していることが考えられる.住宅取得直後からみた場合は2人以上の子どもを持つ世帯は依然として戸建住宅が選ばれる傾向にあるが,その後の居住後の変化,ある程度の期間が経った後の子ども数の変化については十分に考察された研究は少ない.この点を考察することは子育て世帯に選好される住宅および子育て環境向上のための地域資源を明らかにする点においても重要であろう.<br>2.研究目的<br>本研究では世帯あたりの子ども数の上昇要因を既に子どもを持つ子育て世帯の転入行動の側面から明らかにしたい.その際,①入居直後による効果,②経年変化による効果の2点から検討する.調査対象地は近年,工場跡地の住宅開発に伴って若年層および年少人口の増加が著しい川崎市を対象にする.なお本研究では2000年10月1日以降に町丁・字の区域変更が行われていない町丁・字を調査対象地とする.平均子ども数は6歳未満の子どもを持つ核家族世帯を分母とし,該当世帯の6歳以上の子どもを含んだ子どもの人数を分子とした値とする.<br>3.分析結果<br>まずは川崎市が公表している国勢調査の独自集計データを用いて2005年と2010年とで比較して平均子ども数が上昇した地域を選出し,分布特徴について見ていきたい.図の上昇した地域の中から平均子ども数の割合が高い地域をみると,川崎区・宮前区において多く分布しており,鉄道路線から離れた地域に多く分布していることがわかる.これを踏まえて,まずは入居直後による子ども数への影響として2005年から2010年までの間に子育て世帯の転入が著しく多かった地域,具体的には2010年の5歳から9歳までの人口の2005年時点と比較してのコーホート変化率が高い地域との関係性を見ていくと,持ち家率が高くかつ一戸建率が高いと,従来からいわれてきた戸建住宅への転入が多く,入居直後に関しては広い住宅環境を望んでいることが伺えた.次に経年変化による影響として2000年から2005年までの間に子育て世帯の転入が著しく多かった地域,2005年の5歳から9歳までの人口の2000年時点と比較してのコーホート変化率が高い地域との関係性を見ていくと,持ち家率が高くかつ共同住宅率が高いとマンション居住の場合,最初は子どもが1人でも転入後に2人目以降を出産する世帯が多いことが伺えた.このように転入後の時間の経過によってはマンション居住でも子ども数が多くなることが明らかとなった.