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研究ブログ

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【記事掲載案内】コロナで模索が始まった「新しい日常」のコンサート・演劇のかたち(論座)

去る6月3日(水)、朝日新聞社の言論サイト「論座」に私の論考「コロナで模索が始まった「新しい日常」のコンサート・演劇のかたち」が掲載されました。


今回は、来場者数の制限や舞台の配置などで新型コロナウイルス感染症への対策を施しながら活動が再開し始めた器楽・管弦楽の演奏会や演劇の公演などのあり方と今後の展望を検討しています。


有料記事となっていますが、冒頭部分は無料で公開されますので、ぜひご覧ください。


[1]鈴村裕輔, コロナで模索が始まった「新しい日常」のコンサート・演劇のかたち. 論座, 2020年6月3日, https://webronza.asahi.com/national/articles/2020060300007.html.


<Executive Summary>
Announcement of Articles: They Seek a New Form of Orchestral Concerts and Theatrical Performances under the COVID-19 Crisis (Yusuke Suzumura)


My articles entitled with "They Seek a New Form of Orchestral Concerts and Theatrical Performances under the COVI-19 Crisis" is run on the RONZA on 3rd June 2020. In this articles I examine efforts to seek a new form of orchestral concerts and theatrical performances under the COVID-19 crisis.

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【書評】岩井秀一郎『永田鉄山と昭和陸軍』(祥伝社、2019年)

2019年7月、岩井秀一郎先生が『永田鉄山と昭和陸軍』(祥伝社、2019年)を上梓されました。


本書は、東条英機や石原莞爾などの昭和時代の陸軍軍人としては知名度は高くないものの、「昭和史に関する書籍を繙けば、必ずと言っていいほど、その名が出てくる」(本書、230頁)永田鉄山の足跡を辿りつつ、「陸軍の時代」(同)であった戦前の軍のあり方の一側面を描き出します。


永田鉄山の事績については川田稔の『浜口雄幸と永田鉄山』(講談社、2009年)や『昭和陸軍の軌跡』(中央公論新社、2011年)、あるいは森靖夫の『永田鉄山』(ミネルヴァ書房、2011年)などがあります。そのような中で、永田鉄山の名前を歴史に残すことになる、いわゆる相沢事件に焦点を当てたことに本書の特徴があります。


1935年8月12日に起きた相沢事件という頂点に向かい、殺害された永田の人となりの紹介と殺害した相沢三郎の来歴、あるいは陸軍内における永田の位置や役割、さらに永田を失った後の軍の進路などが複合的に合わさることで、叙述の内容は奥行きを持ち、読者に相沢事件の影響の大きさが力強く訴えかけられます。


特に、第一次世界大戦により、戦争のあり方が根本的に改まり、国家総力戦の完遂のために前線と銃後の一体化が不可欠であることを学び、生前に残したいくつかの論考を通して没後も軍の方針に影響を与えた点(本書、56-57頁)や、陸軍の統制の維持のために「心血を注いだ」(同、95頁)の様子は、永田の存在の大きさを実感するには十分と言えます。


また、万事におおらかで精神論を信奉するものの陸相としては予算獲得能力を欠き、具体的な中身を伴った提案や構想を持たず、その一方で精神論への傾斜や長広舌、さらには青年将校たちの人気を得た荒木貞夫の姿(本書、137-140頁)も、合理的な思考により物事を進めようとする永田との対比を考える上で興味深いものです。


その一方で、相沢三郎の「求道者のような面を持」ち、「礼儀正しく、一途な人柄」でありながら「精神性を重視するために合理的思考に欠け」る面(本書、125-126頁)を描出することは、何故相沢が荒木を頂点とする皇道派に与し、最後は永田の惨殺に至るかを考える上でも重要な伏線をなしています。


もちろん、1914年に始まった第一次世界大戦中の出来事であるにもかかわらず、日本が中国本土のドイツ軍の拠点などを攻撃した際に「清国にある」と1912年に滅んだ清朝の名が記されていたり(本書、55頁)、相沢事件で相沢三郎の弁護人を務めた菅原裕の著書『相沢中佐事件の真相』(経済往来社、1971年)にある「幕僚等の官職に在る者を利用して窃に雷同を図り」の「窃」を「ひそか」ではなく「ぬすみ」にと振り仮名を当てる点などには、再考の余地があるでしょう。


しかし、事務机を隔てて対峙した永田と相沢との間の息をのむ攻防と凶行という結末(本書、16-19頁)を振り返る形で、永田と相沢の人となり、陸軍内の派閥抗争、さらに日本が置かれた国際的な状況といった条件を検討する本書は、一面において小説的な魅力を備え、他面において史料の丹念な調査や関係者への聞き取りの周到さの成果と言えます。


永田の死がその後の陸軍と日本の針路に与えた影響を検討する著者には、統制派の系譜に連なり永田とも親交があり、1942年に香港占領地総督となった磯谷廉介など、「永田没後の陸軍傍流の人々」の研究などでも成果を残すことが期待されます。


その意味で、『永田鉄山と昭和陸軍』は書名にふさわしい視野の広さと、綿密な研究とが絶妙な均衡を保った良書と言えるでしょう。


<Executive Summary>
Book Review: Shuichiro Iwai's "Nagata Tetsuzan and the Showa Army" (Yusuke Suzumura)


Mr. Shuichiro Iwai, a historian, published a book titled Nagata Tetsuzan and the Showa Army from Shodensha on 10th July 2019.

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【追悼文】イダ・ヘンデルさんを巡るいくつかのこと

先日、ヴァイオリン奏者のイダ・ヘンデルさんが逝去しました。


ヘンデルさんの享年については91歳ないし92歳もしくは94歳[1]、あるいは95歳[2]、さらに96歳[3]と定説がなく、逝去した日についても6月30日[4]と7月1日[3]の両日が挙げられるなど情報が錯綜しています。


これは、1937年にロンドンのコヴェント・ガーデン劇場で演奏する際に「14歳以下の子どもの演奏を禁じる」という英国の規定を満たすために実際よりも高い年齢を公表した名残り[4]と言えるでしょう。


ユダヤ系ポーランド人であったヘンデルさんが第二次世界大戦中に英国に逃れて各地で慰問の演奏を行ったことや、優れた技術と芸術性によって長年にわたって第一線で活躍したこと、同郷の先達であるブロニスラフ・フーベルマンが1936年に創設したパレスチナ管弦楽団が第二次世界大戦後に最初に開いた演奏会で独奏者を務めたこと、あるいは指揮者のセルジュ・チェリビダッケを通して仏教や禅の思想に親しんだことなどは、広く知られるところです。


とりわけパレスチナ管弦楽団の後身であるイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団との活動は、「人生の大半を共にし」[5]たと言うほど濃密な関係を結んだことは、ヘンデルさんの演奏活動をより特徴あるものにしています。


一方、最晩年まで80年以上の長期間にわたって活動しているにもかかわらず録音が少ないものの、2000年にテスタメントから発売されたバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の全曲録音において恬淡と曲に向かい合い、ヴラディーミル・アシュケナージの伴奏によりデッカに吹き込んだエネスコやバルトークなどの二重奏曲で含み笑いをするかのような茶目のある演奏を披露したことなどは、実に印象的なものでした。


演奏旅行のほか、別府アルゲリッチ音楽祭の講師を務めるなど、日本とも関わりの深いヘンデルさんは、これからも一時代を画した偉大なヴァイオリン奏者として、人々の記憶に残ることでしょう。


[1]SADNESS: IDA HAENDEL IS NO MORE. Slippe Disc, 1st July 2020, https://slippedisc.com/2020/07/sadness-ida-is-no-more/ (accessed on 2nd July 2020).
[2]Ida Haendel, violinist who played at the Proms before the Second World War – obituary. The Telegraph, 1st July 2020, https://www.telegraph.co.uk/obituaries/2020/07/01/ida-haendel-temperamental-violinist-played-proms-second-world/ (accessed on 2nd July 2020).
[3]Ida Haendel obituary. The Guardian, 1st July 2020, https://www.theguardian.com/music/2020/jul/01/ida-haendel-obituary (accessed on 2nd July 2020).
[4]Violinist Ida Haendel has died. The Strad, 2nd July 2020, https://www.thestrad.com/news/violinist-ida-haendel-has-died/10901.article (accessed on 2nd July 2020).
[5]音楽家の魂は輪廻する. 日本経済新聞, 2004年6月13日朝刊26面.


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Ms. Ida Haendel (Yusuke Suzumura)


Ms. Ida Haendel, a violinist, had passed away at the age of 91, 92, 94, 95 or 96 on 30th June or 1st July 2020. On this occasion I epxress miscellaneous impressions of Ms. Haendel.

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「東京アラートの廃止」と「新指標の導入」は何を意味するか

昨日、東京都は第31回東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議を開催し[1]、新たに「感染状況」と「医療提供体制」に着目した7項目で新型コロナウイルス感染症の感染の拡大を監視すると発表しました[2]。


今回、新たに制定されたモニタリング項目は以下の通りです[2]。

 

(1)新規陽性者数
(2)東京消防庁救急相談センターへの発熱相談件数
(3)感染経路不明者の数と増加比
(4)PCR・抗原検査の陽性率
(5)救急搬送先が20分以上決まらなかった件数
(6)入院患者数
(7)症患者数


東京都は上記の7項目について、週1回程度専門家に分析させ、都のモニタリング会議で現状を評価し、「不要不急の外出自粛」の呼び掛けなどをする計画です[2]。


一方、新型コロナウイルス感染症への対策として東京都が独自に作成した警報情報である「東京アラート」については、東京湾にかかる東京港連絡橋、いわゆるレインボーブリッジを赤く点灯させるなどして警戒を呼び掛けていたものの、都の関係者によれば「インパクトが強く、再度の休業要請と勘違いした事業者もいた」とされています[3]。


「再度の休業要請と勘違いした事業者もいた」という点については、「インパクト」の強弱ではなく、東京都側の情報の発信の方法が十分ではない、あるいは不適切であったという可能性を推察させます。


また、「東京アラート」については、「新規陽性者数」、「新規陽性者における接触歴等不明率」、「週単位の陽性者増加比」の3項目を挙げて緩和及び再要請の目安となる数値を明記し[4]、6月29日の時点で1週間の平均感染者数が事業者への休業を再要請する目安となる50人を超えていたにもかかわらず具体的な措置が取られないなど、名存実亡の観を呈していました。


もちろん、休業に協力した事業者への給付金などに関する都の財源は、9000億円から500億円以下に減少しているとされ[5]、再度の休業要請を行った場合に金銭的な対応を行う余地が乏しいことは明らかです。


あるいは、7月5日(日)に投開票が行われる都知事選挙を考えれば、休業の再要請や都立学校の再閉鎖などを行うことは都の従来の対応が失敗したことを意味し、現職として立候補している小池百合子都知事の再選を危うくするかもしれません。


さらに、経済活動と感染の拡大の予防とを両立させるためには、所期の数値を厳守するだけでは必ずしも適切ではなく、状況に応じた柔軟な態度も必要となると言えるでしょう。


このように考えれば、「新規陽性者数」、「新規陽性者における接触歴等不明率」、「週単位の陽性者増加比」の3項目について目安となる数値を明記した「東京アラート」に比べ、新しい指標では感染状況に関する第1項から第3項、あるいは医療体制に関する第4項から第7項まで、具体的な数値が示されているのが第4項のみであることは、モニタリング会議の裁量の余地を大きくしていることが分かります。


しかし、「適切なモニタリング等を通じて、慎重にステップを踏み、都民生活や経済社会活動との両立を図る」、あるいは「状況の変化を的確に把握し、必要な場合には「東京アラート」を発動する」としながら[4]、1400万人の都民の福祉よりも個利個略が優先されているなら、どうなるでしょうか。


そのような不適切な判断を行う為政者がその地位を保つことは難しくならざるを得ません。


それだけに、小池都知事や他の東京都の関係者は、自ら定めた新たな指標に忠実であるばかりでなく、絶えず都民の利益を優先することに最善を尽くすことが求められるのです。


[1](第533報)第31回東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議の開催について(令和2年6月30日開催). 東京都, 2020年6月30日, https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1007261/1009640.html (2020年7月1日閲覧).
[2]都、警戒呼びかけ数値目安設けず 7項目のモニタリング<新型コロナ>. 東京新聞, 2020年7月1日, https://www.tokyo-np.co.jp/article/38990?rct=national (2020年7月1日閲覧).
[3]都、新たな監視項目公表へ. 日本経済新聞, 2020年6月30日夕刊9面.
[4]新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ. 東京都, 2020年5月22日, https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/05/22/documents/11_00_1.pdf (2020年7月1日閲覧).
[5]第2波、病床備えに不安. 日本経済新聞, 2020年6月30日朝刊3面.


<Executive Summary>
What Is a Meaning of a Failure of the "Tokyo Alert"? (Yusuke Suzumura)


The Tokyo Metropolitan Government decided to abolish the "Tokyo Alert" and the new indexes for monitoring the COVID-19 on 30th June 2020. It implies that the "Tokyo Alert" was a failed measure, since they gave priority not to the public interests but their own interest.

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「ふるさと納税訴訟での泉佐野市の逆転勝訴」が示唆する「を巡る素朴な性善説」の限界

本日、最高裁判所第3小法廷において、いわゆる「ふるさと納税制度」の対象自治体から除外したのは違法だとして、大阪府泉佐野市が除外決定の取り消しを求めた訴訟の上告審判決が下り、国の勝訴とした大阪高裁の判決を破棄し泉佐野市の逆転勝訴が確定しました[1]。


判決理由において、「新制度の施行前は、返礼品の提供で特に法令上の規制は存在しなかった」とした上で「新制度は一定の対象期間の寄付金募集実績に関するもので、施行前の過去の実績をもって(泉佐野市を)不適格とすることを予定していると解するのは困難」とするとともに、新制度に関する国会審議についても「過去の実績を基に不適格にできる前提で審議されたとはいえない」と判断しました[1]。


「ふるさと納税」が自治体間の超過利潤の獲得競争を引き起こし、制度の非効率化を予測することが容易であること、さらに少なからぬ納税者と自治体の担当者は経済合理性に基づいて利己的に行動しており、結果的に過剰な返礼という事態を生み出していることは、既に本欄の指摘するところです[2]。


すなわち、返礼品の代金が納税者からの寄附金の額を超えない限り、ふるさと納税を受ける自治体の税収は増えることになり、もし自治体甲が、地域の住民が自治体乙にふるさと納税を行うことを避けるためにより高額の返礼品を用意し、自治体乙が他地域からのふるさと納税を促進するためにさらに高額の返礼品を設定するなら、返礼品の金額を高額化させる競争が起きざるを得ません[2]。


また、理論的には税収を1円確保できる金額まで返礼品が高額化される余地はあるものの、例えば10万円の寄附に対して9万9999円の返礼品を用意するなら、1円の税金を集めるために9万9999円を費やしていることになり、非効率度が極限まで高められることになります[2]。


もちろん、総務省の掲げる、以下のような「ふるさと納税」の理念[3]は、制度を正当化するために不可欠なものです。

 

第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。


しかし、実際には納税者も自治体の担当者も趣旨を理解して「ふるさと納税」制度を活用するだろうという性善説に基づく政策から泉佐野市のように「自治体間の競争」に勝ち抜くことを最も重視した自治体が現れたという点は重要です。


何故なら、「ふるさと納税」が基づく素朴な性善説は、人間の利己主義に基づく行動の後塵を拝したからです。


それだけに、今回の判決は、総務省の遅きに失した対応[2]がもたらした、ある意味で当然の帰結であったと言えるでしょう。


[1]ふるさと納税訴訟、泉佐野市が逆転勝訴 最高裁判決. 日本経済新聞, 2020年6月30日, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60958330Q0A630C2CC1000/ (2020年6月30日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 「ふるさと納税の抜本見直し」が示す「素朴な性善説」に基づく政策立案の限界. 2019年12月14日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/f5112f60692ba77be81f6f455586ad12?frame_id=435622 (2020年6月30日閲覧).
[3]ふるさと納税の理念. 総務省, 公開日未詳, http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/policy/ (2020年6月30日閲覧).


<Executive Summary>
Loss of the Court Case on the Tax Deductible Donation System Demonstrates Importance of Hard Viewpoint for Human Nature (Yusuke Suzumura)


The Japanese Supreme Court made a judgement that the central government's decision to remove the City of Izumisano from a tax deduction scheme on 30th June 2020. It demonstrates importance of hard viewpoint for human nature when the authorities plan a policy, since the winner performs according a rent-seeking.

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「都立学校の完全再開」の問題点は何か

今日から、新型コロナウイルス感染症の拡大により、登校時間や児童、生徒などの数を制限する分散登校を続けていた東京都立学校が全面的に再開しました[1]。


都内の新型コロナウイルス感染症の発症者数は依然として全国で最も多く、感染の拡大の終息の見通しは不明であるものの、5月25日(月)に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が解除されたことや、3月から4月にかけての感染者数の急速な拡大が鎮静化の傾向を示していることなどから、「全面再開」の判断が下されました。


また、「全面再開」に際しては東京都教育委員会が「感染症対策と学校運営に関するガイドライン」を改訂し、公表しました[2]。


すなわち、本ガイドラインの中において、東京都教育委員会の藤田裕司教育長は次のように述べています。

 

学校の教育活動を再開するに当たっては、これから一定期間、新たなウイルスとともに社会で生きていかなければならないという認識に立ち、感染症対策を講じながら、幼児・児童・生徒の健やかな学びの保障との両立を図り、学校の「新しい日常」を定着させていくことが必要です。


このような指摘は、「新常態」や「ウィズコロナ」といった言葉が用いられている現在の状況に照らせば、ごく標準的な内容であると言えるでしょう。


一方で、ガイドラインには「感染症対策の徹底」や「教育活動を実施する上で必要な感性症対策」、「感染症対策を徹底した段階的な教育活動」といった項目が設けられ、基本的な考え方が示されているものの、「各学校においては、感染症対策を徹底して行うとともに、学校とオンライン学習等による家庭学習を組み合わせた教育活動を工夫して実施していただきたいと思います」[2]という藤田教育長の発言を反映するかのように、具体的な対応策については各校に任せられているのが実情です。


確かに、幼稚園から高等学校まで、教育の内容も在籍者の特徴も異なる都立学校に一律の基準を設けて指針とすることは現実的ではないかも知れません。また、各校の実情を最も適切に把握しているのが一人ひとりの教職員であるなら、総論的に方針を定め、個別の状況について臨機応変に対処する方が現実的と言えるでしょう。


また、大学生非常勤職員を配置するなどして、教育活動の継続も行われてきました。


しかしながら、実際には金銭的、物質的な支援はもとより、人的な手当ても不十分なまま学校が「全面再開」となったことで、各校の教職員の負担が増しています。


さらに、具体的な対応策が各校に任されたために、例えば管理職や他の教職員の取り組みいかんにより予防策に濃淡が生じるであろうことは、学校の「完全再開」後に感染者が増加したたの自治体の事例[1]からも推察されるところです。


このように考えれば、「都立学校の完全再開」は喜ばしい出来事であるとともに、東京都教育委員会や東京都が設置者としての務めを必ずしも十全に果たしていないことが推察されます。


それだけに、幼児、児童、生徒の安全をどのように確保するかという点に人々の関心が集まる中で、いかにして教職員の負担を軽減してゆくかも、重要な取り組みとなることでしょう。


[1]毎日学校 教員余裕なく. 日本経済新聞, 2020年6月29日夕刊9面.
[2]新型コロナウイルス感染症対策と学校運営に関するガイドライン【都立学校】~学校の「新しい日常」の定着に向けて~改訂版. 東京都教育委員会, 2020年6月19日, https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2020/files/release20200619/guidelines01.pdf (2020年6月29日閲覧).


<Executive Summary>
Is "Restarting of the Tokyo Metropolitan School" Good News? (Yusuke Suzumura)


The Tokyo Metropolitan schools restart to conduct full-scale educational activities on 29th June 2020. It seems good news to take the first step to maintain their education, but is not the best information, since teachers and staffs of each school have to accomplish measurements by their own efforts.

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「プロオーケストラの定期演奏会の再開」が踏み出した大きな一歩

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、2月26日(水)に全国的なスポーツや文化関連の催事の中止や延期、規模縮小[1]が要請されてから中止や延期の措置が取られていた職業管弦楽団の有観客による定期公演が再開され始めています。


主要楽団については6月21日(日)に東京フィルハーモニー交響楽団が曲目を変更し、休憩時間を設けず約1時間にわたり第938回定期演奏会を行うとともに、6月26日(金)には東京交響楽団が休憩時間を含め、当初の予定通りの曲目による第681回定期演奏会が開催されています[2]。


職業管弦楽団を含む音楽活動については、全国公立文化施設協会による「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」[3]などに準拠し、主催者、会場、来場者がそれぞれ適切な対応を講じることが不可欠となります。


その意味で、従来に比べて主催者にとって、演奏会を開催することは人的、金銭的、あるいは物理的にも負担が増すことになります。


しかし、交響管弦楽界を主導し、芸術性の追求と裾野の拡大とを担う職業管弦楽団にとって活動の中心である定期演奏会を行うことは、各団の経営を考える際に重要であるばかりでなく、日本における交響管弦楽の衰亡を防ぐためにも意義深い取り組みとなります。


それだけに、適切な対応策を講じつながら演奏活動を再開し、あるいは再開の計画を立てた各団は、大きな一歩を踏み出したと言えるのです。


[1]イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ. 厚生労働省, 2020年2月26日, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00002.html (2020年6月28日閲覧).
[2]池田卓夫. 動き出す日本のオーケストラたち(1)~様々な課題に取り組み、待望のコンサートを再開. クラシック音楽情報誌 「ぶらあぼ」, 2020年6月23日, https://ebravo.jp/archives/66204 (2020年6月28日閲覧).
[2]劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン. 公益財団法人全国公立文化施設協会, 2020年5月25日, https://www.zenkoubun.jp/info/2020/pdf/0525covid_19.pdf (2020年6月28日閲覧).


<Executive Summary>
The Japanese Professional Orchestras Have Taken the Important First Step after an Outbreak of the COVID-19 (Yusuke Suzumura)


The professional orchestras in Japan restart to hold a subscription concert which was cancelled or postponed since 26th February 2020. They have taken the important first step after an outbreak of the COVID-1, since subscription concert is the core of their activities.

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経営改善へ各球団のあの手この手

去る5月25日(月)、日刊ゲンダイの2020年5月26日号25面に連載「メジャーリーグ通信」の第69回「経営改善へ各球団のあの手この手」が掲載されました[1]。


今回は、「7月4日前後の開幕」を目指していた大リーグと各球団の経営面上の取り組みを取り上げています。


本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


****************
経営改善へ各球団のあの手この手
鈴村裕輔


「7月4日前後の開幕」とされていた大リーグの開幕は、7月24日前後となった。


突然地球を襲った宇宙人と人類の死闘を描くウィル・スミスの主演映画『インデペンデンス・デイ』(1996年)を参照するまでもなく、1776年7月4日の独立宣言公布を記念する独立記念日は米国にとってひときわ重要な日だ。


何より、7月4日に各地の球場に星条旗がはためきながら大リーグの公式戦が行われれば、たとえ無観客であるとしても「新型コロナウイルスとの戦いに勝利した」という象徴として大きな意味を持っただろう。


一方、7月24日は、本来であれば東京オリンピックの開幕日であった。


2020年のスポーツ界にとって最大の催事となる夏季五輪が1年延期になったところに大リーグが開幕すれば、人々の注目が高まることは想像に難くない。


それとともに、各球団は公式戦の再開に先立ち、経営上の問題を解決しなければならない。


販売済みの公式戦の入場券の払い戻しなどは、そのような緊急の問題の一つだ。


実際、大リーグ機構は4月28日に全球団に対して入場券の払い戻しの方針をまとめ、速やかに公表するよう求め、翌日には各球団がそれぞれの対策を発表している。


タイガースは一回券の購入者に対して「全額払い戻し」か「2020年の公式戦の購入の際に利用できる30%のボーナスクレジット」のいずれかを選択するよう提案した。


また、入場券を払い戻しせず、「ボーナスクレジット」を選択した場合、新型コロナウイルス感染症対策に従事している医療関係者や経済的な被害を受けたデトロイトの非営利団体の従業者の支援などのプログラムに参加することが出来る。

 

「30%」という率はタイガースが最も高いものの、ツインズは15%、インディアンズは10%、カブスは5%といったように、他の球団も払い戻しの他にボーナスクレジットを選択肢として用意している。


大リーグ機構による要請は「試合が行われたないのに高価な入場券の払い戻しに応じない」と訴訟を起こされた直後に出されている。このことからも、関係者が、放映権料と並び球団の収入の柱となる入場券収入の維持だけでなく、訴訟によって高額な和解金や賠償金を支払う事態を回避しようとしていることを示している。


これに対して、アスレティックスが本拠地オークランド・コロシアムの年間使用料120万ドルを期日までに支払っていないとされる問題も興味深い。


アスレティックス側は「公式戦が行われていないため支払い能力がない」とするものの、この主張をそのまま受け入れる関係者は少ない。


本拠地、さらにはオークランドからサンノゼやラスベガスなどに球団を移したいアスレティックス側が、「経営は最悪で、状況の打開には移転しかない」と移転の根拠作りのために球場の使用料の問題を利用しようという指摘さえある。


大リーグの各球団は、それぞれの事情を抱えつつ、経営環境の悪化を乗り切ろうとしているのである。
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[1]鈴村裕輔, 経営改善へ各球団のあの手この手. 日刊ゲンダイ, 2020年5月26日号25面.


<Executive Summary>
What Is an Important Point for the Owners before Starting the 2020 MLB Season? (Yusuke Suzumura)


My article titled "What Is an Important Point for the Owners before Starting the 2020 MLB Season?" was run at The Nikkan Gendai on 25th May 2020. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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「ブロムシュテットの三大交響曲×2」を聴取して思ったいくつかのこと

去る6月6日(土)、13日(土)、20日(土)の3回にわたり、NHK FMの番組『N響ザ・レジェンド』で、「ブロムシュテットの三大交響曲×2」が放送されました。


これは、2019年10月19日(土)、26日(土)、11月2日(土)の番組の再放送で、ヘルベルト・ブロムシュテットがNHK交響楽団の第1786-1788回定期公演の模様を伝えるものでした。


私は6月13日の回で取り上げられた第1787回定期公演の第1日目を会場であるNHKホールで鑑賞しており、以下のように寸評しています[1]。

 

前半にモーツァルトの交響曲第40番、後半にチャイコフスキーの交響曲第5番を取り上げたこの日の公演は、各声部の輪郭を明瞭に描き出すことで純朴ながら味わい深い演奏に仕上がったモーツァルトと、NHK響が「音の大きい楽団」であることを久しぶりに思い出す躍動感に満ちたチャイコフスキーと、いずれも聞きごたえのある演奏であった。


6年の歳月を経て、会場とラジオ放送と異なる媒体で聞く演奏ではあったものの、私の受けた印象はほとんど変わらないものでした。


これは、一面において私の鑑賞する能力が何らかの進歩や発展を遂げていないことを示唆するとともに、他面においてはブロムシュテットの作り出す音楽が時流におもねることなく、確立された様式に基づいているために経時的な変化を示さないことを推察させます。


いずれが真実であるかはさておき、今回のように会場で直接耳にした演奏に放送を通して接することは、なかなか興趣の尽きないものではありました。


[1]鈴村裕輔, NHK交響楽団第1788回定期公演. 2014年9月20日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/6b51af098c568553c8f9e0094702539a?frame_id=435622 (2020年6月26日閲覧).


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of "Blomstedt's Three Great Symphonies" (Yusuke Suzumura)

 

A radio program of the NHK-FM entitled with "NHK Symphony Orchestra the Legend" broadcasted performances of Herbert Blomstedt and the NHK Symphony Orchestra three times on 6th, 13th and 20th June 2020. The title of programs was "Blomstedt Conducts Three Great Symphonies x 2".

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「大リーグの開幕決定」が意味する「選手会の勝利」

現地時間の6月23日(火)、大リーグ機構は2020年の公式戦を7月24日(金)前後に開始し、レギュラーシーズンを60試合の予定で実施することを公表しました[1]。


大リーグ選手会は6月22日(月)に60試合制での実施を提案した大リーグ機構の計画を拒否し、機構側が強行開催の権利を即日で行使していました[2]。


元来、選手会側が70試合制を要求していたことを考えれば、60試合制となったことは、機構側の主張が実現したことを意味します。


従って、試合数に関しては、両者の対立は機構側の勝利に帰したことになります。


一方、年俸については、通常の162試合制が60試合制に変更されたことに合わせて、試合数の減少に応じた金額、すなわち所定の年俸額の約37%が支払われることになりました[1]。


年俸が当初の金額の37%まで減少したことは選手にとっては痛手ではあるものの、機構、さらに球団経営者が年俸額の高い選手の削減幅を大きくし、低年俸の選手の削減幅を小さくすることで実質的な年俸総額制の実施を計画していたことを考えれば、機構及び経営者側の企図が実現しなかったことを意味します。


1994年から1995年にかけて起きたストライキを参照するまでもなく、選手会にとっては年俸総額制は決して受け入れられない制度であるため[3]、年俸の削減が試合数に完全に比例したことは、選手会の勝利となります。


このように考えれば、機構及び経営者陣営は試合数、選手会側は年俸削減額と、それぞれの主張に基づいた成果を得たことになります。


そして、「譲れない一線」であった実質的な年俸総額制の導入を回避できたという点で、少なくとも今回の労使の対立は、選手会側がより大きな利益を得たと言えるでしょう。


[1]MLB plans to implement up to 60-game season: Key schedule dates, likely Opening Day, when spring training could start and more. ESPN, 23rd June 2020, https://www.espn.com/mlb/story/_/id/29348260/mlb-plans-implement-60-game-season-key-schedule-dates-likely-opening-day-spring-training-start-more (accessed on 25th June 2020).
[2]MLB owners, Rob Manfred to impose 60-game season after MLBPA rejects offer. UPI, 22nd June 2020, https://www.upi.com/Sports_News/MLB/2020/06/22/MLB-owners-Rob-Manfred-to-impose-60-game-season-after-MLBPA-rejects-offer/4621592864432/ (accessed on 25th June 2020).
[3]鈴村裕輔, 労使のタフネゴシエーターたちの交渉術. 2020年6月16日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/75d39888ad549fa73f680875bc1d9972?frame_id=435622 (2020年6月25日閲覧).


<Executive Summary>
Who Is the Winner of MLB's Player-Management Confrontation? (Yusuke Suzumura)


The Major League Baseball announces that the regular season of 2020 will start around 24th June 2020 on 23rd June. It seems that the Major League Baseball Players Association (MLBPA) might be the winner of the player-management confrontation, since players will earn around 37% of their full-season salary as long as the truncated schedule is completed which has been required by the MLBPA.

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