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研究ブログ

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「NHKの新経営計画とチャンネル削減問題」が持つ意味は何か

本日、NHKは2021年度から2023年度の経営計画案を公表し、「減収局面でもコンテンツ投資を充実させ、視聴者・国民の求める多様性・質の高さを実現」するとともに「職員一人ひとりの創造性を最大限に生かせるスリムで強靭な組織」という「新しい「NHKらしさの追求」」することを明らかにしました[1]。


また、新たな経営計画案の公表にあわせてNHKの前田晃伸会長が記者会見を行い、衛星波の段階的な整理・削減と音声波のAMとFMの2波への整理・削減を検討する旨を述べました[2]。


今回の経営計画案については8月5日(水)から1か月にわたって意見の募集が行われ、総務省などの議論を受けて最終的な計画が策定されます。


そのため、当初案では計画されていなかった受信料の引き下げが総務省の要請を受けて明記された2018年度から2020年度の経営計画[3]のように、経営計画案の変更も予想されるところです。


一方で、今回の経営計画案の眼目となる衛星波と音声波の整理と削減については、目的はともかく、動機の点で再考の余地があります。


何故なら、衛星放送とラジオの取り扱いが、視聴者ではなく民放側の要望に基づく措置だからです。


すなわち、日本民間放送連盟の大久保好男会長が「NHKは一般から広く受信料を集めて運営している。適正な事業規模をきちんと精査すべきだ」と指摘し、総務省もNHKの一層の業務の効率化や受信料の適正化を求めていました[3]。


市場や広告主などから資金を集める必要がある民放各社に比べ、受信料という安定した収入のあるNHKが事業を拡大させることは、民放側にとっては「民業圧迫」と思われるかもしれません。


また、放送行政の監督官庁として民放側の意見を無視することが出来ないこともあり、総務省も民放連と同様の要望を行っていることが推察されます。


もとより、視聴者の納付する受信料を主たる収入源とするNHKだけに、限られた経営資源を有効に活用するためにも、冗費を削減することは重要な取り組みと言えるでしょう。あるいは、外部からのある種の圧力がなければ、NHKがチャンネルの統廃合といった政策を導入しない可能性も否定できません。


しかし、衛星波や音声波が統廃合されることで最も大きな不利益を被るのは、一人ひとりの視聴者ないし聴取者です。


例えば、報道を中心とするBS1と娯楽番組を軸にするBS2が設けられたのは、一面においてはNHKが事業規模を拡大したためではあるものの、他面では多チャンネル化により視聴者の需要により細やかに対応しようとする努力の結果でもありました。


そして、「民業圧迫」という批判によって衛星波と音声波の整理と削減が行われるなら、NHKの放送事業者としての努力だけでなく、これまで多チャンネル化の恩恵を受けてきた視聴者の利益が損なわれることになりかねません。


それだけに、NHKや民放連、あるいは総務省といった関係者には、視聴者と聴取者の利益を最優先して「チャンネル削減問題」に向き合うことが求められると言えるでしょう。


[1]NHK経営計画(2021-2023年度)(案). 日本放送協会, 2020年8月4日, https://www.nhk.or.jp/info/otherpress/pdf/2020/20200804.pdf (2020年8月4日閲覧).
[2]NHK経営計画(2021-2023年度)(案)について 会長会見要旨. 日本放送協会, 2020年8月4日, https://www.nhk.or.jp/info/pr/toptalk/assets/pdf/kaichou/k2008.pdf (2020年8月4日閲覧).
[3]NHK、チャンネル削減. 日本経済新聞, 2020年8月4日朝刊3面.


<Executive Summary>
What Is a Meaning of the NHK's New Management Plan? (Yusuke Suzumura)


The NHK releases its new management plan for the fiscal year 2021-2023 on 4th August 2020. It has an important meaning for the NHK, since they have to expand interests of the viewers and listeners but other private broadcasting corporations and the Ministry of Internal Affairs and Communications.

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【追悼文】レオン・フライシャーさんにまつわるいくつかの思い出

昨日、米国のピアノ奏者で指揮者のレオン・フライシャーさんが逝去しました。享年92歳でした。


1952年のエリザベート王妃国際コンクールのピアノ部門で優勝したフライシャーさんが1960年代初めに神経障害であるジストニアにより右手の自由を失い、教育と指揮の分野に転身したこと、1980年代には左手だけを用いてピアノ奏者として復帰したこと、さらにボツリヌス菌を注入する治療の成功により、2004年に40年ぶりに両手による演奏を録音したことは周知の通りです。


また、日本では1992年9月から1998年9月まで新日本フィルハーモニー交響楽団の指揮者を務めたほか、大阪フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団などにも客演しており、指揮者として多くの実績を残してきました。


ところで、私がフライシャーさんのピアノの演奏を直接耳にしたのはただ1回のみ、すなわち、2008年5月11日(日)にNHKホールで行われたNHK交響楽団の第1619回定期公演でした。


この日は前半にベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番、後半にパヌフニクの『カティンの墓碑銘』とルトスワフスキのオーケストラのための協奏曲で、指揮は尾高忠明、ピアノ独奏がフライシャーさんでした。


聞きなれた「皇帝」協奏曲であったためか、あるいは両手での演奏に復帰してから4年後のことであったためか、この日のフライシャーさんの演奏は概して硬く、そしてどことなくよそよそしいものでした。


むしろ、5日後の5月16日(日)の第1620回定期公演でブルーノ・レオナルド・ゲルバーがベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を煌めく音の連なりによって奏でたことと相俟って、ピアノ奏者にとって腕の自由が利かなくなること、そして病気から復帰するだけでなく演奏の水準を取り戻すことがどれほど難しいかと思われました。


もちろん、「百年に一人の逸材」と評された技量に接する機会が録音を通してのみであったことは残念ではありました。


しかし、会場で感じられた硬さとよそよそしさの中にほのかな温かさを認めらたことは、フライシャーさんの音楽そのものへの迫り方が技巧から作曲者の胸中に飛び込むような境地に達したのではなかろうかと推察されたのでした。


難病を克服し、しかも再び演奏活動の第一線に立ったフライシャーさんの足跡は、音楽に対する接し方の可能性を広げたものと言えるでしょう。


改めて、フライシャーさんのご冥福をお祈りします。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Dr. Leon Fleisher (Yusuke Suzumura)

 

Dr. Leon Fleisher, a pianist, conductor and educator, had passed away at the age of 92 on 2nd August 2020. On this occasion I express miscellaneous impressions of Dr. Fleisher.

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「新型コロナウイルス問題」が学術活動に与える影響の意味は何か

新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大により、各国や地域の内部で移動の規制や、国や地域を跨ぐ渡航が制限されているのは周知の通りです。


こうした対策は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために必要な措置であることは多くの人が認めるところでしょう。


それとともに、一連の施策によって内的ないし外的な人の往来が減少し、観光業をはじめとする様々な分野に看過し得ない影響が生じていることも、われわれの知るところです。


ところで、新型コロナウイルス感染症の拡大が学問に与える外形的な影響の一つは、学会や研究会などについて、会場に参加者が集まって開催するという方式で大会や総会を実施することが難しくなり、実施を延期ないし中止する、もしくは遠隔会議方式により行われているという点でしょう。


実際、私も今年3月以来、所属する学会や研究会の年次総会や研究大会がいずれも従来通りの方法での開催を見送り、書面開催や遠隔会議方式により実施するか、2020年度については中止となっています。


もちろん、こうした措置が取られることで、これまでのような参加者同士が同じ空間を共有し、直接的な対話を行う機会が奪われるのは、残念なことでしょう。


その一方で、例えば書面方式で開催することで、学会発表などでしばしば見受けられる「思い付きの発言」や「発表の趣旨を逸脱する質問」、あるいは「その場しのぎの回答」などが少なくなるのは、開催形式の変更に伴う好ましい結果の一つと言えるかも知れません。


今後、学会などの開催の形式がどのようになるかについては、現時点では予断を許しません。


それでも、もし開催形式の変更によって新たな知見などが得られたなら、各団体や参加者には、ぜひともそうした成果を発展させ、あるいは従来の方式に活用することが求められることでしょう。


<Executive Summary>
Will a Style Change a Meaning of Academic Activities? (Yusuke Suzumura)


By an outbreak of the COVID-19, academic activities such as holding and participating conference or research meeting are postponed or changed its style. It might be a good opportunity for person who has a relationship with an academia to correct undesirable customs and introduce new habit and system.

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『N響ザ・レジェンド』「シュタインのベートーベン」が示した「名誉指揮者の時代」

本日、19時20分から21時までNHK FMで『N響ザ・レジェンド』を聴取しました。


今回は、「シュタインのベートーベン」と題し、NHK交響楽団の名誉指揮者であったホルスト・シュタインが指揮するベートーヴェンの交響曲第8番、交響曲第6番『田園』、そして『エグモント』序曲が取り上げられました。


交響曲第6番の演奏後に解説の池辺晋一郎さんが「シュタインは曲を巨視的に見通して指揮をする」という趣旨の指摘を行ったように、シュタインは譜面を正確に読み込むことを通して作品の構造を的確に把握しつつ、生きいきとした音楽をもたらします。これは、コレペティトゥーアや合唱指揮者から出発し、作品を背後から支えたシュタインの経験に裏打ちされた様式と言えるでしょう。


このようなシュタインが生み出す音楽の魅力の一端については、1998年11月5日(木)にバンベルク交響楽団と演奏したブラームスの交響曲第4番で私も実感したものです[1]。


ところで、今回の放送の最後に、池辺さんは名誉指揮者としてNHK響を支えたヴォルフガング・サヴァリッシュ、オットマール・スウィトナー、そしてシュタインの3人の特長について、サヴァリッシュは総合大学、スウィトナーは音楽の実直なところを引き出す、シュタインは音楽の人間性を伝える、と評しました。


司会の檀ふみさんが「この3人がいれば完璧」と応じたように、確かにアレクサンダー・ルンプフが常任指揮者を辞任した1965年7月から1996年9月にシャルル・デュトワが着任するまでの31年にわたってNHK響を支えた中心的な指揮者は、サヴァリッシュ、スウィトナー、シュタインでした。


それだけに、シュタインの演奏を取り上げることでいわば「名誉指揮者の時代」に焦点が当てられたことは、ある意味で『N響ザ・レジェンド』という番組の名にふさわしいものであったと思った次第です。


[1]鈴村裕輔, 旧稿再掲--ホルスト・シュタインさんの没後十年に際して. 2018年8月17日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/be31a87151d47d155a39c36cb23e0d4e?page_id=2804 (2020年8月1日閲覧).


<Executive Summary>
"NHK Symphony Orchestra" Mentions the Age of Honorary Conductors with Concerts by Horst Stein (Yusuke Suzumura)


A radio program of the NHK-FM entitled with "NHK Symphony Orchestra the Legend" was on the air on 1st August 2020. In this time Beethoven's 8th and 6th symphonies and Egmont overture. Conductor was Horst Stein.

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【追悼文】李登輝博士について思ったいくつかのこと

昨日、台湾の元総統の李登輝博士が逝去しました。享年97歳でした。


農政学者あるいは中華民国総統としての李博士の事績、そして政治家ゆえとも言うべき毀誉褒貶[1]については周知の通りでありましょう。


ところで、李博士の取り組みの一つとして知られるのが、いわゆる中台関係を「特殊な国と国の関係」とし、「一つの中国」に対して「二国論」を唱えた点であることは、広く知られるところです。


台湾側の態度の変化が中国当局の反発を招き、両岸の緊張関係をもたらしたこと、それとともに「戒急用忍」を旨とし、拙速を戒めて慎重に事柄を進めるという慎重さに基づていることは、黄偉修先生(東京大学)のご著書『李登輝政権の大陸政策決定過程(1996~2000年)』(大学教育出版、2011年)の第4章に詳述されています。


同書が教えるのは、李博士が1996年に直接選挙で総統となってから2000年に退任するまでの大陸政策の周到さであるとともに、必ずしも組織的な調整を経てはいなかったという点です。


その意味で、しばしば「台湾の民主化の父」や「親日家」と称される李博士は、そうした美称以上に、現実的であり冷厳でもある政治家であったと言えるでしょう。


それだけに、今後、実証的な研究がさらに進み、李博士の実像がより立体的に描かれることが期待されるところです。


[1]理想求め権力闘争. 日本経済新聞, 2020年7月31日朝刊9面.


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Dr. Lee Teng-hui (Yusuke Suzumura)


Dr. Lee Teng-hui, the Former Taiwan President, had passed away at the age of 97 on 30th July 2020. On this occasion I express miscellaneous impressions of Dr. Lee.

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「2020年の長梅雨」で思ったいくつかのこと

本日の時点で、気象庁は関東甲信地方の梅雨明けを発表していません。


平年では7月21日頃で、梅雨明けが確認されなかった1993年を除けば最も早い梅雨明けは2018年の6月29日頃で、最も遅いのは1982年の8月4日頃となります(表1)。


表1 1951年以降の関東甲信地方の梅雨入りと梅雨明け(確定値)

表1 1951年以降の関東甲信地方の梅雨入りと梅雨明け(確定値)
(出典)気象庁公式ウェブサイト(https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/baiu/kako_baiu09.html)の情報を基に作成。


一方、梅雨入りについては最も早いのが1963年の5月6日頃であり、最も遅いのが1967年と2007年の6月22日頃となり、平年は6月8日頃となっています(表1)。


また、1993年を除く過去68年間の梅雨入りから梅雨明けまでの期間は平均して約41日でした(表1)。

 

現時点における今年の梅雨明けは最短で7月31日(金)になる見込みのため、6月11日に梅雨入りした今年の関東甲信地方[1]における梅雨の期間は、少なくとも51日となります。


今年の梅雨入りは平年より3日遅かったものの、梅雨明けについてはすでに平年を9日過ぎているため、梅雨の期間も平年に比べて長くなる傾向にあると言えるでしょう。


[1]令和2年の梅雨入りと梅雨明け(速報値). 気象庁, 2020年7月30日, https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/baiu/sokuhou_baiu.html (2020年7月30日閲覧).


<Executive Summary>

Miscellaneous Impressions of the 2020 Rainy Season in the Kanto-Koshin Region (Yusuke Suzumura)


The rainy season of 2020 in the Kanto-Koshin Region might not end by the end of July. In this occasoin I examine the record of the start and end of the rainy season from 1951 to 2019.

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OKAYA チャリティーコンサート 2020〈~感謝の夕べ~〉

昨日は、18時から19時50分まで、名古屋フィルハーモニー交響楽団による「OKAYA チャリティーコンサート2020 ~感謝の夕べ~」の実況配信を鑑賞しました。


今回は、愛知県芸術劇場コンサートホールを会場とし、無観客により行われました。演奏の模様はCBCテレビの撮影により配信されました。


この日取り上げられたのは前半がシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォとヴァイオリン協奏曲、後半がベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番で、ヴァイオリン独奏は福場桜子、ピアノ独奏は田村響、指揮は田中祐子でした。


協奏曲を2曲揃える構成は職業楽団の定期演奏会では目にする機会が少ないものの、「OKAYA チャリティーコンサート」では通例のようであり、興味深く思われました。


演奏については、福場が哀愁とともに躍動感を秘めたヴァイオリンにより音楽を牽引し、田村は粒の立った音を重ねることで後味の良い音楽を仕立て上げていました。また、田中は勘所を押さえ、的確であるとともに絶えず演奏者に共感を示す指揮が印象的でした。


ところで、今回の実況配信の視聴者は400人に満たないものでした。


もちろん、18時という開始時間や名古屋フィルの主催公演ではなく依頼公演であること、あるいは7月31日(金)から8月31日(月)まで収録された内容が配信され、8月13日(木)にはCBCテレビで取り上げられるといった条件が、視聴者数に影響を与えたのかも知れません。


それでも、今回登場した3人のように新進もしくは中堅の音楽家の演奏が実況配信される機会は必ずしも多くはないだけに、今後、より多くの視聴者を得るためのさらなる工夫が施されることが期待されるところです。


<Executive Summary>
The Nagoya Philharmonic Orchestra OKAYA Charity Concert 2020 (Yusuke Suzumura)


The Nagoya Philharmonic Orshestra's OKAYA Charity Concert 2020 was held at Aichi Prefectural Arts Theater, the Concert Hall on 28th July 2020. They performed Sibelius' Andante Festivo and Violin Concerto and Beethoven's 3rd Piano Concerto. Solo violin was Sakurako Fukuba, solo piano was Hibiki Tamura and conductor was Yuko Tanaka.

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サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果

去る7月20日(月)に発行された日刊ゲンダイの2020年7月21日号25面に、隔週で担当している連載「メジャーリーグ通信」の第73回「サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果」が掲載されました。


今回は、日本時間の7月24日(金)に開幕を迎えた大リーグにおいて、選手会と大リーグ機構・球団経営者による労使交渉がどのような意味を持っていたかを検討しています。


本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


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サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果
鈴村裕輔


大リーグの2020年の公式戦の開幕が日本時間の7月24日に迫っている。


今年3月に日程の変更が公表され、3月26日には5月下旬までの2か月分の給与について、年俸を日割りした額を保証することで選手会側と大リーグ機構とが合意した。


この時点では、残された問題は開幕日の設定という一点のみであり、新型コロナウイルス感染症の拡大の状況を見極められれば解決出来ると考えられていた。


だが、その後、機構と経営者側が「無観客での公式戦の実施という状況は3月当時と条件が異なるから、年俸の削減方法を変えるべき」と主張すれば、「双方が合意したのだから、機構も経営者たちも協定を遵守するのが当然」と選手会側も反発し、両者の溝は深まる一方だった。


最終的に機構側による「レギュラーシーズンを60試合制で実施する」という提案を選手会が否決したことから、6月22日にロブ・マンフレッドがコミッショナーとしての権限に基づき「7月24日前後に開幕し、試合数は60」という枠組みでの公式戦の実施を決定した。


一連の経緯を見れば、年俸の削減方法に関しては選手会側の「試合数に完全に比例させる」という主張が、試合数は選手会による「70試合制」ではなく経営者側の「60試合制」が適用されており、両者の対立は痛み分けとなったように思われる。


しかし、選手会にとっては、今回の交渉は最善ではないにしても次善の結果であった。何故なら、「収入を折半する」という機構・経営者側の案を頓挫させたからだ。


「収入の折半」とは試合数の減少に伴う選手の年俸の削減額を巡る交渉の中で出された案であり、選手に支払う年俸の上限を「球団の収入の半分」とすることは、実質的な年俸総額制(サラリーキャップ制)に他ならない。

 

大リーグは米国四大プロスポーツの中で唯一サラリーキャップ制を導入していない。また、経営者にとっては制度の実現が悲願であり、選手会にとっては阻止以外の選択肢はない。


もちろん、「かつてない非常事態だから」と妥協することもあり得るだろう。だが、2021年に新しい労使協定の交渉が控えている現状では、たとえ臨時の措置であっても実質的なサラリーキャップ制を認めれば、経営者側が「2020年に適用したのだから」と年俸総額に上限を設けることを既成事実とすることは明らかである。


その意味で、経営者たちの非常時にかこつけたサラリーキャップ制の導入を防いだことは、選手会にとって大きな成果だ。


そして、経営陣にとっては、今回の雪辱を晴らすべく、来年の労使交渉でサラリーキャップ制の実現を期すことになる。


両者の視線は、すでに2021年に向けられているのである。
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[1]鈴村裕輔, サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果. 日刊ゲンダイ, 2020年7月21日号25面.


<Executive Summary>
Which Was the Winner of the Player-Management Conflict in the MLB? (Yusuke Suzumura)


My article titled "Which Was the Winner of the Player-Management Conflict in the MLB?" was run at The Nikkan Gendai on 20th July 2020. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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『クラシック音楽館』の「日本のオーケストラ特集」が示した可能性は何か

昨日は、21時から23時までNHK教育テレビで『クラシック音楽館』を視聴しました。


今回は、7月19日(日)の放送に続き、「日本のオーケストラ特集」の第2回目で、オーケストラ・アンサンブル金沢、日本センチュリー交響楽団、九州交響楽団、京都市交響楽団、群馬交響楽団の演奏が取り上げられました。


各団の演奏に対する寸評は以下の通りです。


オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏は井上道義の指揮によりベートーヴェンの『エグモント』序曲を演奏しました。井上らしい計算された演劇的な指揮と全体に短めな節回しにより、均整の取れた演奏に仕上がっていました。


飯森範親の指揮による日本センチュリー交響楽団のハイドンの交響曲第77番の演奏は、瀟洒で朗らかな音楽となっていました。また、服部緑地野外音楽堂での「星空ファミリーコンサート」の様子も、大変微笑ましいものでした。


九響倶楽部の活動も紹介された九州交響楽団が取り上げたのは小泉和裕の指揮によるブルックナーの交響曲第1番第3楽章で、泰然として懐の深い演奏を披露しました。


京都市交響楽団は広上淳一の指揮でマーラーの交響曲第1番「巨人」の第4楽章を披露し、年を追うごとに軽やかさとしなやかさが増す広上の棒と京都市響の端然とした演奏が鮮やかな対比をなしていました。


最後に登場したのは設立初期の移動音楽教室で撮影された貴重な写真も印象的であった群馬交響楽団で、高関健により行われた演奏会形式によるヴェルディの歌劇『ファルスタッフ』の抜粋は、第400回記念となった定期演奏会にふさわしい、充実したものでした。


このような各地の交響管弦楽団の演奏を全国放送の番組が取り上げる意義については、すでに本欄の指摘するところです[1]。


それとともに、首都圏の楽団の演奏活動とテレビやラジオを通して放送される状況を考えると、新たな側面が見えてきます。


例えば、NHKから財政的な支援を受け、定期公演やその他の公演がテレビやラジオで放送されるNHK交響楽団や、ラジオ番組『ブラボー!オーケストラ』の公開収録を行うことで定期的に演奏が取り上げれられる東京フィルハーモニー交響楽団などを除けば、東京都に拠点を置くたの職業楽団の演奏が放送される機会は決して多くはありません。


もちろん、放送局を利用する以外にはレコードやCD、あるいはDVDなどの録音や録画を通してしか演奏活動を人々に伝える手段がなかった時代に比べ、現在では各団が主体的に演奏の様子を公開する方法を備えています。そのため、必ずしもテレビやラジオでの放送に拘泥する必要はないかも知れません。


あるいは、契約の兼ね合いもあって全国放送を行うことが難しい場合もあるでしょう。


それでも、各団の活動がより多くの人々に理解されるための一助としてテレビやラジオなどの在来の媒体の持つ意味は依然として小さくないことを考えれば、今回の「日本のオーケストラ特集」が対象を広げる、もしくは他の番組が類似の企画を行うなどして、全国の職業楽団の活動がより積極的に取り上げられることが期待されるところです。


[1]鈴村裕輔, 『クラシック音楽館』の「日本のオーケストラ特集」が持つ大きな意義. 2020年7月20日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/a832d515cee4d1dec3c89799ea97a33c?frame_id=435622 (2020年7月27日閲覧).


<Executive Summary>
A TV Programme "Classical Music Hall" Has a Possibility to Take More Important Role to Promote Activities of the Orchestras in Japan (Yusuke Suzumura)


A TV programme Classical Music Hall broadcasted by NHK Educational featured selected concerts of local cities in Japan on 26th July 2020. It is remarkable efforts for each local orchestra and it might be able to take more important role to promote activities of the orchestras in Japan.

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【記事掲載案内】「大リーグ7月24日開幕 浮き彫りになった選手会と機構・経営者の根深い対立」(論座)

去る7月23日(木、祝)、朝日新聞社の言論サイト「論座」に私の論考「大リーグ7月24日開幕 浮き彫りになった選手会と機構・経営者の根深い対立」が掲載されました。


今回は、日本時間の7月24日(金、祝)に2020年の公式戦が開幕した大リーグに焦点を当て、開幕に向けた労使交渉の持つ意味を検討しています。


有料記事となっていますが、冒頭部分は無料で公開されますので、ぜひご覧ください。


[1]鈴村裕輔, 大リーグ7月24日開幕 浮き彫りになった選手会と機構・経営者の根深い対立. 論座, 2020年7月23日, https://webronza.asahi.com/national/articles/2020072100006.html.


<Executive Summary>
Announcement of Articles: The Opening of 2020 MLB Regular Season Shows a Future Player-Owner Conflict (Yusuke Suzumura)


My articles entitled with "The Opening of 2020 MLB Regular Season Shows a Future Player-Owner Conflict" is run on the RONZA on 23rd July 2020. In this articles I examine a process to open the regular season between the MLBPA and the owners and a possibility of a future player-owner conflict.

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