MISC

2013年5月

地域在住高齢者における虚弱評価の再考 要介護認定および転倒と虚弱の各構成要素との関連

日本理学療法学術大会(Web)
  • 阿南祐也
  • 吉田大輔
  • 牧迫飛雄馬
  • 島田裕之
  • 朴眩泰
  • 土井剛彦
  • 堤本広大
  • 上村一貴
  • 李相侖
  • 伊藤忠
  • 鈴木隆雄
  • 全て表示

48th
0
開始ページ
E-P-09(J-STAGE)
終了ページ
48100706
記述言語
日本語
掲載種別
出版者・発行元
公益社団法人 日本理学療法士協会

【はじめに、目的】一般的に、虚弱とは健康に関する脆弱性を有する状態であり、生活機能障害、転倒、入院、死亡などの有害事象の要因となる。虚弱をどのように定義するか様々な指標が提案されており、代表的なものとしてFriedら(2001)の定義が挙げられる。その定義では、体重減少、疲労感、身体活動低下、歩行速度低下、握力低下の5項目を評価し、3項目以上に該当した場合を虚弱と定義している。この定義では虚弱の構成要素とされる各項目の影響力が同列に捉えられているが、虚弱の帰結として生じる要介護状態や転倒に対する各項目の影響力は異なると考えられる。そこで、本研究では、地域在住高齢者における虚弱評価の在り方を再考するために、虚弱の構成要素とされている5項目それぞれが有する要介護認定や転倒経験の有無に対しての影響力の違いを比較することを目的とした。【方法】分析に用いたデータは、2011年8月~2012年2月に実施されたObu Study of Health Promotion for the Elderly (OSHPE) に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち、虚弱に関する先行研究に準じ、パーキンソン病または脳卒中の既往歴を有する者、Mini-Mental State Examinationが18点未満の者を除外した4,745名(平均年齢72.1±5.6歳、女性2,459名、男性2,286名)を分析対象とした。虚弱の構成要素とされている各項目の基準について、体重減少は「この2年間で体重が5%以上減少したか」に「はい」と回答、疲労感は「自分は活力が満ちあふれていると感じるか」に「いいえ」と回答、身体活動低下は「軽い運動・体操」および「定期的な運動・スポーツ」を「していない」と回答、歩行速度低下は男女とも1.0m/秒未満、握力低下は男性26kg未満、女性17kg未満とした。統計分析は、要介護認定の有無と過去1年間の転倒経験の有無のそれぞれに対して、性別、年齢、体重減少の有無、疲労感の有無、身体活動低下の有無、歩行速度低下の有無、握力低下の有無を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を用いてオッズ比を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を書面および口頭にて説明し、同意を得た。【結果】要介護認定を有する者は110名(2.3%)、過去1年間の転倒経験を有する者は698名(14.7%)であった。虚弱の構成要素とされている各項目の該当数は、体重減少576名(12.1%)、疲労感2,093名(44.1%)、身体活動低下1,389名(29.3%)、歩行速度低下795名(16.8%)、握力低下622名(13.1%)であった。要介護認定の有無に対しては、体重減少、疲労感、歩行速度低下において有意な関連が認められ、オッズ比はそれぞれ1.87(95%信頼区間:1.16-3.04, p=.011)、1.71(95%信頼区間:1.09-2.68, p=.019)、5.13(95%信頼区間:3.12-8.45, p<.001)であった。また、転倒経験の有無に対しては、疲労感、身体活動低下、握力低下、歩行速度低下において有意な関連が認められ、オッズ比はそれぞれ1.39(95%信頼区間:1.18-1.64, p<.001)、1.28(95%信頼区間:1.07-1.53, p=0.06)、1.27(95%信頼区間:1.01-1.60, p=.042)、1.53(95%信頼区間:1.23-1.90, p<.001)であった。【考察】要介護認定や転倒経験の有無に対して、年齢や性別を調整した後も虚弱を構成するとされる各要素は有意な関係性を有していることが確認された。なかでも、歩行速度低下の有無は要介護認定および転倒経験の有無のいずれに対しても有意に関連することが認められ、他の要素と比較して高いオッズ比を示した。このことより、虚弱の多様な構成要素のなかでも、歩行速度の低下は高齢者の要介護認定や転倒リスクにつながる虚弱性の把握において、より重要性の高い評価であることが示唆された。歩行速度の低下は、高齢者の認知機能低下や死亡率などとも関連することが報告されており、要介護や転倒の予防を目的とした介護予防事業などにおいて虚弱性のリスクが高い高齢者をスクリーニングする場合、これまでに虚弱の構成要素として報告されている項目の中でも歩行速度低下を有する対象者に主眼を置く必要性が高いと考えられる。しかしながら、本研究は横断研究による結果であるため、今後、要介護認定や転倒、入院、死亡などの発生に対して前向きに検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究ではこれまでに提唱されている虚弱という漠然とした概念の中から、要介護認定や転倒との関連性が強い虚弱状態の把握には歩行速度低下の項目が重要であることを示した。この知見をもとに対象者のスクリーニングを行うことで効果的な運動介入の実施が期待できるものと考える。

リンク情報
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502236106510043
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004585154
URL
http://jglobal.jst.go.jp/public/201502236106510043
ID情報
  • ISSN : 0289-3770
  • eISSN : 2189-602X
  • 医中誌Web ID : 2014279228
  • J-Global ID : 201502236106510043
  • CiNii Articles ID : 130004585154
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000258379446

エクスポート
BibTeX RIS