経済学部で西洋経済史(経済史II)を担当しています。西洋経済史は、経済学と歴史学そして外国研究の学際領域です。先進諸国の経済の成り立ちを学ぶことで、我々の生きる日本経済の在り方をone of themとして相対化し、現代経済の特徴や方向性をより良く理解しようとします。西洋経済史の面白さは、我々の日常生活の背景に、常識だけでは見えてこない経済メカニズムや歴史的経緯が動いていることを発見できることです。 自分の研究テーマとしてはとくに、20世紀の建設談合の国際比較に関心があります。「日本の政府・経済・社会システムは特殊だ」と国際世論で良く言われるけど、ヨーロッパにも日本同様に特殊性があるのではないか、アメリカは本当に普遍的なのか、という話です。研究教育と趣味の中間みたいなものですが、『しゃりばり』という月刊誌で「食の透視画法」という連載もしています。食べ物をめぐるエッセイに包んで、実は経済史やグローバリゼーションの議論を展開しています。 講義としては、大学院のゼミ、学部のゼミに加え、3年生用の経済史II(西洋経済史)と1年生用の全学教育科目を交互に教えています。ぼくは7年間のパリ留学の後に北大にはじめて来たのですが、北大生の第一印象は黙々とノートを取り真面目で優秀という感じでした。しかし、ふたつ驚いたことがあります。ひとつは、「質問はありませんか?」と聞いてもシーンと何の反応もなかったことです。もうひとつは、留学奨学金への応募率が首都圏の10分の1ほどで道外への関心が低いことです。 そこでいくつか試行錯誤をしてみました。まず、講義の最後で毎回、ポイントや質問・感想を書いてもらい、次の講義でそれに答えるようにして、コミュニケーション・ノートを作りました。すると、質疑応答が急増したのには驚きました。また、講義やゼミの中で交換留学や奨学金を積極的に紹介し、授業後の相談にも乗るようにしました。その結果、ゼミ員の半数は在学中に一度は海外留学に挑戦し、某奨学金の北海道応募者の3分の1が西洋経済史の受講者で占められるようになりました。要するに、講義への質問・意見を思いつかなかったり、海外留学への希望がなかったりしたのではなく、それらを表現するための回路がなかったようなのです。 その意味では、(北大型の?)教育メソッドが必要とされているのかもしれません。同時に、新入生の皆さんにも知ってもらいたいことがあります。教師は、テレビ画面の向こうにいる無機質な存在ではなく、学生の姿勢に敏感に反応するものです。教師から謙虚にものを学ぼうとする姿勢も結構ですが、教師もまた、学生の若い知性と情熱から自分にない感性や新たな刺激を得ようと期待しているのです。 最後に新入生に勧めたいことは、3つあります。第1に、意識的に古典を読みためること(岩波文庫、ちくま文庫、講談社学術文庫、中公文庫)、第2に、語学を口語から実践的に習得すること(英語ともうひとつ)、第3に、専門の理論科目を面倒臭がらずに学ぶこと(経済ならマクロ、ミクロ、統計、マルクス、会計等)。いずれも、20歳前後の頭の柔軟なときにしかできないことですが、後になって必ず財産になってくれます。 また、大学での勉強は、暗記重視の受験勉強とは異なり、自分の頭で考え行動することがもっとも大切です。学生同士で議論ができる小人数の演習形式の講義は、教師との距離も近く、大学教育の粋です。1-2年生でも、一般演習や論文指導科目はぜひ取ると良いでしょう。また前述のように、北大には交換留学制度があり、民間の留学奨学金などもありますが、最初の一歩を踏み出すのは自分しかいません。自主的に情報収集し諸準備の責任を取る必要があります。 いずれにせよ、大学1年生ほど楽しい時期は人生にないかもしれません。思い切り学び、苦しみ、泣いて、笑うことを、かつては同じく大学新入生だった者として大いに応援します。エルムの木陰に集う若者たちの、夢に熱あれ、前途に幸あれ! ぼくは東京生まれですが、ニューヨークとロンドンで幼少時を過ごし、パリに7年間留学をしてから、はじめて札幌に来ました。海外からの直接赴任は珍しくなく、先生方は全国各地から集まって多士済々です。 大学に進むときに学部選択でとても悩みました。