講演・口頭発表等

2005年

北パタゴニア氷原・エクスプロラドーレス氷河の流動特性

日本地理学会発表要旨集
  • 青木 賢人
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  • 澤柿 教伸
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  • 松元 高峰
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  • 佐藤 軌文
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  • 岩崎 正吾
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  • 安仁屋 政武

1. はじめに 近年の環境変動に伴う海面上昇の実態解明は緊喫の課題となっている.南半球においては南極氷床に次ぐ17,200 km2: (Aniya et al., 1996)を占めるパタゴニア氷原からの排水量は1944 年以降の海水準上昇の 3.6 % に相当すると見積もられており (Aniya, 1999),氷河面積に比して寄与率が高い.しかし,パタゴニア氷原の氷河変動に関する知見は十分に蓄積されていない. 演者らは,2003年12月からパタゴニア北氷原の北東縁に位置するエクスプロラドーレス氷河において氷河環境の実態解明の一環として,流動速度の観測を行っている(澤柿ほか,2004).本発表では 2004 年 12 月に行った現地調査の成果を報告し,流動特性の規定要因を検討する.エクスプロラドーレス氷河は雪崩涵養型の溢流氷河であり,SanValentin山 (3,910 m) の北斜面から北北東方向に流下し,高度約 200 m 付近に達する.全長は約 30 km,氷河末端付近の約 2 kmは起伏に富むデブリ域となる.2. 観測2003年12月に氷河上のデブリに設置した流動観測点(G1_から_G6)のうち,2004年12月にはG1を除く5点が確認された.G1は拡大した池に水没したものと思われる.また,G4は横転しており,岩の側面に改めて測点を設置した.G2_から_G6については2003/04の年間流動速度を算出した.位置の測定は一周波(L1)のGPS干渉測位により,Fix解を得た.ただし,2003年と2004年の測量基点は異なり独立に単独測位を行っている.また,2004年にはこの他に7カ所の短期流動観測点を氷河上に設置するとともに,流動観測点における表面融解量の測定,氷河上および氷河末端における気象観測を同期して行っている.3. 流動速度G2_から_G6のそれぞれについて複数回の測位を行い,短期流動速度を算出した.2003年の観測期間とほぼ同じ時期であり,気温観測結果(未公表)から,融解進行期であることが確認された.04年では03年の短期流動速度(表:澤柿ほか,2004を改訂)と比べ,G4を除き速度が増加している.短期流動速度の差の規定要因については,融解量,気象観測結果と合わせ検討を進め,当日報告する.さらに年間流動を算出した.消耗域末端付近のデブリ域(G2,G3)においては50_から_60m,中流部の裸氷域(G4_から_G6)では100_から_150mの流動が確認された(表).デブリ域と裸氷域の流動速度には差があり(図),デブリ域の起伏の形成に寄与していると推定される.