2004年11月
予防原則は政策の指針として役立たないのか?
現代社会研究
- ,
- 巻
- 7
- 号
- 開始ページ
- 163
- 終了ページ
- 175
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
- 出版者・発行元
- 京都女子大学現代社会学部
本稿の中心的な問いは「予防原則は政策の指針として役立たないのか」である。この問いを明らかにするために、予防原則に批判的な立場からの主張を検討する。予防原則批判の特徴は、まずこの原則の定義を弱い理解と強い理解に還元し、それ以外の定義はすべて予防原則ではなく他の修正原理として位置づける点にある。その上で、予防原則を支持することは、今日広く受け入れられている弱い予防原則の主張か、そうでなければ極端な内容をもつ強い予防原則の主張かのいずれかになるとして後者の徹底的な批判が展開される。このような予防原則に批判的な議論によれば、この原則が人々の広範な支持をえているのは、人々のリスク認知の限界によるものである。この認知的な限界を克服するものとして提案されるのが、CBA(費用便益分析)の簡便法的な利用である。しかし、このアプローチが主要な目標とするのは環境リスクの適切な制御ではなく、むしろ環境リスクに関する社会的合意の形成にある。この合意を形成するために、人々は規制政策の利益と費用の定量化された情報に注目させられ、どのような社会に生きたいのか、あるいは新技術の導入は人々をリスクにさらすだけの価値があるのか、といった問いは排除される。予防原則の支持者が重視するのは後者のような問いであり、環境リスク政策の根底にすえられるべきものである。予防原則は、科学的なフレーミングの不断の更新や社会の在り方や人々の生き方に関する継続的な議論を導くものである。そうした継続的な活動によって環境リスク政策の信頼性と正当性が確保されうるのである。
- リンク情報
- ID情報
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- ISSN : 1884-2623
- CiNii Articles ID : 120005303288
- CiNii Books ID : AA11529465