2016年3月
日本の博物館はなぜ無料でないのか?―博物館法制定時までの議論を中心に―
追手門学院大学心理学部紀要
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- 巻
- 10
- 号
- 開始ページ
- 13
- 終了ページ
- 31
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
- 研究論文(大学,研究機関等紀要)
- 出版者・発行元
- 追手門学院大学
日本の博物館法の第23 条には「原則無料」という規定があるにもかかわらず、日本の博物館の約7 割は常設展を有料としている。本稿では、博物館法成立以前の『博物館研究』に掲載された入館料に関する考え方を網羅的に取り上げた。入館料がある種の入場制限になるという考え方に、当時の博物館関係者は違和感を持たなかったことが複数の記事から推定される。戦後の博物館法制定過程、博物館法制定後も、当時の博物館関係者は有料の意味を積極的に認め、特に「入場制限」を肯定的に捉えていた。<br />
戦前の「図書館令」は閲覧料ないし使用料を徴収することが可能で、社団法人日本図書館協会、文部省によるいずれの「公共図書館法案」とも閲覧料徴収の余地を残し、協会側からは無料を「原則無料」とする「但し書」を加えるよう要望されていた。また、「入館者の無制限制度は館内整理上不都合をきたす面がある」という発言もなされていた。<br />
日本の戦後の法制定過程では、博物館・図書館ともに無料入館に対しては本来の利用者でないと考えられた人々を排除することが意識されていた。図書館法には占領軍の強い意向で無料閲覧制が導入されたが、博物館法・図書館法ともに制定時に日本人の側から「無料制によってすべての人に教育の機会が与えられる」という考え方が育つには至らなかった。<br />
博物館を無料にする根拠としては、(1)ユネスコ勧告、(2)アメリカの図書館関係者による教育の機会均等の考え方、(3)「社会統制のツールとしての博物館」、の3 つの観点を取り上げた。英語圏では「博物館の無償化=社会階層間の格差の是正」が念頭にあるが、日本では低所得者層に対して優遇策を設ける発想がなかったため、いまだに博物館を無料化する意味を認識できないものと考えられる。
戦前の「図書館令」は閲覧料ないし使用料を徴収することが可能で、社団法人日本図書館協会、文部省によるいずれの「公共図書館法案」とも閲覧料徴収の余地を残し、協会側からは無料を「原則無料」とする「但し書」を加えるよう要望されていた。また、「入館者の無制限制度は館内整理上不都合をきたす面がある」という発言もなされていた。<br />
日本の戦後の法制定過程では、博物館・図書館ともに無料入館に対しては本来の利用者でないと考えられた人々を排除することが意識されていた。図書館法には占領軍の強い意向で無料閲覧制が導入されたが、博物館法・図書館法ともに制定時に日本人の側から「無料制によってすべての人に教育の機会が与えられる」という考え方が育つには至らなかった。<br />
博物館を無料にする根拠としては、(1)ユネスコ勧告、(2)アメリカの図書館関係者による教育の機会均等の考え方、(3)「社会統制のツールとしての博物館」、の3 つの観点を取り上げた。英語圏では「博物館の無償化=社会階層間の格差の是正」が念頭にあるが、日本では低所得者層に対して優遇策を設ける発想がなかったため、いまだに博物館を無料化する意味を認識できないものと考えられる。
- リンク情報
-
- CiNii Articles
- http://ci.nii.ac.jp/naid/110010010733
- CiNii Books
- http://ci.nii.ac.jp/ncid/AA12209029
- ID情報
-
- ISSN : 1881-3097
- CiNii Articles ID : 110010010733
- CiNii Books ID : AA12209029