論文

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2014年3月

集合行為のジレンマの解決メカニズム

東京工業大学社会理工学研究科価値システム専攻 博士論文
  • 鈴木 鉄忠

開始ページ
1
終了ページ
181
記述言語
日本語
掲載種別
学位論文(博士)

本論文は『集合行為のジレンマの解決メカニズム』と題し,全7章からなる.本論の目的は,〈どのような条件の下で集合行為のジレンマが解決されるのか〉という問いを数理モデルで定式化し,それの解決メカニズムを明らかにすることである.
第1章では,先駆的研究であるM・オルソンの『集合行為論』(1965)を踏まえ,集団成員の自己利益と集団全体の共通利益が両立しない「集合行為のジレンマ」を解くべき問題とした.この問題に対して,戦略的な相互依存の分析に適したゲーム理論から分析することの意義を論じた.利害の相克から相乗へと至る条件の解明を「ジレンマ解決」とみなし,その方策を内部的解決―集団内部の要因のみからジレンマ解決を図る場合―と外部的解決―集団外部の「第三者」の介入から解決を図る場合―に区別して問題設定した.
第2章では,先行研究を概観し,集合行為のジレンマを「N人チキンゲーム」として定式化できることを吟味した.このモデルは,住民投票のように,ある一定数(臨界点)の協力が集まって初めて集団の共通利益が実現する状況を定式化したものである.しばしば取り上げられるN人囚人のジレンマ・ゲームと比べて,ステップ型の集合財関数をもつジレンマを定式化でき,ジレンマの発生と解決の双方を均衡として捉えられ,さらに「フリーライダー」の明示化が可能という点で優れたモデルである.社会運動研究との接点を探りながら,第3~4章ではジレンマの内部的解決,第5章では外部的解決に取り組み,第6章ではモデル分析の事例検討を試みた.
第3章では,ジレンマの内部的解決の要因として「連帯集団」―コミュニティや組織・団体に統合された人々の集まり―に着目した.人々の提携可能性を考慮した「強ナッシュ均衡」の概念を導入し,戦略形N人チキンゲームで定式化した.分析の結果,連帯集団が成員間のコミュニケーション回路として機能することで,共通利益の実現に必要な提携が可能となり,ジレンマが解決されることがわかった.この知見は,「集団まるごと加入」から動員へという資源動員論の主張を説明するものであった.
第4章では,集団成員間に意思決定の時間的なズレが存在する場合に着目し,逐次手番N人チキンゲームで定式化した.分析の結果,もし意思決定の時間的なズレに関する情報がすべての成員にいきわたっている場合,先手が後手の協力を見込んで自覚的にフリーライドすることにより,ジレンマが解決されることがわかった.この知見は,「買いだめ」のような獲得パニックを説明するものであった.新たな論点として,常に先手有利でジレンマが解決される点が挙げられ.そこで情報の完全性の仮定を緩めると,先手の有利さが弱まるかたちでジレンマが解決されることがわかった.
第5章では,G・ジンメルの三者関係論に着想を得ながら,集団外部の「第三者」の介入によるジレンマの外部的解決を分析した.第三者と二者の関係を,第三者の3つのタイプに応じて,仲裁者,漁夫の利,分割統治の非協力ゲームとして定式化した.分析の結果,いずれの第三者のタイプでもジレンマが発生するが,仲裁者ゲームでは,十分な仲裁力をもつ第三者が二者の非協力行動を抑止することでジレンマを解決し得ることがわかった.漁夫の利ゲームでは,第三者が二者の利益を横領する力が強くなり過ぎると,二者が協力可能性をもつことがわかった.分割統治ゲームでは,漁夫の利以上に第三者の影響力が強くなり,二者間の協力も困難になることがわかった.さらに,第三者と3人チキンゲーム下にある三者との関係を分析した.いずれの第三者のタイプでもジレンマが発生するが,僅かな仲裁力をもつ第三者がジレンマを解決し得ることがわかった.また漁夫としての第三者の横領力が強まると,三者全員が協力しうることもわかった.社会運動研究では,運動集団に対する政府の反応を分析するのに有効なモデルであることが示された.
第6章では,イタリア・トリエステの地域福祉団体の事例からモデル分析の知見を検証した.事例分析の結果,「精神病院廃止運動の成功例」とされるトリエステの地域福祉団体でも社会的トラップ型の集合行為のジレンマが発生し,その解決のために団体外部からコーディネーターが介入している状況が明らかになった.ジレンマへの対処策として,第1にコーディネーターによる団体成員への正の選択的誘因の提供がなされ,第2に成員自身の自己変化を促して団体活動の能動的参加者になること(「主人公になること」)を支援する取り組みがなされていた.前者は本論のモデル分析に積極的にあてはまる点であった.後者はモデル分析をこえて社会運動研究の文化アプローチと接点をもつことを示しており,さらなる理論的・方法論的な進展がありうるとの示唆を得た.
第7章では,本論の知見を整理し課題を示した上で,今後の方向性を展望した.

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