MISC

2016年7月

テナガザル類における声門の形態比較とその機能適応について

第32回日本霊長類学会大会
  • 西村 剛
  • ,
  • 今井 宏彦
  • ,
  • 松田 哲也

32
開始ページ
B16
終了ページ
47
記述言語
日本語
掲載種別
研究発表ペーパー・要旨(全国大会,その他学術会議)
DOI
10.14907/primate.32.0_47_2
出版者・発行元
日本霊長類学会

<p>テナガザル類は、東南アジアの熱帯林の樹冠に生息する小型類人猿で、現在、Hylobates, Hoolock, Symphalangus, Nomascusの4属に分けられる。この4属に共通して、高いピッチの純音的で大きな音声で朗々と歌う「ソング」とよばれる音声行動で有名である。その音声は、ヒトのソプラノ歌唱と同様に、声道共鳴の第一フォルマントに声帯振動のピッチを合わせる発声・構音方法でつくられる。音声のピッチや大きさは、主として、喉頭にある声帯の振動によって決まり、その声帯振動は、声帯自身の弾性の高さと呼気流の勢いによって決まる。特に、声帯の弾性は、声帯の内部にある声帯筋の収縮に加えて、喉頭軟骨同士の位置関係の変化によって変わる。本研究は、テナガザル4属の摘出喉頭標本を高解像度MRIにより撮像し、その画像データをもとに喉頭声帯の形態学的特徴を多角的に比較し、その機能的適応を考察した。喉頭室は、Symphalangusは喉頭外に伸びて喉頭嚢を形成するが、それ以外の3属では喉頭内で嚢状にとどまる。前者は大型類人猿に共通するが、後者はヒトと共通する。テナガザル4属に共通して、声帯筋が薄く、披裂軟骨の長い声帯突起から伸びる声帯靭帯により、薄い声帯膜が形成される。また、気管軟骨が輪状軟骨の内側に入り込んで、声帯靭帯につながる弾性靭帯が短くて厚い。これにより、声帯膜の弾性は高く維持されやすい。さらに、披裂軟骨には、弾性靭帯側へ大きく膨らむ突起があり、披裂軟骨の内転により、声帯膜の弾性が高めるとともに、声門下の弾性靭帯部で気管径を狭める。これにより、声帯弾性を高めると同時に、呼気流の勢いを容易に強めることが可能である。これらの解剖学的構成は、ヒトや他の類人猿と共通するものの、その形態学的特徴は、高く大きな声帯振動を作り出すとともに、その急激な変化を容易にするのに適していると考えられる。</p>

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14907/primate.32.0_47_2
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005418810
ID情報
  • DOI : 10.14907/primate.32.0_47_2
  • CiNii Articles ID : 130005418810

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