2021年12月
「シティ・ポップ」はなぜ発掘されてしまったのか?──レトロトピアとしての未来
FAB
- 巻
- 2
- 号
- 2
- 開始ページ
- 37
- 終了ページ
- 60
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
- 研究論文(大学,研究機関等紀要)
- 出版者・発行元
- 国際ファッション専門職大学
1970 年代後半から 1990 年代前半にかけての日本で制作されたポップミュージックが、いま、 海外の感度の高い音楽ファンたちのあいだで話題になっているという。我が国が未曾有の好景 気に沸いた 1980 年代に制作された、都会的な雰囲気を持つ楽曲群を総称して一般に「シティ・ ポップ」と呼ぶが、なにゆえ約 40 年前の音楽がいまになって世界から再発見され、再評価され てしまったのだろうか。その奇妙なムーブメントの起源には、インターネットを活動の場とする 世界の在野アーティストたちによって形成された音楽の潮流「Vaporwave」がある。Vaporwave はネット上を漂流するさまざまな音源、画像、映像をサンプリングし、リミックスし、マッシュ アップし、まるで蒸気の波に包まれたような不思議なサウンドスケープを描き出すが、その際、 頻繁に使用されるモチーフが消費社会の理想郷としての 1980 年代の日本(≒東京)というイメー ジである。本論ではシティ・ポップ流行の種を発芽させた誘因として、いま、世界中で蔓延し つつある新自由主義への不信と絶望を挙げ、2017 年に急逝した英国の音楽評論家であり哲学者 のマーク・フィッシャーのテキストを援用しながら、「過去こそが未来であった」という「レト ロトピア」的な現代の倒錯した深層心理を探る。最後に、幽閉された現在からのよりアクロバ ティックな脱出の企図と目される「加速主義(Accelerationism)」、さらにはそれを技術的な側 面から担保する「シンギュラリティ」待望論にも言及する。
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